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この世界を知るために
眠る少年
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二×××年から五年前へと遡る。
四歳のミドリが病室で深い眠りについていた。
ミドリは『クライネ・レビン症候群』と言う病気を持っていた。※クライネ・レビン症候群:意図せずに数日から数週間の間、長い眠りについてしまう病気。
塩酸メチルフェニデートを用いた薬物療法をしていたが、現在は経過観察の元、自然治療を進めている。
食事をする度、ミドリは深い睡魔に襲われて、地面が揺れる感覚を感じて倒れるように眠りについてしまう。
いつ眠りにつくかわからないミドリは病室のベッドの上で過ごす日々が続いた。眠りばかりついて、ちゃんとした食事も摂れていないミドリの体はすっかり痩せ細ってしまっていた。
『クライネ・レビン症候群』を持つミドリは度々、寝ている間、長い夢を見るようになっていた。
現実で出来ないことをミドリは夢の中の世界で有意義に遊んで過ごした。体を動かすこと、食事をすること、夢の中で友達を作り、両親とお出掛けをしたり……。ミドリはそれで満足だった。
――そうさ、ずっとこのまま夢の中に逃げていればいいんだ。
ミドリは思った。
夢の中はとても複雑だ。夢で見た記憶は曖昧で起きて三十分もしたら忘れてしまう。それだからミドリは夢日記をつけることにした。
四歳にしてはとても賢くて、ミドリは長い文章を書くことが出来た。
某年〇月〇日
『夢の話。パパと、ママと遊園地へ行った。とても天気が良くて楽しかった。僕は遊園地で走り回って、ゲームセンターでシューティングゲームをした。高得点を出した僕をパパが凄く褒めてくれたのがとても嬉しかった。あんな風にパパとママともう一度過ごしたい。また、あの夢を見れたらいいな』
ミドリは夢日記を綴った。
午後六時半。病院内で夕食が配膳される時間だった。夕食を食べ終えたミドリはフラッと軽い眩暈に襲われた。
ミドリはそのまま枕に頭を付けて眠りについてしまった。
三十分遅れでミドリの父、セイトが見舞いにやってきた。
「また、眠りについているのか……」
セイトはベッドの横に置かれてあった椅子に座り、ミドリの寝顔を眺めた。
――我が子よ……。私が来る時に限って眠っている……。
寝顔を見て、涙を流しそうになったセイトは机に置かれてあった一冊のノートを見つけた。
――ノート……か。ミドリには悪いが見せてもらうとするよ。
セイトは音を立てないよう静かにページを捲った。
――ふむ、こんなこともあるのか。私達と遊園地になんて行ったことはないはずだ。そもそも妻は三年前に他界していて、ミドリも葬式に出たはずだ。これは捏造か?それとも夢の中で何かが起きているのだろうか……。
セイトは大学へ戻り、夢の研究をするため資料を集めだした。
セイトは大学の教授だった。昔は数学について研究を進めていたが、ミドリが『クライネ・レビン症候群』を患ってからは個人で睡眠医学についての研究をするようになっていた。
睡眠障害の事例は少なかった。特に『クライネ・レビン症候群』は千例程度しか事例がなく、原因のわからない病気を探るのはとても困難に等しかった。
一週間後、目を覚ましたミドリは、机の上の五冊の本を見つけた。セイトが置いていった本でその中にたまたま数学の本が一冊だけ混ざっていた。
ミドリは起きている間、たくさんの本を読んだ。その中でもミドリが気に入ったのは数学の本だった。暇を持て余したミドリは起きている間、数学の本を集中して読んだ。
一年して、気が付けばミドリは八歳にして微積分学を覚えるようになっていた。ミドリは頭脳明晰だった。
それでも、『クライネ・レビン症候群』という病気は厄介で本を読むよりも眠りにつくのが殆どだった。
