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日も陰り夕方を迎えるころ、ユウトは準備を済ませ救護テントで待っていた。
魔獣、以前のセブルとの戦闘前あたりからあった自身の知覚について考える。始めは気のせいだろうと考えていた他者からの攻撃的な意志や気配を感じる感覚、この感覚がより敏感で広範囲になっていることが自覚できるほどだった。今もこのテントを遠目にレナが見ていることがなんとなくユウトには感じることができる。
そのことに加えて視界の解像度がより高まっており光がまぶしく感じる。普段であれば気にならなかった人の目線、口の動き、動作、飛び回る虫の羽の動きまで知覚出来てしまう。このことがユウトをじわじわと苦しめていた。それはユウト自身がそれを調節できないことにある。無駄に大量な情報を処理し続けているせいか軽い頭痛に付きまとわれていた。
前日の診察でヨーレンに相談し、入ってくる情報を減らすためにフード付きのマントを身にまとっている。これはある程度の効果があったものの根本的に解決されることはなかった。
女性の前での暴走もこの知覚の暴走が原因ではないかとユウトは考える。どうにか解決策を見つけなければいろいろな意味で現状だと消耗が激しすぎるとユウトは悩んでいた。
そうしてユウトが悩んでいるとヨーレンが呼びに来る。
ユウトは言われるがままヨーレンにひきつられて野営地内を進む。これまでどこを見ても視界に入ってくるテントはそのほとんどが片づけられ、隊員たちは数人で集まり焚火を囲んでは食事をとって談笑したり、すこし酒でも飲んでいるのか羽目を外した人の楽しそうな声が聞こえている。それぞれが遠征最後の夜の打ち上げを楽しんでいるようにユウトには見えた。
そしてしばらく歩いて一つの焚火の集団に到着する。そこにたのはガラルドと初めて見る顔の男が一人。おそらく初めて見るこの男が副隊長のレイノスなのだろうとユウトは思った。
焚火の周りには丸太がいくつか置かれており二人はすでに腰かけてユウトたちの到着を待っていたように見える。他の集団と違い随分と物静かで重い雰囲気だった。
後ろから着いてきていたレナも合流し合計5人は丸太へ座り焚火を囲む。ガラルド含めヨーレン以外の三人は完全武装といういでたちで臨戦態勢といった印象だった。敵意は感じられないもののユウトは少し身構えてしまう。
最初に口を開いたのはレイノスだった。
「完全装備で緊張させてしまっただろうか。申し訳ないなユウト。私はレイノス。この隊の副隊長だ。話すのは初めてだったな」
レイノスは物腰柔らかに微笑みながらユウトに語り掛ける。声には聞き覚えがあった。ガラルドとゴブリンを倒したあとガラルドと自身の扱いについて相談していた相手だ。
「気を使ってくれてありがとう。こちらこそよろしくレイノス副隊長」
「ああ。よろしくユウト。それでは少し堅苦しくなるがここに集まった者の今後について話そうと思う」
温和だったレイノスの顔は引き締まりこの場の緊張感が少し高まる。
「まずはユウト。君の今後の処遇についてだ」
早速の内容にユウトは気構える。自身の生死が関わると言っても過言ではなかった。
「ガラルドとも話したが君がこの野営地にいた数日間でゴブリンの密偵であるような疑いは晴れつつある。君はみんなの信頼を得ようとしている。だが今、別の問題なのが君の能力を我々は持て余しているということだ」
レイノスの言っていることにユウトも同意だった。ユウト自身もその能力の扱いを持て余している。
「だから現状で君を王都に迎え、人として認定し安全を確保しようにも同意を得ることが難しい。そこで君は王都への帰還部隊から離れて大工房に向かってもらう」
「大工房?」
初めて聞いた言葉にユウトは思わず聞き返してしまった。
「知らないか。それほど周知されているわけでもないからな。ヨーレン。説明してやってくれないか」
レイノスはユウトの反応にそれほど疑問を持たずヨーレンに話を振る。
「はい。大工房というのは魔力の研究、魔術師の育成、魔術具の開発等を行う魔術師協会の小規模都市のことだよ。魔術枷のチョーカーや柵、ユウトの使った魔剣も大工房で生産されたものかな」
「なるほど。それでオレはその大工房でどうなるんだ?」
ユウトにとっては自身と魔術について関連性が見えなかった。
「君の最も特異な点は内包する魔力量だ。わかりやすく例をあげるなら魔剣の刀身を崩壊させる程の魔力供給力は人の身でも前例は少ない。ましてゴブリンでは考えられない」
レイノスはそう言いながら脇に置いていた荷物の中から布に包まれた何かを取り出し広げるとそこにはユウトが最後に使用して刀身が砕けた魔剣だった。
「これを見せれば大工房の魔術師たちも眼の色を変えるだろう。ユウトにとっては不快と思うが君の身体について調査を行ってもらい人族にとって無害であることの証明を得てもらいたい。もちろん君の生命を脅かすことのないよう気を配る。小鬼殲滅ギルドとして君をギルドメンバーとして認める書状を含めヨーレンに渡しておく」
「ヨーレンに?」
唐突なヨーレンの登場にユウトは少し驚く。
「僕は大工房から出向している魔術師なんだ。本来なら一度王都へ行って報告会が終わってから大工房に戻る予定だったけどそれを繰り上げてユウトと大工房に帰ることにしたんだ」
ヨーレンが経緯を補足する。
「そういうわけだ。ユウト、納得してもらえただろうか」
レイノスはユウトへ尋ねる。ユウトに拒否するような権限はなかったがあえて本人の同意を確認するのはあとあと揉め事を避けるためなのかもしれない。組織をまとめる手腕は人付き合いに全く向かないガラルドよりはるかに高いとユウトは感じた。
