甘い言葉を囁いて

聖 りんご

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じゅうご

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あの夜会から二週間、私の傷はすっかり癒えて平和が戻っています。
一昨日ハリー様のお母様からサラの事で話がありました。
家は没落し平民としてサラは男の方々をもてなす仕事を始めたのだそうです。
男の方々とという事は私とはもう会うことは無さそうですね。

あの一件以来ハリー様の溺愛度は増して恥ずかしいけれど少しだけ、本当に少しだけ慣れてきました。

「そういえば、ミシュはその眼を医者に見てもらった事はあるの?」

「いいえ。そういった事はありません。」

「じゃあ、一度見てもらわないかい?」

「この眼は一度も開いた事が無いので無駄になってしまうかもしれませんが…。」

「ミシュに関わる事で無駄な事なんて一つもないよ。」

ハリー様は私の手をそっと撫でました。
私はハリー様の気持ちに応えて明日医師に見てもらうことにしました。
いつも熱を出しても部屋で寝ているだけだったので実は人生初のお医者様なのです。ドキドキしますわ。




翌日、お医者様がみえ私の診療は始まりました。
お医者様は女性で少々年配の方みたいです。
私の後ろにはハリー様がいてくれています。

「それでは、目を開けてください。」

「あの…目はどう開いたら良いのでしょうか。」

「瞼を動かされた事はありませんか?」

「はい。ずっと閉じたままです。」

「ふむ……。では少々失礼して私が触れてもよろしいでしょうか。」

「はい。」

目の辺りに指の感触がして上に引っ張られる感覚がしました。
私の目は今、開いているのかしら。

「…少し力を抜いていただけますか。」

「あの…力は入っていません。」

「左様ですか…ではもう少し力を入れさせていただきます。」

あれ…?今、一瞬何か……。

「ふむ…。お嬢様、今から私が言う方向を意識していただけますか?」

「はい。」

お医者様は上下左右ランダムに指定してきました。
今いる部屋のつくりは把握しているので花瓶や絵画を意識してそれに応えているとお医者様は少し驚かれてました。

「では最後に、陽の光は感じられますか?」

「はい。明かりが無ければ黒く、昼間や蝋燭の近くは少し白っぽくなります。」

これはレン兄さまから教えて貰った事。
私の識別できる唯一の色。

「左様ですか…。ではこれにて診療を終わらせていただきます。
結論から申しまして、お嬢様の眼は見えております。」

「「え?」」

「しかし、瞼が開きません。」

「それはどうすれば良いんだ。」

「……私には何とも。ただ、他の盲目の方々は瞬きをされます。お嬢様のように閉じたままという事は無いのです。」

私の目は…みえてる…?本当に?
ならどうして……。
私の目からは涙が溢れて止まらずハリー様を困らせてしまいました。ごめんなさい。
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