甘い言葉を囁いて

聖 りんご

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じゅうさん

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「ふふふ。久しぶり、ミシュ。」

「そのお声はサラ…さんですね。馴れ馴れしく呼ばないで下さい。」

「まあ酷いっ!私達、仲良くやってきたじゃない。」

ドリンクをかけられ連れ去られた場所は何処かの一室。
私を連れてきた方はドアの前で見張りをしているみたいです。
室内にはサラだけなのが幸いです。

「貴方はレン兄さまを裏切りました。なのに今まで通りな訳がありません。」

「いいえ。貴女が取り持ってくれればレンとはまた元通りです。もし気が進まないならフラット様でもヘンリー様でも良いわ。」

「私がレン兄さまと貴女を取り持つ事はありません。ハリー様も、私の婚約者様ですから同様です。
エルメ公爵子息は……捨てられてましたよね。」

「黙りなさいっ!」

パシンって音と共に頬に痛みがはしる。
ちょっと素直に言い過ぎました。
一度振り上げられた手は再度私に振り下ろされてくる。
ガードするけど腕が痛い。

「なんでっ!男爵家のゴミが大切にされてんのよっ!!ゴミはゴミらしく目立たない場所で捨てられてるべきでしょっ!
なのにレンに優しくされて調子にのってフラット様に媚びたと思ったらヘンリー様と婚約?

そこは~!私の場所だからっ!」

思いっきり脇腹を蹴られて膝をつくとそのまま今度は蹴りの雨になる。
この夜会は社交界でも美食家と名高い伯爵家の主催でロードウィン家とも親しい。
揉め事は不味いのに…。

「何をなさっているのかしら。」

いきなりドアが開いて凛とした声が響いた。
この声には聞き覚えがある。
どうやら最悪の事態になってしまったみたい…。

「伯爵…夫人。こ、これは彼女が調子が悪そうだったので介抱を!」

「介抱?見張りをつけて…外まで醜悪な声が漏れていましたよ。
今日デビューしたばかりのか弱い少女にこの様なアザができる介抱とは一体何でしょうね?」

「あ…そ、それは…こ、転んでしまったみたいです!目が不自由だから何かにつまづいたみたいですわ。
夫人が来られたのなら心配はありませんね。私はこれで…。」

苦しい言い訳をしてそそくさと立ち去ろうとするサラの足音はドアの前で止まった。
きっと夫人に通せんぼされたのね。

「「逃がす訳が無いだろう。」」

「「ヒッ!!」」

聞きなれた声なはずなのに…。
震えが止まらない。

「夫人、許可が出る前に申し訳ございません。ミシュが…彼女の姿が見え我慢ができませんでした。」

「私からも妹を救って頂いた事に感謝を。そして、お言葉を無視し申し訳ございません。」

「はぁ…謝罪も感謝も必要ありません。私の方こそ我が家でこの様な事が起こってしまった事、深くお詫びします。
…部屋を汚さないでいただけるならば、多少の事は目を瞑りましょう。」

……私も目を瞑り意識を手放しましょう。
心も身体も限界です。




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