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五人集めて
ピー、ポポポポ
しおりを挟むもやもやとグレーの霧がかかったような、誰しもが迷うだろう世界線だった。
――ここは……夢だな。女の子ガチャをめがけてやってくる。悲しい目をした女の子だな……。待てよ、なんだか見覚えがあるぞ。
ミコトはハッと思い出した。
――これは、前に見た夢と同じだ。
動かせなかった体は、今は動かせるようになっている。思考をフル回転させ、急いで女の子の元へと向かった。
「なあ、君、ワンマカが好きなのか?」
唐突な質問だったが、話しかける話題にはちょうど良い。
「……うん」
女の子は呆けた顔で答える。
「俺もワンマカが好きなんだ」
ミコトは女の子を一人にしてはいけないと思い、話を続ける。
「私、マドカ。貴方は?」
「俺はミコト」
話はとんとん拍子に続いた。
「ミコト、ね。因みに、マドカはコードネーム」
マドカは付け加えて答えた。
「コードネームって?」
ミコトは尋ねる 。
「この世界のユーザーネームよ、ミコトという名前は、この世界のコードネームで合っている?」
僅かながらに首をかしげるマドカ。
「それでいい……あ、ちょっと待って。さあ、こっちへ来て」
ミコトの視野に謎の男の影が見えた。
「どうして?」
不思議そうにマドカは尋ねる。
「怪しい男が居るんだ。急いで」
ミコトは焦った。
また、マドカを一人にすると、男がやってくる。そして……悲劇が訪れる。それを知っているミコトはマドカの手をひいて走った。
手をひかれるマドカは足をもたつかせながら、ミコトの背中に付いていった。
謎の男がガチャの周辺をうろうろしていた。
「しっ、今だけ声を殺して」
店の裏へ隠れてミコトがマドカに忠告した。
マドカは謎の男を見て言った。
「あの人、どうかしたの?」
――どうしたもこうしたもない。放っておくとマドカはあの男に殺されるんだ。悲惨すぎる情景はうんざりだ。どうにかこの場を凌ごう……。
「いいか、信じられないかもしれないが俺の記憶ではマドカはあの男に誘拐されていた。そして、殺されたんだ。あくまで、これは記憶のうちだ。この世界で、俺はあの男を見たことがある。だから、隠れていてほしい」
信じてもらえないかもしれないと思ったが、ミコトは真実を告げた。
「……その記憶は確かで?」
「ああ、君はワンマカのガチャを引こうとここのコンビニへやってきた」
マドカは戸惑った様子を見せたがすぐに正気を取り戻す。
「……確かに、引こうとしていたわ……。ミコトの言うことを信じるとするわ」
マドカは謎の男をじっと睨みながら三十センチ程、身を後ろに引いた。
沈黙が続いた。マドカは唾を飲み込んでその場を凌いだ。
数分してようやく謎の男はコンビニエンスストアから去っていった。
「さあ、もう良いよ」
ミコトはマドカの肩を軽く押した。
「正直、助けてなんて言ってないのに」
マドカは落ち着いた様子で答える。
「で、ガチャを引こうとしていたんだろ?引かなくても良いのか?」
ガチャを指さすミコト。
「これから引くとするわ」
マドカは財布から三百円を取り出して、ガチャを回した。
……カラン。
マドカは落ちてきたカプセルを拾い、封を開けた。
「おお!レアアイテムじゃないか」
それを見たミコトは興奮気味に答えた。
ミコトの欲しかった金色のアイテムだ。まさか、本当に入っているとは。
「わあ、嬉しい!」
マドカははしゃぎだす。
「本当に存在していたとは……大切にしとけよ」
半ば羨ましそうにミコトは言った。
「うん!大切にする!」
どうやら時間差でマドカはレアアイテムをゲットできたようだ。謎の男がマドカの前に現れていたら、ガチャのアイテムなんてゲットできなかっただろう。
マドカはキーホルダーを身に着けていたショルダーにつけた。
すると、同時に地面がぐらりと揺れた。
「キャッ」
「地震か。大丈夫?」
尻もちをついたマドカの手を引くミコト。
「うん。ありがとう」
「軽い地震だ、安心して。なんにせよ夢の世界だから生命に心配はないだろう」
「そうね。さて、これからどうしようかしら」
マドカは起き上がると、胸の前で両腕を組んで考えことをした。
「この世界をまだ、よく知らないんだ。案内でもできるか?」
ミコトはマドカに聞いた。
「ええ、少しなら、でもこの世界が夢の中だってことくらいしか知らないの。この世界の名前もわからない。それでも大丈夫?」
マドカは少し不安な表情を浮かべた。
「ああ、構わない。知っていることだけ教えてくれ」
「わかったわ」
「因みにコードネームって言うのはいつから知ったんだ?」
「この世界に入る直前、脳内に表示されなかったの?」
マドカはそう言った。
「いいや、俺は表示されなかったな」
「そう」
マドカは続けて言った。
「まず初めに東に二、三キロ行った先に森があるはず。あの森、見えるでしょ?私、あそこに行きたい」
マドカは東にある森を指さす。。
森はそう遠くはなさそうだ。しかし、あの森は以前マドカが殺害された場所と一致していて、ミコトは行くことを躊躇った。
「どうして行きたいの?」
「最初ここに来る時、私、あの森の中で目覚めた気がするの」
曖昧な表情をしてマドカは答える。
「森の中で?」
「そう、確か、近くに廃棄場があったような……」
マドカはそう言いながら東にある森へと歩き出そうとした。
「何かわかるかもしれないな。だが、気を付けて行こう」
一つ忠告を添えて、ミコトはマドカの背中を追った。
森の付近に着くと、閑散とした小さな村があった。その村は、人間、動物の気配すら感じられなかった。
そんな村を見向きもせず、ミコトとマドカは村を過ぎて、森の中へ入っていった。
「やっぱり、ここ、何かあるわ」
確信したかのように表情を変えるマドカ。
「何があるんだ?」
ミコトは森の中を散策しながら尋ねる。
「わからないわ。でもきっと廃棄場よ」
「そうか」
ミコトは軽く返して、マドカの背中を追った。
マドカの言う通り、森の中には廃棄場があった。
ガラクタの集まり、鉄材や木材が山のように積まれていた。周辺にはたくさんのネジや釘が散乱していた。
「ただのゴミの山じゃないか。ここに何があるって言うんだ?」
積み重なっていた鉄材を足で崩しながらミコトは放った。
「……ピー、ポポポポ……」
廃棄場の奥で音が鳴った。
「……待って、今、何か聞こえなかった?」
真剣な顔つきに変わったマドカが静かに放った。
「そうか?」
ミコトは気が付いていないようだ。
「確かに聞こえたわ。私見てくる」
「了解」
ミコトはそう言って、歩き出すマドカの後ろ姿を目で追った。
マドカを見て「気を付けて」とミコトは続けた。
背伸びをしてマドカの様子を伺っていたミコトの髪がゆっくりと靡いた。が、夢の世界で風を感じることはなかった。
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