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すっごく綺麗な女性が突然訪ねて来たんですけど?
その6
しおりを挟むわたしがクロモの名前を呼んだのをきっかけに、結局ミシメさんには全部話す事になった。クロモは深々とため息をついたけれど、わたしは味方が増えた気がして良かったと思ってた。
ミシメさんは、最終的には本当の事を話し出したクロモの言葉を真剣に聞きながら大きく頷いた。
「そういう事でしたら協力しますわよ。愛しいクロモちゃんと可愛いそのお嫁さんの為ですもの、お任せなさい」
にこりと笑ったミシメさんの笑顔は、さっきまでの怖い笑顔とは違って頼もしく思えた。
「けど、わたし本当のお嫁さんじゃないんですけど、良いんですか? もちろん協力して下さるのはとても嬉しいしありがたいですけど。その、わたしはフリをしているだけで、クロモの本当のお嫁さんじゃないから、ミシメさんがっかりしちゃったんじゃないですか?」
「あら、がっかりだなんて! 貴女は本物のお姫様ではないかもしれないけれど、身代わりでお嫁さんになってくれたんでしょう? そうそう、わたくしの事は是非『お姉様』と呼んでほしいわ」
「お、お姉様……?」
「まあぁっ。可愛らしいっ。わたくしずっとこんな可愛い妹が欲しかったんですのっ。もちろんクロモの事もとても愛しくはありますけれど、妹と弟ではまた違いますものっ」
ぎゅううぅぅっ。
押しつぶされんばかりに抱きしめられて、ついジタバタしてしまう。
そんなわたしを助けてくれたのはクロモだった。
「姉さん。彼女が苦しがってるっ」
姉弟の気安さからだろうか、気軽に彼女の身体を掴み、わたしから引き剥がす。
「あらやだクロモったら、ヤキモチ妬かなくっても貴方の事もちゃんと抱きしめてあげますわよ」
言いながらミシメさんがクロモを抱きしめようとする。けどクロモはすかさずそれをパッと避けた。
「さすがクロモ。慣れてるんだね」
ついそう呟いてしまう。それにクロモは深い深いため息で答えた。
「クロモちゃんったらつれない……」
ミシメさんはしょんぼりとしてしてみせるけれど、クロモは一向に気にしていない。
「そういう事だから、他言無用で」
話を打ち切ってミシメさんを追い出そうとしているのが見え見えで、わたしは慌ててクロモを止めた。
「ちょっと待って。その、ミシメさんには色々聞きたい事とか……」
「お姉様!」
わたしが「ミシメさん」と呼んだのをにっこりと、でもキッパリと訂正される。
「あーえっと、お姉様に訊きたい事とかあるから……」
わたしの言葉にクロモはムッとしたように返す。
「分からない事はオレに訊けば良いだろう」
「え、あ、うん。でも……」
男性のクロモには訊きにくい事もいっぱいある。とか考えてたら、ミシメさんが横からギュッと抱きしめてきた。
「ああ、やっぱり可愛らしいわ。お姉様になんでも訊いて頂戴」
語尾にハートマークのついているようなミシメさんを見てますますクロモがムッとした声になる。
「姉さんはもう帰れっ」
実力行使とばかりに光の魔方陣を描き出すクロモ。
「ちょっと待って!」
思わずお姉さんをかばうようにクロモの描く魔方陣へと手を伸ばしてしまった。
「な……」
クロモの驚きの声と共に光の魔方陣がフワリと消える。きっとクロモが消してくれたんだろう。
「お願いだから、お姉さんと二人きりで話をさせて。話が終わったらちゃんと帰ってもらえるよう説得するから。いいでしょ? クロモ」
じっとフードの奥のクロモの瞳を見つめる。ミシメさんもわたしに任せてくれるように何も言わずじっと待ってくれている。
すると根負けしたようにクロモは深いため息をつき、吐き捨てるように言った。
「勝手にしろっ」
怒らせちゃった?
そう思うと悲しいけれど、それでもミシメさんと話がしたかった。
「あの、すみません。お姉さん」
場の雰囲気が悪くなってしまった事を謝るとミシメさんは優しく微笑んでくれた。
「あら、お姉様とは呼んで下さいませんの?」
冗談めかして言う。
「あ、つい。わたしのいたトコじゃ、普通の人はあんまり『お姉様』とは言わなかったもんだから。あ、でもお姫様のフリするなら『お姉様』って呼ぶのに慣れてたほうが良いのかな?」
後半部分はほとんど独り言だった。だけど聞こえていたらしいミシメさんは、口元に指を当てて考えるふうに言う。
「そうねぇ。王族の方々が必ずしも『お姉様』を使うわけではないけれど……。いいですわ。クロモも『姉さん』と呼ぶんですもの。そのお嫁さんが『お姉さん』と呼んでも不自然ではありませんわ」
にこり。おじさんとかに見せていた威圧的な笑みではなく、親しみのある笑みをわたしに向けてくれる。
ほっとした。もちろんクロモの事もとっても頼りにしているけれど、その家族の、女性であるお姉さんに頼れるってのはとっても心強い。
まだしばらくはいなければならないだろうこの世界に味方が増えて、心が軽くなった。
「ありがとうございます、お姉さん。これから色々とご迷惑を掛けちゃうと思いますけれど、どうぞよろしくお願いします」
ペコリと頭を下げると、お姉さんはにこりと微笑んでくれた。
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