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しおりを挟む「…異常だって、分かってたから。俺もお前と同じように心の奥底に閉じ込めた。僅かな触れ合いにも跳ねる鼓動を、聞こえないふりをして。かけられる言葉に、笑顔に、込められたお前の愛を、受け流した」
「けれど、まだお前が幼いことをいい事に、俺は延々とお前に、好きだ、愛してる、と沈めきれなかった想いを伝え続けた。それに応えるお前の言葉に痛む感情を見て見ぬふりもした」
「…………離婚、する事になって、俺は卑怯にもチャンスだと思ってしまった。お前から離れれば、少しはこの気持ちが薄れると、軽くなると、そう、思って。父に反対なんてしなかった。お前が珍しく我儘をいってごねても、俺は俺の為にお前を突き放した」
「でも、すぐに気が付いた。いくら離れようと、いくらお前が俺の日常から消えようと、この気持ちは、薄れることも、軽くなることもないと。…絶望したさ、きっと、お前と同じくらい、いや、それ以上に。この気持ちが変わらないなら、お前と、仮初めの家族としてでも、傍に居れたのにと、な」
「七年経っても消えないのには、俺も驚いたよ。呪いすらした、こんなものを後生大事に持っていても、いいことなんて何一つないのに。いっそ、無理矢理にも殺してしまおうか、そう思った矢先に、お前が帰ってきた」
「変わらずに俺を慕ってくれるお前に、仄暗い歓喜が身体中を駆け巡った。こんな俺でも、お前は慕ってくれるのだと、卑怯にも逃げた俺を、お前は追いかけてきてくれたと、そう、愚かしくも思ってしまったんだ」
「このままで、いいとも思ったとき、お前は耐えられなくなったように告白してきて。好き、とその口が紡いだ瞬間、駆け出そうとした本能を、残酷な可能性を見つけた理性が止めた」
「…………もしかしたら、俺が幼いお前に伝え続けた言葉が、その心に、刷り込まれただけなんじゃないかって」
「途端に、怖くなったんだ。もし、ここで俺がこのままお前を受け入れてしまったら、死にたくなるほどの幸福と、絶望を、一緒に抱えて生きる事になるって」
「…………カイリ…」
ぽつり、ぽつりと語られる言葉は、俺に希望と絶望を同時に与え、そして、
「でも、俺は間違ってたな…」
するりと頭を撫でる手に、さっきとは違う意味で涙が溢れてきた。
あいつの制服のブレザーが色を変えるのを見ながら、感極まった俺はただ震えが止まるのを待った。
「…………俺も好きだ、イサラ。ずっと、ずっと前から、お前だけだったよ」
ーーーあぁ、死んで終いそうな幸福とは、このことなのだろうか。
生まれてから唯一の望みが、今、ようやく叶った。
「…………っ、カイリ!」
抱き返す俺を、抱きとめてくれるあいつに、言い様のない感情が湧き上がってくる。
本当なのだと、現実なのだと。
もうこの気持ちを我慢する必要なんて、ないのだと、実感して。
心から、殺さなくて良かったと、殺してくれなくて良かったと。
「…………捨てなくて、よかったよぉ…!」
後悔なんて、することなかったんだ。
元々これは、叶うものだったのだから。
…………あぁ、今俺は心からこの気持ちを告げて良かったと、
あいつを好きになって良かったと、思ってる。
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