「わかった。従おう。身の安全についてはよろしく頼む」
ユウトは些細な抵抗として念押しする。
魔獣、以前のセブルとの戦闘前あたりからあった自身の知覚について考える。始めは気のせいだろうと考えていた他者からの攻撃的な意志や気配を感じる感覚、この感覚がより敏感で広範囲になっていることが自覚できるほどだった。今もこのテントを遠目にレナが見ていることがなんとなくユウトには感じることができる。
そのことに加えて視界の解像度がより高まっており光がまぶしく感じる。普段であれば気にならなかった人の目線、口の動き、動作、飛び回る虫の羽の動きまで知覚出来てしまう。このことがユウトをじわじわと苦しめていた。それはユウト自身がそれを調節できないことにある。無駄に大量な情報を処理し続けているせいか軽い頭痛に付きまとわれていた。
前日の診察でヨーレンに相談し、入ってくる情報を減らすためにフード付きのマントを身にまとっている。これはある程度の効果があったものの根本的に解決されることはなかった。
女性の前での暴走もこの知覚の暴走が原因ではないかとユウトは考える。どうにか解決策を見つけなければいろいろな意味で現状だと消耗が激しすぎるとユウトは悩んでいた。
そうしてユウトが悩んでいるとヨーレンが呼びに来る。
ユウトは言われるがままヨーレンにひきつられて野営地内を進む。これまでどこを見ても視界に入ってくるテントはそのほとんどが片づけられ、隊員たちは数人で集まり焚火を囲んでは食事をとって談笑したり、すこし酒でも飲んでいるのか羽目を外した人の楽しそうな声が聞こえている。それぞれが遠征最後の夜の打ち上げを楽しんでいるようにユウトには見えた。
そしてしばらく歩いて一つの焚火の集団に到着する。そこにたのはガラルドと初めて見る顔の男が一人。おそらく初めて見るこの男が副隊長のレイノスなのだろうとユウトは思った。
焚火の周りには丸太がいくつか置かれており二人はすでに腰かけてユウトたちの到着を待っていたように見える。他の集団と違い随分と物静かで重い雰囲気だった。
後ろから着いてきていたレナも合流し合計5人は丸太へ座り焚火を囲む。ガラルド含めヨーレン以外の三人は完全武装といういでたちで臨戦態勢といった印象だった。敵意は感じられないもののユウトは少し身構えてしまう。
最初に口を開いたのはレイノスだった。
「完全装備で緊張させてしまっただろうか。申し訳ないなユウト。私はレイノス。この隊の副隊長だ。話すのは初めてだったな」
レイノスは物腰柔らかに微笑みながらユウトに語り掛ける。声には聞き覚えがあった。ガラルドとゴブリンを倒したあとガラルドと自身の扱いについて相談していた相手だ。
「気を使ってくれてありがとう。こちらこそよろしくレイノス副隊長」
「ああ。よろしくユウト。それでは少し堅苦しくなるがここに集まった者の今後について話そうと思う」
温和だったレイノスの顔は引き締まりこの場の緊張感が少し高まる。
「まずはユウト。君の今後の処遇についてだ」
早速の内容にユウトは気構える。自身の生死が関わると言っても過言ではなかった。
「ガラルドとも話したが君がこの野営地にいた数日間でゴブリンの密偵であるような疑いは晴れつつある。君はみんなの信頼を得ようとしている。だが今、別の問題なのが君の能力を我々は持て余しているということだ」
レイノスの言っていることにユウトも同意だった。ユウト自身もその能力の扱いを持て余している。
「だから現状で君を王都に迎え、人として認定し安全を確保しようにも同意を得ることが難しい。そこで君は王都への帰還部隊から離れて大工房に向かってもらう」
「大工房?」
初めて聞いた言葉にユウトは思わず聞き返してしまった。
「知らないか。それほど周知されているわけでもないからな。ヨーレン。説明してやってくれないか」
レイノスはユウトの反応にそれほど疑問を持たずヨーレンに話を振る。
「はい。大工房というのは魔力の研究、魔術師の育成、魔術具の開発等を行う魔術師協会の小規模都市のことだよ。魔術枷のチョーカーや柵、ユウトの使った魔剣も大工房で生産されたものかな」
「なるほど。それでオレはその大工房でどうなるんだ?」
ユウトにとっては自身と魔術について関連性が見えなかった。
「君の最も特異な点は内包する魔力量だ。わかりやすく例をあげるなら魔剣の刀身を崩壊させる程の魔力供給力は人の身でも前例は少ない。ましてゴブリンでは考えられない」
レイノスはそう言いながら脇に置いていた荷物の中から布に包まれた何かを取り出し広げるとそこにはユウトが最後に使用して刀身が砕けた魔剣だった。
「これを見せれば大工房の魔術師たちも眼の色を変えるだろう。ユウトにとっては不快と思うが君の身体について調査を行ってもらい人族にとって無害であることの証明を得てもらいたい。もちろん君の生命を脅かすことのないよう気を配る。小鬼殲滅ギルドとして君をギルドメンバーとして認める書状を含めヨーレンに渡しておく」
「ヨーレンに?」
唐突なヨーレンの登場にユウトは少し驚く。
「僕は大工房から出向している魔術師なんだ。本来なら一度王都へ行って報告会が終わってから大工房に戻る予定だったけどそれを繰り上げてユウトと大工房に帰ることにしたんだ」
ヨーレンが経緯を補足する。
「そういうわけだ。ユウト、納得してもらえただろうか」
レイノスはユウトへ尋ねる。ユウトに拒否するような権限はなかったがあえて本人の同意を確認するのはあとあと揉め事を避けるためなのかもしれない。組織をまとめる手腕は人付き合いに全く向かないガラルドよりはるかに高いとユウトは感じた。
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