気が付いたら魔物に城を落とされ追われるお姫様になった夢を見ていました。……夢だよね?

みにゃるき しうにゃ

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 ガシャンと大きな音を立て、テーブルの上のトレイが床へと落ち、バーガーやポテトが散乱する。

「きゃあぁっっ」

 いきなりの出来事に驚いた他の席のお客の悲鳴が店内に響き渡る。

 気が付いた店員がひとりは非常ベルを押し、ひとりはケータイで110番通報している。

 だけどそれにさえ気づかないのか目の前の勇者気取りの男は狂ったように笑いながらナイフを構えた。

「死ねぇ! 魔王!!」

 わたしを庇ってくれた見知らぬ男性へとナイフを振りかぶる。

 恐怖に目をつぶる事さえ出来ず、男を見る。

 男は余程、わたしとわたしを庇ってくれた男性に集中していたのだろう。後ろから別の男性が飛び掛かって来た事に気づかず、あっという間に持っていたナイフを叩き落され、羽交い絞めにされてしまった。



 事件は、通り魔の犯行という事でサラリとニュースで読みあげられただけで終わった。幸いにもケガ人は出なかったので、放送局によっては取り上げる事さえなかったかもしれない。

 犯人の素性に心当たりはなかった。でも、あの夢の中の『勇者』だった事は分かった。

 あの夢は、いったい何だったんだろう。

 たぶん一瞬の内に見た、長い長い夢。

 だけど何も分からないまま月日はたち、夢は夢として忘れかけ始めた頃、街中でひとりの男性に呼び止められた。

「キミ……?」

「え?」

 どことなく見覚えのある、だけど誰だか思い出せない顔にわたしは首を傾げる。

「あ、いきなりゴメン。けどもしかして以前、バーガーショップで通り魔に襲われた事ない?」

 言われて目の前の人がわたしを庇ってくれた人だと気が付いた。

「あ。あの時はありがとうございました」

 当時も両親と一緒にお礼を言いに行ったけど、こんな風にわたしの顔を覚えていて声をかけてくれるとは思わなかった。

「いや。あれからどう? ……風の噂でアイツは、どこか遠くの病院に入院させられたって聞いたけど……」

「はい。特に何もなく平和に過ごしています」

「そうか。何も無いなら何よりだ。キミが無事で良かったよ、お嬢さん」

 ほっと呟く男性のひと言に、目が覚めるような思いをした。

「騎士様……?」

 ついポロリと口からこぼれ出る。

「え……? 覚えてるの……?」

 驚いたように彼が呟く。

 そうだ。どうして気が付かなかったんだろう。あの時犯人からわたしを庇ってくれたのは、他でもない夢の中のあの騎士様なのに。



 あの夢はずっと、事件が見せた幻、襲われた恐怖で心が逃避して見た夢なんだと思って誰にも話していなかった。

 騎士様が、わたしを犯人から庇ってくれた彼が、同じ記憶を持つと知らなければ、わたしはずっとそう思っていただろう。

「現実でのアイツの事は、オレも全くと言っていい程知らない。実際ほぼ接点なんて無かったから、警察もあれを『通り魔』として片づけた」

 話がしたいと誘われ、わたし達は近くの喫茶店へと入った。彼はコーヒーを、わたしにはケーキセットを頼んでくれた。そして彼はゆっくりと、あの夢について話し始めた。

「だけどアイツは、オレの事を敵視していた。そしてオレをあの夢に引きずり込んだ」

 渋い顔をしてコーヒーをひと口飲むと、彼はわたしを見てちょっと照れたように笑った。

「この話をするのはキミが初めてだ」

 わたしも彼に微笑み返す。

「分かります。夢の話をしたところで、他人にしてみればそれはただの夢ですよね」

 頷き彼は、再び表情を暗くする。

「初めてあの夢を見せられた時には、何が何だか分からなかった。魔王としてあの夢の地に呼ばれ、あっという間に勇者と名乗るアイツに殺された。それは電車の中、駅に着く直前の一瞬の出来事で、同じ車両にいたアイツは殺されたショックで青ざめているオレの姿を楽しむようにニヤニヤしながら、開いたドアから出て行った」

 そこまで話すと彼は大きく息を吐いた。

「二度目の夢の設定も、魔王と勇者だった。いや、どの夢もって言うべきか。さっきも言ったがオレは現実のアイツを知らない。名前も年齢も、どこに住んでいるのかも何をしているのかもまるで知らない。だけどアイツはオレの事を知っていたんだろう。気が付くとオレは夢に引きずり込まれアイツに殺され続けた……」

