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しおりを挟む「ねぇ、ふーみん」
「……何? 猿彦くん。あとその呼び方、やめてくれる?」
「えー? や・だ♡」
「…………」
こいつ…、この人気のある廊下を歩いている状態でこの俺が暴言を吐けないことをいいことに言いたい放題言いやがって。あとで覚えてろよ…? 死ぬよりも辛い目に合わせてやる。
にっこりと笑いながらそう思っていると何となく気持ちを汲み取ったのか、ビクリと肩を揺らした馬鹿が目を泳がせながら気を逸らすように話題を切り出した。
「そ、それよりもさー、聞いた? あの噂」
「……噂?」
「そー! あの臥龍院(がりゅういん)先輩がついにこいつに堕ちたって、う・わ・さ・!」
「…………は? あの人が…?」
この学園では、肩書きが全てだ。
家柄、能力、美貌、そして、役職。
各委員会の長、生徒会、風紀委員会、そのトップが有する力たるや、凄まじいものがある。
だからここに通う生徒はその椅子を狙って死に物狂いになる。が、俺はその席に座っている奴らに負けていると思ったことは一度もない。
確かに能力値は高いだろう。一般人からしてみれば、あやつらもそれなりに凄いのだろうが、まぁ当たり前だが俺には到底及ばないし、言ってしまえばまだこの俺の隣を歩いている馬鹿の方がまだマシというもの。
しかし、そんな俺が唯一敵わないと思わされた人物が一人いる。
それが、学園始まって以来の逸材と謳われる、臥龍院 知桜智(がりゅういん ともちさ)その人だ。
その人は、
「ふーみん? 話聞いてる? ふーみんってば」
「……はぁ、聞いてるよ猿彦くん。何?」
「いや、学食着いちゃったからさ、どうする?」
「…それ、今更じゃない? てか、こうなった原因は君なんだけどな?」
「あはは、ごめんよ。悪かったとは思ってるけどさ、待ちに待った王道くんが……アンチだけど、来たんだから絡まなきゃ損ってもんだよ!」
「……………はぁ」
この腐れ幼馴染は『腐男子』とかいうやつらしく、男同士がいちゃついているのを見て興奮するという理解し難い性癖がある。
今まで俺がそれに巻き込まれたことがなかったから特に問題視してなかったが…まぁ俺は心が広いからな。今回のことは許してやるが、カタがついてからきっちり迷惑料を徴収しよう。
それくらいあってもいいだろうと思う程、このクソ猿に振り回されるのは苦痛なのだ。
クソ猿に堕ちた教師や生徒は目の敵にしてくるし、それなりに付き合っていた奴らも遠目から気の毒そうに見ているだけ。立場的にも力的にも抵抗できず、振り回される俺に嬉々として近寄ってくるのはこの馬鹿だけ。
………憂鬱だ。
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