ゴブリンロード

水鳥天

文字の大きさ
15 / 213

説得

しおりを挟む
 レナはユウトと別れ、急ぎ野営地の中心に向かいながら叫んだ。

「敵襲!」

 レナの叫びを把握した隊員たちはすぐさま行動を開始する。

 考えうる必要最低限を最速で装備を整える者。とるものもとらず一目散に中心に向かう者。

 それぞれが気づいていない者たちにも声を掛け、レナを中心にして水面に広がる波紋のようにすぐさま野営地全体に伝わる。レナが中心地にたどり着くころにはすでに戦闘態勢の隊員が何人か集まり詳細を待っていた。

 レナはその輪の中心に駆け込み、切れる息をすぐに整え言葉を発する。

「報告。中型魔獣が侵入を確認。獣型。確認数は一。現在は森の中で・・・あのゴブリンが囮になって引きつけています」

 矢継ぎ早に今確かな情報を報告するレナは最後に言葉が詰まった。

 危険な囮役を買って出て森へと消えた者の名をレナはまだ知らなかった。そのことがいびつな罪悪感となり、レナの胸に針を刺したような痛みが走る。

 レナの報告を聞き、その場に集まっていた数人の戦士たちに空気が重たくなったことをレナは感じた。

 沈黙。いつもなら誰かが率先して今後の対応に意見を出し合うはずなのに誰も口を開こうとしない。レナにもその感覚は理解できた。

 それは新たなギルドメンバーがただゴブリンの姿をしているから、というだけではない。

 この野営地に集まったギルドメンバーであればガラルドに対して少なからず憧れ、尊敬の念を持っている。それはゴブリンに徹底的な殲滅意志とたゆまぬ努力と行動を示し続けている姿に安心を覚えるからだった。そのガラルドが認めたとはいえほぼゴブリンにしか見えない得体のしれない魔物を仲間のように接する様子はそれぞれのギルドメンバーの持つガラルドに対する期待を裏切られたように感じてしまう。だからあの風変わりなゴブリンはその姿以上に自身も含めギルドメンバー達の感情を揺さぶっているとレナは感じていた。

 だが今は違う。あの魔獣に相対した短い時間のやり取りで協力し、片方は進んで危険を請け負った。魔物かどうかはわからない、しかしここであれを見殺しにするようなことがあれば後悔するという確信がレナのゴブリンに対する負の感情より奥の方からレナの意志を突き動かす。

「助けに行きましょう!あいつは自ら魔獣を引きつけこの場を離れた。ここであたし達が手を抜けば何のためにゴブリンを狩ってきたのかわからなくなりますよ!」

 沈黙を破ったレナの声はよく通りその場に集まっていた戦士達に響く。

 空気が変わる。どこか曇っていた皆の顔の影が消え、決意に満ちたようにレナには見えた。

 そこに声が響く。

「何をしている。報告は聞いたぞ。まだ魔導柵から出ていないことは確認した。各人、等間隔で森の中を探索する。奴の名はユウト。声をかけ続けるんだ」

 甲冑を着込んだ中年の男が人だかりの奥から歩きながら指示をだした。その指示をきっかけにしてその場に集まった戦士たちは一斉に駆け出す。

 レナはその様子を呆然と見送る。その戦士たちの表情にどこか清々しさのようなものが覗いている気がした。

 指示を出した甲冑の男はレナの元まで歩いてくるとレナに声をかけた。

「君の武器をメル君が持ってきてくれたぞ。我々も急ごう」

 そういうと男は手にしていた短槍をレナに渡す。

「ありがとうございます。レイノス副隊長」

 慣れ親しんだ武器を受け取りレナとレイノスも森へ向かった。

 魔獣によってバラバラにされたユウトのテントを横目に森へと駆け入る。森の中はユウトを探す隊員たちの魔導灯の明かりが暗闇の中で等間隔に揺れ、ユウトを呼ぶ声が聞こえていた。魔導柵から出た形跡はないということである程度範囲が絞られるとはいえ野営地から引き離そうとしていたなら遠くにいることも考えられる。

 レナは最前線に追いつくとそのまま追い越し魔導灯の光が邪魔にならない程度のところで立ち止まる。そして視野を広げて暗闇を凝視した。

 ユウトは魔剣を持っていた。使い方を知らないとはいえその刃が活性化する可能性は十分考えられる。その光をつかみ取ろうとレナは視界の中の変化に集中する。

 すると一瞬。視界の隅に光を捕えた。木々の間をすり抜けた点のような光の点滅をレナは逃さなかった。

 その方向へ向けた視点を離さず自身の魔導灯に光をともして掲げ叫んだ。

「見つけた!ついてきて!」

 掲げた魔導灯を揺らしながら一瞬光った方向めがけて走り出す。他の魔導灯もそれに引っ張られるように一斉に動き出した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

聖女を追放した国は、私が祈らなくなった理由を最後まで知りませんでした

藤原遊
ファンタジー
この国では、人の悪意や欲望、嘘が積み重なると 土地を蝕む邪気となって現れる。 それを祈りによって浄化してきたのが、聖女である私だった。 派手な奇跡は起こらない。 けれど、私が祈るたびに国は荒廃を免れてきた。 ――その役目を、誰一人として理解しないまま。 奇跡が少なくなった。 役に立たない聖女はいらない。 そう言われ、私は静かに国を追放された。 もう、祈る理由はない。 邪気を生み出す原因に目を向けず、 後始末だけを押し付ける国を守る理由も。 聖女がいなくなった国で、 少しずつ異変が起こり始める。 けれど彼らは、最後まで気づかなかった。 私がなぜ祈らなくなったのかを。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生

西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。 彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。 精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。 晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。 死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。 「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」 晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。

才能に打ち砕かれた日から、僕の最強は始まった

雷覇
ファンタジー
ワノクニ、蒼神流・蒼月道場。 天城蒼真は幼き頃から剣を学び、努力を重ねてきた。 だがある日、異世界から来た「勇者」瀬名隼人との出会いが、すべてを変える。 鍛錬も経験もない隼人は、生まれながらの天才。 一目見ただけで蒼真と幼馴染の朱音の剣筋を見切り、打ち破った。 朱音は琴音の命で、隼人の旅に同行することを決意する。 悔しさを抱えた蒼真は、道場を後にする。 目指すは“修羅の山”――魔族が封印され、誰も生きて戻らぬ死地へと旅立つ。

知識スキルで異世界らいふ

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

『ミッドナイトマート 〜異世界コンビニ、ただいま営業中〜』

KAORUwithAI
ファンタジー
深夜0時——街角の小さなコンビニ「ミッドナイトマート」は、異世界と繋がる扉を開く。 日中は普通の客でにぎわう店も、深夜を回ると鎧を着た騎士、魔族の姫、ドラゴンの化身、空飛ぶ商人など、“この世界の住人ではない者たち”が静かにレジへと並び始める。 アルバイト店員・斉藤レンは、バイト先が異世界と繋がっていることに戸惑いながらも、今日もレジに立つ。 「袋いりますか?」「ポイントカードお持ちですか?」——そう、それは異世界相手でも変わらない日常業務。 貯まるのは「ミッドナイトポイントカード(通称ナイポ)」。 集まるのは、どこか訳ありで、ちょっと不器用な異世界の住人たち。 そして、商品一つひとつに込められる、ささやかで温かな物語。 これは、世界の境界を越えて心を繋ぐ、コンビニ接客ファンタジー。 今夜は、どんなお客様が来店されるのでしょう? ※異世界食堂や異世界居酒屋「のぶ」とは 似て非なる物として見て下さい

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

処理中です...