春風の中で

みにゃるき しうにゃ

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お姫様がやってくる

7 花を降らせる練習 その2

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 本当の事を言えばソキだって、みんなと一緒にお姫様を喜ばせたかった。

 大変だ大変だと言いながらも村のみんなもここのみんなも楽しそうにお姫様を迎える準備をしている。ソキも一緒に手伝っているけれど、本番は姿を隠しておかなければいけないと思うと、やっぱりちょっと淋しい。

 そんなソキの淋しそうな顔に気が付いたのか、シガツが声をかけてきた。

「本番でソキにやってもらうわけにはいかないけど、ソキにコツを教わって練習するってのはありだと思うんだ」

 それを聞いたエルダが「ふむ」と考えるように顎に手を当てる。

「風の精霊は魔法とは違う力で風を起こしていると思うのですが……」

 それは間違いではなかった。風の精霊にとって風を吹かすのは手足を動かすのと一緒で、「どうやって?」と問われても「こうやって」と実際に風を吹かせて見せるだけで、説明なんて出来ない。

「あ、いえ。風そのものの吹かせ方を教わるんじゃなくて、どんなふうに風を吹かせたらあんなふうに綺麗に花を降らせられるのかを……」

 言ってる意味が分かるだろうかとシガツはソキを見た。ソキは首を傾げ、シガツの言葉を考えている。

 シガツもちょっと考え、ソキに言う。

「今からちょっとやってみるから、ソキのやったのとどう違うのか見てて」

 落ちていた花を手に取り呪文を唱えて空へと飛ばしてみせた。ソキだけでなく、師匠やマインもそれをじっと見ている。

 地面に花が落ちるのを見届けて、今度はソキがふわりと風で花を飛ばした。

「うんとね、シガツのはなんていうか、ポーンって感じなの。そうじゃなくてね、こうフワッてしてるの」

 自分なりに感じた事をソキは口にする。だけどそれはあまりに抽象的で要領を得ない。

「風の力弱くしちゃったら、空高くまで飛ばないよ?」

 言いながらマインが試してみる。そもそも空高くまで飛ばす事の出来なかったマインの魔法は風を弱くした事でほとんど花を浮かせなかった。

 それを見てソキは首を振った。

「そうじゃないの。風を弱くするんじゃなくてね……」

 どう説明したら分かってもらえるだろうかと考える。そして思いたったようにソキは花をひとつ拾いあげた。

「あのね、マインの風はこんな感じなの」

 左手で持った花を放すと同時に、広げた右手の指先でポンと上へとはじいてみせる。花はほんの少し上へと飛んだものの、すぐに下へと落ちてしまう。

「シガツとししょーのはこんな感じね」

 先程と同じように、だけど今度は手のひらで受けてポンと花を叩き上げる。

「でね、ソキのはこうなの」

 今度は手のひらに花を乗せたまま、ソキは手を空へと伸ばした。そして花を手のひらから離す事なくそのまま下へと降ろす。

「分かるかな?」

「そうか。花が落ちるまで風は吹かせ続けとかなきゃいけないのか」

「え?」

 ソキの説明にシガツは納得して頷いた。だけどマインはわけが分からない顔をしている。

「今の説明は、ソキの手が風を表してたんですよ」

 理解出来てない弟子の為にエルダが説明を加える。

「師匠やオレ達も、同じ魔法の呪文だろ。その呪文で起こした風がソキから言えばこうなんだ」

 シガツは花を手に持つと、ソキと同じようにポンとその花をはじいて飛ばした。

「ただマインの場合、ちょっと狙いがズレちゃってるからソキがさっき言ったみたいにこうなっちゃうんだ」

 手の真ん中ではなくはしで花を捉えたのを見て、マインはやっとなんとなく分かった。

「そっか。狙いが少しズレてるんだ」

 目に見えるわけではない風をコントロールするのはなんて難しいんだろう。ただ正確に呪文を唱えれば良いだけではないなんて。

「しかしソキの言うような風を起こすには呪文そのものを変えなければいけませんね……」

 そもそもエルダはこんな魔法の使い方をしたことがなかった。だから自分の知ってる風の魔法で応用の出来そうなものを探して使っていたのだが。

「しかし私はこの呪文以外に花を傷つけず飛ばす事の出来る魔法を知らないんですよねぇ……。シガツ、風の塔で何か似たような呪文を習っていたりとかしませんか?」

 助けを求めてくる師匠に、シガツは頭を巡らせてみるもいい答えは出て来ない。

「……すみません。風使いの使う魔法は精霊を捕える為に使うものがメインで、契約してしまえば風に関係する類いの事は精霊にやらせるんで自分達が風の魔法を使う事は滅多に……」

 口ごもる弟子にエルダは悪い事を訊いてしまったなと思った。

「そうですよね。風の精霊ほど風を操るのに長けた者はいませんから。その風の精霊を使役する風使いがわざわざ風の魔法を使う必要などありませんでしたね……。おかしな事を訊いてしまいました」

 しかしそうなるとどうしたものか。ソキの教えてくれた方法は無しにして今まで通りの魔法でいくか。それともその呪文をどうにか改良してソキの言うような風を吹かせられないか。

 額にしわを寄せ考え込む師匠を余所に、マインは今までの呪文を唱え、試している。きちんと風の真ん中で花を捉えて浮き上がらす練習をしているのだ。

 シガツもまたマインの練習風景を眺めつつ、何か良い方法はないかと考え始めた。


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