ミドリは夢の中に逃げていた。
――また夢の中で遊んでいれば良い。夢の中は退屈しないし体も自由に動かせる。はやく夢の中に逃げたい。
四歳のミドリが病室で深い眠りについていた。
ミドリは『クライネ・レビン症候群』と言う病気を持っていた。※クライネ・レビン症候群:意図せずに数日から数週間の間、長い眠りについてしまう病気。
塩酸メチルフェニデートを用いた薬物療法をしていたが、現在は経過観察の元、自然治療を進めている。
食事をする度、ミドリは深い睡魔に襲われて、地面が揺れる感覚を感じて倒れるように眠りについてしまう。
いつ眠りにつくかわからないミドリは病室のベッドの上で過ごす日々が続いた。眠りばかりついて、ちゃんとした食事も摂れていないミドリの体はすっかり痩せ細ってしまっていた。
『クライネ・レビン症候群』を持つミドリは度々、寝ている間、長い夢を見るようになっていた。
現実で出来ないことをミドリは夢の中の世界で有意義に遊んで過ごした。体を動かすこと、食事をすること、夢の中で友達を作り、両親とお出掛けをしたり……。ミドリはそれで満足だった。
――そうさ、ずっとこのまま夢の中に逃げていればいいんだ。
ミドリは思った。
夢の中はとても複雑だ。夢で見た記憶は曖昧で起きて三十分もしたら忘れてしまう。それだからミドリは夢日記をつけることにした。
四歳にしてはとても賢くて、ミドリは長い文章を書くことが出来た。
某年〇月〇日
『夢の話。パパと、ママと遊園地へ行った。とても天気が良くて楽しかった。僕は遊園地で走り回って、ゲームセンターでシューティングゲームをした。高得点を出した僕をパパが凄く褒めてくれたのがとても嬉しかった。あんな風にパパとママともう一度過ごしたい。また、あの夢を見れたらいいな』
ミドリは夢日記を綴った。
午後六時半。病院内で夕食が配膳される時間だった。夕食を食べ終えたミドリはフラッと軽い眩暈に襲われた。
ミドリはそのまま枕に頭を付けて眠りについてしまった。
三十分遅れでミドリの父、セイトが見舞いにやってきた。
「また、眠りについているのか……」
セイトはベッドの横に置かれてあった椅子に座り、ミドリの寝顔を眺めた。
――我が子よ……。私が来る時に限って眠っている……。
寝顔を見て、涙を流しそうになったセイトは机に置かれてあった一冊のノートを見つけた。
――ノート……か。ミドリには悪いが見せてもらうとするよ。
セイトは音を立てないよう静かにページを捲った。
――ふむ、こんなこともあるのか。私達と遊園地になんて行ったことはないはずだ。そもそも妻は三年前に他界していて、ミドリも葬式に出たはずだ。これは捏造か?それとも夢の中で何かが起きているのだろうか……。
セイトは大学へ戻り、夢の研究をするため資料を集めだした。
セイトは大学の教授だった。昔は数学について研究を進めていたが、ミドリが『クライネ・レビン症候群』を患ってからは個人で睡眠医学についての研究をするようになっていた。
睡眠障害の事例は少なかった。特に『クライネ・レビン症候群』は千例程度しか事例がなく、原因のわからない病気を探るのはとても困難に等しかった。
一週間後、目を覚ましたミドリは、机の上の五冊の本を見つけた。セイトが置いていった本でその中にたまたま数学の本が一冊だけ混ざっていた。
ミドリは起きている間、たくさんの本を読んだ。その中でもミドリが気に入ったのは数学の本だった。暇を持て余したミドリは起きている間、数学の本を集中して読んだ。
一年して、気が付けばミドリは八歳にして微積分学を覚えるようになっていた。ミドリは頭脳明晰だった。
それでも、『クライネ・レビン症候群』という病気は厄介で本を読むよりも眠りにつくのが殆どだった。
ミドリは夢の中に逃げていた。
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