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第4話
その1
しおりを挟むこの国はとても平和です。隣国と戦争になる兆しなど全くありませんし、国内にも大きな争い事はありません。
そんな平和な国だからこそ、王様の無茶振りも通ってしまいます。
「ミナと結婚した者に、次の王位を譲る」
とんでもない爆弾発言です。もしお嬢様が何の教養もない平民と恋に落ちたらどうするつもりなのでしょうか。
ですのでさすがに王妃様が条件をつけました。
「もちろん今ここにいる者達の中で、でございましょう? ここにいる可愛いわたくし達の孫の中で、ミナと結ばれた者に王位を譲るという意味ですわね?」
王妃様の言葉に、自分の言葉が足りなかったと王様は頷きました。
「もちろんその通り。ミナが他の者を選んだ時はまた別の方法で選ぶ」
その言葉にミナお嬢様のお父様とお母様はホッとしました。二人は身分差を乗り越えて結ばれましたので、ミナにも自由に恋をしてほしいと思っていたのです。
しかしお嬢様は突然の宣言に目の前が真っ白になりました。自分の選択次第でこの国の未来が決まってしまうかもしれないのです。
お嬢様はプレッシャーに押しつぶされ、そのまま気を失ってしまいました。
お嬢様が目を覚ますとそこは、いつもの自分の部屋でした。けれどいつもと違ってベッドの傍に、お父様とお母様がいらっしゃいました。
「ああ、ミナ。良かった。気がついたかい?」
お父様が優しく声を掛けて下さいます。
「熱は……無いみたいね。どこか具合の悪いところはある?」
お母様も心配そうにお嬢様の顔を覗き込みます。
スミさんはその後ろですぐに飲めるようにと冷たいお水の用意をしてくれていました。
先程の王様の発言は夢でしょうか? 夢だったら良いのに……とお嬢様は思いました。
しかしお母様がおっしゃいます。
「ミナ。ミナが気を負う事はないのよ。ミナは誰を選ぶのも自由。選ばない自由もあるの。期限は設けられていないのだから、まだ先延ばししても良いのよ」
そこまで言ってお母様は深々とため息を付きました。
「ああ……。お兄様達が生きていらしたら、ミナにこんな苦労をさせずにすみましたのに……」
王様には三人の王子と二人の姫がいました。
しかし第三王子は十五年前に病気で、第一王子と第二王子は三年前に事故で亡くなってしまったのです。
とはいえ第一王子にはちゃんと二人の息子がいましたから、これまでその二人が跡継ぎとして教育を受けてきたのですが。
「ヒダカ様にも申し訳ない」
お父様が困ったような顔をしてそう言います。
「これがミナの事でなければ、ヒダカ様の元へ嫁いでもらって丸く収める事も出来るのだが」
そう、第一王子の長男のヒダカにミナが嫁げば、最初の予定通り彼が後継者のままなのです。
しかしヒダカにはすでに仲の良い婚約者がいますし、なによりお父様もお母様も、ミナには好きになった人の所へ嫁いでほしいと思っています。ですから無理矢理「誰々の所へ嫁に行け」とは言いたくないのです。
お嬢様はスミさんに手渡されたお水をひと口飲み、小さなため息をつきました。
王様があの発言を撤回してくれたらどんなに良いでしょう。身内だけが集まったパーティーでの発言ですから、どうにか取り消せるのではないでしょうか。
しかしそういうわけにはいきませんでした。あの日のパーティーには、ミナの従兄弟ではあるけれどこの国の人間ではない者もいたのです。
ミナのお母様のお姉様は、隣の国の王族へと嫁いでいたのです。
もちろん彼らにはそちらの国の王位継承権がありましたし、普段はそう頻繁に行き来していませんから自分達が選ばれる可能性は低いだろうと、すぐに今回の件は辞退する旨の文書を送ってきました。
しかし、という事は隣の国の王族にも今回の件は知れ渡っているという事です。
簡単に「やっぱりやめました」「あれは冗談でした」なんて言えば、わざわざ辞退の文書を送ってきてくれた隣国に大変失礼になってしまいます。
そんなわけでこの件を取り消す事は難しいでしょうし、そもそも王様は取り消すつもりなどありませんでした。
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