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第20章 HIGH RAIL星空探訪 at 小海線
HIGH RAIL星空探訪③
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宵闇の中を『HIGH RAIL』が疾走していく。その姿は、まさに星空が高速で流れているかのようであろう。
窓の向こうは漆黒の闇。外の景色は何1つ見えない。
以前乗車してわかったことなのだが、小淵沢を発車してしばらくは高原地帯及び山間部を抜けていくのだ。つまり、灯りになるものは多くない。だから、車窓が全く見えないのだ。
それもある意味ローカル線の醍醐味だと思う。加えて、星空がモチーフの『HIGH RAIL』にはピッタリの沿線と言えるだろう。
発車して少ししてから、星空案内人による星座解説が始まった。星座早見表が配られて、秋の夜空の説明が行われる。
神話を交えながら進む解説は、まるで学校の社会科見学に来ているかのようだった。ちょっと懐かしい気分だ。
その解説の途上だった。ピーッと甲高い警告が鳴る。瞬間、ガクンと強い慣性がかかった。一気に速度が落ちていく。急ブレーキがかかったのだ。
みるみるうちに速度が落ちた列車は、とうとう完全に停止してしまった。緊急停車。ただその4文字が、脳内を大きく占めていく。
「な、何が起きたのかしら?」
「わかんない……」
隣に座るひばりは不安そうだ。対面のさくらは外に向かって目をこらしている。たぶん何も見えないと思うけど。
そのとき、星空案内人のおじいさんが口を開いた。
「たぶん鹿ですね」
し、鹿?
「鹿ってあの動物の鹿? ディアー?」
「だと思うけど……」
やたら発音が良かった。ひばりは英語もペラペラなのだろう。って、そうじゃなくて。
「動物支障ってこと?」
「だろうな」
さくらは依然として外を眺め続けている。目を細めたり、スマホのライトで照らしたり、ずっと落ち着きが無い。
「もしかして、さくらわかってた?」
「いや、わかんねえけど。可能性としてはあるかなって」
瞬間、ピーッとまた甲高い警笛。小刻みにピーッ、ピーッと鳴らし続ける。
「この辺って、山の中とか通るだろ? しかも夜だからさ。人間が原因では無いと思ったんだよ。だから、車両トラブルか、そうじゃなけりゃ動物支障かなって。鹿とは思わなかったけど」
要するに、こいつは車外の鹿を見つけようとあの手この手を講じているわけだ。
「鹿って北海道とかじゃないの?」
「日本全国どこにでもいるだろ」
ピーッ、ピーッ、ピーッと警笛が響く。
「こうやって鹿脅して退かそうとしてんじゃね? まさか運転士が外出て追っ払うわけにもいかねえしな。熊じゃないだけマシだろ」
なんでそんな落ち着いていられるんだ、こいつ。
『お客様にご連絡いたします』
そのとき、車内アナウンスが響いた。
『ただいま、線路上に鹿がおりますため、この列車は運転を見合わせております』
「ほら、ビンゴ」
いや、鹿って言ったのお前じゃないから。
「あはは、またですね」
星空案内人のおじいさんもまるで慌てた様子が無い。まるで日常茶飯事であるかのような口ぶりだ。
「昨日もね、鹿が出てきて止まったんですよ」
そう言って、また「ははは」と小さく笑っていた。
「よくあることなのかな?」
「じゃねえの? 自然の中突っ切るような路線だからな」
まあ、確かにそうだ。小海あたりまでは山の中を通る。それは前回の乗車で知っている。
小海から先は里山に入るから、動物支障の危険はなさそうだ。しかし、裏を返せば、小海までは鹿が飛び出てくる可能性が充分にあるということ。
「まっ、こういうのも旅の醍醐味っしょ」
「よく楽観的でいられるね」
「バカバカ。こういうトラブルが、後で語り草になるんだよ」
脳天気だなぁ。この呑気ぶりが羨ましい。
「えっと、危なくはないのよね?」
「うん。それは大丈夫だと思う」
ホッと胸をなで下ろすひばり。これが普通の反応だと思う。