 彼の話にわたしは身震いした。あんな夢を何度も見せられ続けた上、しかも殺され続けたなんて……。

 胸が痛くて泣きそうになった。なんて彼は強い人なんだろう。それでもあの夢の中、わたしを気遣い優しくしてくれた。

「とはいえオレもいつまでも黙って殺されるつもりはなかった。だからある日、また夢の中に引きずり込まれたと知ったオレは反撃に出た。そしてアイツを倒した。……これで終わりだと思った。だけど終わらなかった。あの日、あのバーガーショップでアイツを見かけて総毛立った」

 彼は、わたしの目を見た。

「アイツは、キミを見ていた。キミもまたあの夢の犠牲者なんじゃないかと、オレは駆け寄った」

 あの日の記憶は鮮明に覚えている部分と曖昧な部分とがある。午前中から遊ぶ約束をしていた友達が急に用事が入って午後からじゃないと遊べなくなって、一度家に帰るのは面倒だからと一人でお昼を食べようと入った、バーガーショップ。

 ポテトとチーズバーガーを買って席で食べ始めたところまでは覚えている。

 その後の記憶はあの夢で、それからあの事件の場面に移る。犯人や彼がどうやってわたしの所に来たのかとか、そういった記憶がわたしの中にはない。

 警察の事情聴取でもその辺りが曖昧な事は話した。もちろん夢の話はしてないケド。お医者さんにもかかって、精神的な負担が大きすぎてその辺りの記憶をしまい込んでしまったんだろうって言われた。だからあの夢も、心が逃避して見た夢なんだと思ってた。

 だけど彼がわたしと同じ夢を見ていた。

「そこから、覚めない夢が始まった。アイツを倒して夢から覚めると思った途端、振り出しに戻った。何度かアイツを倒し、そのループから抜け出せないと気づいたオレは、以前の様にオレが倒されれば夢が終わるのかと殺されてみた事もある。だけど夢は終わらなかった。夢の中の住人はもちろん、魔王に仕える魔物も、オレの味方じゃなかった。夢の世界に一人の味方もいなくて気が狂いそうになった時、ガシャヤが生まれた」

 話している内に夢の記憶がどんどん蘇ってきたんだろう。彼は青ざめ少し震えていた。

 そんな彼の手に、そっと手をそえる。

「わたしも、淋しくて怖くてどうしたらいいのか分からなくなった時にミルファが来てくれたの」

 わたしの孤独と彼の孤独は同じものではない。わたしの恐怖と彼の恐怖も同じものではない。

 それでも同じ様に、耐えられないと思った時にわたしたちはもうひとりの自分を創り出しその孤独から、逃げようとした。

 そうしなければわたし達は気が狂っていたかもしれない。

「ああ」

 短く頷き、彼はわたしの手を取る。

「キミに会えた時、初めは半信半疑だった。現実のキミを見たのはほんのわずかな時間だったし、その後あの夢に入ってから、随分長い時間を過ごしていたから、同じ人とは思っていなかった。だけど他の村人達の様に嫌な感じがしない。けど、アイツから遠い人達はほとんど嫌な感じがしない人もいた。だから分からなかった。キミが全く見知らぬ人なのか、あの時の女性なのか、アイツが創り出した存在なのか……」

 彼の話によると、彼とガシャヤ、わたしとミルファ以外の人はみんなアイツが創り出した存在らしいという事だった。

 勇者の仲間も魔物も、ただの村人も王国の兵士も、何もかもがアイツのかなり劣化した分身のようなものだと。だからアイツが捜している時に誰かと接触すればたちまちアイツにバレてしまうのだと。

 わたしはたぶん本能でそれに気づいていて、村人に会うのも怖かったんだろうと教えてくれた。そしてミルファやガシャヤなら分身だから、多少気配が薄れてアイツに気づかれにくかったのだとも。

「一緒に過ごす内にキミが巻き込まれた存在だと確信した。そしてキミが現実に戻る為のカギだとも」

「わたしが、カギ……?」

「理屈は分からない。ただの直感だった。けど現実に戻れた」

 あとはもう、わたしも知っている現実での出来事につながる。

 アイツがなぜ、現実でわたしに襲い掛かって来たのか、わたし達に夢を見せて何をしたかったのか分からないし分かりたくもない。でも。

「現実の貴方にこんな事を言うのは恥ずかしいんだけど、夢の中のわたしは騎士様に、ほんの少し恋をしていたの」

 告白。

 現実のわたしはお姫様じゃないし、彼だって夢の中の騎士様じゃない。それでも頬が熱くなるのを感じながら告げた。

 びっくりしたような顔のまま彼は赤くなり、それから目を細めた。

「奇遇だな。オレも、夢の中のお嬢さんに淡い恋心を抱いていたよ」

 夢と現実は違う。実際のわたしを見て彼は幻滅するかもしれない。わたしも、現実の彼にガッカリするかもしれない。

 それでも、縁を結ぶキッカケとしては充分だと思う。


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