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真野編

真奈の1

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恋は暫く諦めたから仕事をバリバリ頑張ろう!
そう思っていた私だったけれど残念ながらそれは叶わなかった。

最近ペアを組むことになった真野さんは御歳五十歳近い大先輩。
イケオジでは無いがカ●オ風の坊主頭で寂しくなった頭頂部に潔く見切りをつけている優しめの性格の男性だ。完全にプライベートでの知り合いならソコソコ好感を持てたに違いない。

仕事上での真野さんは中々に厄介な存在で役付きから転落してきたいわく付きというレッテルが貼られており、数値の入力間違いは当たり前で書類は期限ギリギリかアウトが八割。
ペアを組んでる私に苦情が殺到しチェックばかりが増えていく。

「真野さん…これの前の処理終わっててますか?」

「え?たぶん?ちょっと待って……ごめんごめん。まだやってないや。」

毎日何回もこんな感じで気が抜けなさ過ぎて精神がすり減る。しかも恐ろしい事に真野さんは思い込みの達人でウワサ好き。
休憩所でたまたま二人きりになった男女が次の日にはまのさんの手によって秘密の恋人になる事も。

周りの人達は同情してお菓子やコーヒーをよくくれるようになった。

「先輩……私は会社に何の不利益をもたらしたのでしょうか……。」

「大丈夫よ。皆が平等に被害者になるの。モモ鉄でキングボ●ビーが来るみたいなものよ。」

「早く去って欲しい存在ですね…。」


そんな会話を先輩として二週間が経ったが真野キングボ●ビーさんとはまだ離れられない。

「冬月く~ん。これやっておいて~。」

「?!真野さん…コレ期限今日ですよ?!もらったのいつですか!!」

「え?先週の~…いつだったかな。」

「……とりあえず資料集めてきます。」

何故こんな目にあわなくちゃいけないのだろう……。
指名した部長を恨みそうだよ。

「大丈夫?手伝おうか?」

「せんぱ~い!女神様ですか!!」

「はいはい。何からやろうかって真っ白か…とりあえずフォーマット作ってるから資料持ってきて~。」

「ダッシュで行ってきますっ!」

私が資料にかけ出すと廊下で男性にぶつかりそうになった。ヤバいと思って目をつぶったけど衝撃はない。

「大丈夫?」

「は、はい!すいませんでした。」

男性が私の肩を掴んで衝突を避けてくれたので大事には至らず、私は数回頭を下げた後に早歩きで資料室に向かった。

先輩のおかげで何とか一時間の残業で済み本当に大感謝!定時で去って行った真野さんとは天と地の差だよ。

こんなのいつまで続けなきゃいけないんだろ……部長に直談判しようかな。
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