「それじゃあ、星空解説を再開しましょう」
列車は止まったまま動かない。だが、車内イベントはさも当然のように再び始まったのであった。
窓の向こうは漆黒の闇。外の景色は何1つ見えない。
以前乗車してわかったことなのだが、小淵沢を発車してしばらくは高原地帯及び山間部を抜けていくのだ。つまり、灯りになるものは多くない。だから、車窓が全く見えないのだ。
それもある意味ローカル線の醍醐味だと思う。加えて、星空がモチーフの『HIGH RAIL』にはピッタリの沿線と言えるだろう。
発車して少ししてから、星空案内人による星座解説が始まった。星座早見表が配られて、秋の夜空の説明が行われる。
神話を交えながら進む解説は、まるで学校の社会科見学に来ているかのようだった。ちょっと懐かしい気分だ。
その解説の途上だった。ピーッと甲高い警告が鳴る。瞬間、ガクンと強い慣性がかかった。一気に速度が落ちていく。急ブレーキがかかったのだ。
みるみるうちに速度が落ちた列車は、とうとう完全に停止してしまった。緊急停車。ただその4文字が、脳内を大きく占めていく。
「な、何が起きたのかしら?」
「わかんない……」
隣に座るひばりは不安そうだ。対面のさくらは外に向かって目をこらしている。たぶん何も見えないと思うけど。
そのとき、星空案内人のおじいさんが口を開いた。
「たぶん鹿ですね」
し、鹿?
「鹿ってあの動物の鹿? ディアー?」
「だと思うけど……」
やたら発音が良かった。ひばりは英語もペラペラなのだろう。って、そうじゃなくて。
「動物支障ってこと?」
「だろうな」
さくらは依然として外を眺め続けている。目を細めたり、スマホのライトで照らしたり、ずっと落ち着きが無い。
「もしかして、さくらわかってた?」
「いや、わかんねえけど。可能性としてはあるかなって」
瞬間、ピーッとまた甲高い警笛。小刻みにピーッ、ピーッと鳴らし続ける。
「この辺って、山の中とか通るだろ? しかも夜だからさ。人間が原因では無いと思ったんだよ。だから、車両トラブルか、そうじゃなけりゃ動物支障かなって。鹿とは思わなかったけど」
要するに、こいつは車外の鹿を見つけようとあの手この手を講じているわけだ。
「鹿って北海道とかじゃないの?」
「日本全国どこにでもいるだろ」
ピーッ、ピーッ、ピーッと警笛が響く。
「こうやって鹿脅して退かそうとしてんじゃね? まさか運転士が外出て追っ払うわけにもいかねえしな。熊じゃないだけマシだろ」
なんでそんな落ち着いていられるんだ、こいつ。
『お客様にご連絡いたします』
そのとき、車内アナウンスが響いた。
『ただいま、線路上に鹿がおりますため、この列車は運転を見合わせております』
「ほら、ビンゴ」
いや、鹿って言ったのお前じゃないから。
「あはは、またですね」
星空案内人のおじいさんもまるで慌てた様子が無い。まるで日常茶飯事であるかのような口ぶりだ。
「昨日もね、鹿が出てきて止まったんですよ」
そう言って、また「ははは」と小さく笑っていた。
「よくあることなのかな?」
「じゃねえの? 自然の中突っ切るような路線だからな」
まあ、確かにそうだ。小海あたりまでは山の中を通る。それは前回の乗車で知っている。
小海から先は里山に入るから、動物支障の危険はなさそうだ。しかし、裏を返せば、小海までは鹿が飛び出てくる可能性が充分にあるということ。
「まっ、こういうのも旅の醍醐味っしょ」
「よく楽観的でいられるね」
「バカバカ。こういうトラブルが、後で語り草になるんだよ」
脳天気だなぁ。この呑気ぶりが羨ましい。
「えっと、危なくはないのよね?」
「うん。それは大丈夫だと思う」
ホッと胸をなで下ろすひばり。これが普通の反応だと思う。
「それじゃあ、星空解説を再開しましょう」
列車は止まったまま動かない。だが、車内イベントはさも当然のように再び始まったのであった。
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