65 / 92
お姫様がやってくる
1 本当のところ
しおりを挟む話が終わると、村長とサールは眉にしわを寄せたまま魔法使いの家を後にした。
そんな二人を見送り、エルダもまた困ったように深いため息をついた。
「すみません、師匠。……けどこの事は……」
申し訳なさそうに頭を下げるシガツに、エルダは笑みを見せる。
「分かっています。……無理に隠し通すつもりはありませんが、あまり言いふらすつもりもありませんから」
その言葉を聞き、シガツはホッと息をつく。
「わたくしも、あまり騒ぎ立てないよう皆に言っておきますわ」
にこりと笑ってキュリンギも約束する。
とはいえ、この話が村中に知れ渡るのにそう日にちはかからないだろう。
そう思うとシガツは気が重かった。
村長達が帰った事に気が付くと、マイン達はみんなで魔法使いの家へと向かった。もちろんソキも一緒に。
「もう、いい?」
村長達が帰ったのだから話は終わっているはずだけど、もしかしたら魔法使いとキュリンギとシガツだけで何か話をしているかもしれない。
今にも飛び込んで行こうとしていたマインだったが、エマにそう指摘され大人しくノックをするとそう声を掛けた。
「ああ、もう大丈夫ですよ」
特に怒っている様子のない師匠の声にマインはホッとした。
「それで、村長さん達何の用事だったの?」
許可が出たから遠慮なくバタンと扉を開け、マインが部屋に飛び込む。そんな彼女の後に続いて他の子供達もゾロゾロと部屋へと入って行った。
そして一番最後に、ソキがひょっこりと入ってきた。
驚いたのはシガツだ。
「ソキ?」
びっくりして声をあげる。それに気づいた師匠が眉をしかめ、マインが慌てて説明を始める。
「違うの。ちゃんとみんなで話して、ソキを呼んだの。もうみんな、ソキの事は怖くないよ」
「そうだよ。怖くなんてないさ。マインの友達だもんな」
続けてニールもマインをフォローする。ニールに目配せされて他の子供達も慌ててコクコクと頷いた。
だけどマイン達の言葉が足りていない事に気づいて、すぐにエマが説明を付け加えた。
「ちゃんと危険がないように気を付けながら近づいていったわ。村長達が来なかったらそうしていたように、遠くにいてもらってわたし達から少しずつ、近づいて行ったの」
だからみんな怖くなかったし、危ない事もなかった。
そう言いたいエマの言い分も分からなくもないが、それでも自分のいない所で勝手にソキを呼び出した事にエルダは顔をしかめずにはいられなかった。
「慌てなくても近い内にちゃんと機会を設けるつもりだったのに、待てなかったんですか?」
率先してソキを呼び出したのはマインに違いないと、エルダは腕を組み彼女を見下ろす。
するとマインは負けじと師匠を見上げ、言った。
「だってソキもシガツも悪くないのに、それでシガツが村長さん達に叱られるなんておかしいじゃん。だからもう、みんな仲良しだから怖くないって……」
「何の事ですか?」
マインの言い分に少し驚き、エルダは口を挿んだ。
「え?」
「?」
師匠に尋ねられ、反対に驚きマインはシガツの顔を見た。しかしシガツも何の事だか分からず、キョトンとしている。
「えーっと。村長さん達、みんなが怖いって言って不安がってるからそれで怒ってここに来たんじゃないの?」
イムやチィロの話を聞いて、てっきりそうだと思っていたマインは、どうも違うらしい事に気づき、恐る恐る確認する。
「どこから来たのかとか、生まれはどこだって話を訊かれただけだよ。特にソキの事とかは言われなかったよ」
嘘はついていない。だからシガツは「叱られてないよ、大丈夫」と笑顔を作って見せた。
それを聞いてイムとチィロがホッとした顔になったのをエルダは見逃さなかった。ため息をつき、困った弟子とその友人達を見渡す。
「分かりました。今回はシガツや小さな子達の為に行った事でしょうから、許しましょう。ですがこれでもうソキと皆さんは親しくなったという事ですから、その為に会う必要はなくなりましたね。今後しばらくの間は魔法の修業に集中させますので、皆さんはここに近づかないで下さい」
にこりと笑って告げられた魔法使いの言葉にニールはガツンとショックを受けた。しばらくマインに会えなくなるんなら、シガツなんかの為に精霊なんかに近づくんじゃなかった。
マインも、せっかくみんなと会う口実が無くなってしまった事に呆然としていた。
「あら、せっかく仲良くなり始めたところでしたのに、会うのを禁止してしまってはまた元に戻ってしまいますわ」
子供達の肩を持ってキュリンギが言うけれど。
「本来ここは気軽に来てはいけないと以前から言ってあるでしょう? キュリンギさん、貴女もです。親切はとても嬉しく思っていますが、ここにはあまり近づかないでいただきたい」
エルダは冷たく突き放す。
内心、都合の良い時だけキュリンギを利用して必要がなくなったら「近づくな」と言っているようで気が引けたが、それでも本来用もないのにここに近づかれるのは良くないと思っているのも事実だ。
いいかげん腹を立てて自分の事を見限っても仕方がないとエルダは思う。
けれどキュリンギはそんな事ではひるまない。
「そうですわね。交流を深めるのも大切ですけれど、エルダの言う通りその為に万が一の事があるのも困りますわね。けれど先程も言いましたようにせっかく仲良くなりかけたところで会うのを禁止してしまっては、すぐにまた『やっぱり怖い』になってしまいますわ。ですからせめて週に一度、一緒に遊ぶ機会を設けましょ?」
にこりと笑ってキュリンギがエルダの手を取る。
「いや、それは……」
慌ててエルダが反論しようとしたけれど、それを子供達の声がかき消した。
「うん。そのほうがいい。仲良くなったって言ってもまだほんの少し話しただけだし、もっとちゃんと仲良くならなきゃチビ達がまた怖がるよ」
「うん。時々会わないとやっぱ怖くなるかも」
「ここがダメなら、村の方に来てもらったら?」
「いきなり村だと他の人が怖がらない?」
「お祭りの広場は?」
「おお、いーじゃん。あそこならそうしょっちゅう人は来ないし、みんなで色々遊べるじゃん」
エルダが口を挿む間もなく子供達が決めてしまう。
「じゃあ一週間後、昼前にお祭りの広場に集合! お弁当持ってきて、みんなで食べよう」
イキイキとマインがそう告げる。エルダはそれを聞きながら、はぁーっと深く溜め息をついた。
それを見ていたキュリンギがエルダの腕に腕を絡め、にこりと囁く。
「わたくし達が責任を持って見ていれば子供達も無茶はしませんわよ」
その言葉にガクリと項垂れたエルダは、それでもすぐに背筋を伸ばし自分の弟子達に言った。
「分かりました。一週間後ソキを連れて村の広場へと赴きましょう。しかしそれまでの日はみっちりと魔法の修業をしますからね」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
3
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる