ゴブリンロード

水鳥天

文字の大きさ
28 / 213

大橋砦

しおりを挟む
 ユウトが桶の下に隠れてしばらく馬車は動いたり止まったりを繰り返す。その中には長めに停車し、言葉のやり取りが行われることもあったがくぐもった声しか聞こえなかった。

 そして馬車は大きく曲がったのち完全に停車する。

 桶の底がコンコンとノックされ合図であると思ったユウトは桶から顔を出す。合図をくれたのはヨーレンだった。

「お疲れ様ユウト。もう大丈夫だ。今日はここ、大橋砦で休むことになる。面倒事を避けるためにフードでしっかり顔は隠しておいてくれ。部屋を取る予定なんだけどユウトにはそこで今晩はおとなしくしてもらうことになるから食事を持っていくよ」
「わかったよ。ヨーレン。オレも人混みはうるさくてしんどいから静かな方が助かるよ。晩飯は期待してるからうまいものを頼むな」
「期待してていいよ。この砦は観光用に大食堂を備えていて味も評判だからね」

 ヨーレンの話にユウトの気分は上がる。ヨーレンの作るスープはうまかったが食材に変化がないとさすがにユウトは飽きがきていた。

 そんな他愛もない会話をかわしつつユウトは多くの人の気配を感じている。その感覚は野営地に居た頃よりはるかに鋭敏になっていた。ここ数日の間、人気のない草原ばかりの道のりで気が休まっていたせいか、もしくわユウトの身体の感覚がどんどん鋭敏さを増しているためなのかはわからなかったが多くの人の気配はユウトの精神を消耗させる。

 そしてユウトはヨーレンに連れられ荷馬車を降りる。ヨーレンの後ろをついて歩きながらフードの狭い視界の中から周りを観察した。

 門から続く街道には多くの荷馬車が行き来している。その街道の先を目で追うと視界が開き真っ直ぐに伸びる街道。じっくりと見ることはできなかったが道幅をそのままに伸びる街道がそのまま石橋であるならとんでもない大きさだということが予想できる。なんとかその全貌を眺められたらいいのにとユウトは思った。

 さらに観察を続けてみるとユウトたち以外にも荷馬車が綺麗に駐車されており、馬たちは別の場所に移されていく。ケランが馬を連れていく後ろ姿が見える。

 荷馬車を無人にしていいのかと心配したが数人のおそろいの甲冑を着込んで武装した兵士が緊張感を持って荷馬車周辺を監視していることから盗人のようなものはしっかり取り締まっているだろうということがわかる。

 ヨーレンは大きな建物の方へと歩き出す。その建物は街道側の壁が抜かれており太い石柱だけが目立っていた。その先には広い空間と賑やかな声が響いている。

 吹き抜けの大きなホールにはいくつものテーブルに長いカウンター。さらに奥には調理を行う厨房まで見える。日も陰り出したころ合いということもあってか酒と食事を取る人の数も多い。ユウトにはその騒がしく楽し気な光景が学食のピークタイムを思い出させどこか懐かしい気分にさせた。

 ヨーレンとユウトはホールの中まで入ることはなく入口のそばを通り過ぎ、その隣の扉から中に入る。そこにはカウンターが置かれ身なりの整った男が入っている。広めにとられた空間、その奥には階段、ガラルドとレナはカウンターの反対側の壁沿いに立っていてこちらを待っていてユウトたちを待っているようだった。

 ヨーレンはカウンターにそのまま向かい男と話をしたあと紙きれを渡す。そしてユウト、ガラルド、レナを連れて奥の階段を折り返しながら三階まで上がった。二階も三階も長い廊下といくつもの扉があり魔導灯の明かりが照らしていたが三階は扉の感覚が広い。廊下を歩き最も奥の扉を開けるとそこは部屋になっていて二段のベッドが二つ両端の壁に備え付けられ中央にテーブルとイス、正面には開け放たれた窓から光が差し込んでいた。

 この世界に来てユウトは初めてベッドを見る。汚れのない敷物には清潔感があった。触り心地はよく弾力がある。これまでの就寝した環境の中ではトップクラスの環境にユウトは期待感でわくわくした。

 それからヨーレンは買い出しと晩御飯の調達へとでかけ、ガラルドもこの砦の兵士に話があると部屋を出た。

 残ったのはユウトとレナの二人。レナは椅子に腰かけ荷馬車から持ってきていた短槍の手入れを始めている。ユウトはこの数日でもっとも心中が穏やかではいられない。ヨーレンからお手洗いの場所を確認できたので一安心だが不安は募り一人瞑想に励み精神統一を行っていた。

「ねぇ、ユウト」

 突然のレナからの呼びかけにユウトの心臓は跳ねた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

聖女を追放した国は、私が祈らなくなった理由を最後まで知りませんでした

藤原遊
ファンタジー
この国では、人の悪意や欲望、嘘が積み重なると 土地を蝕む邪気となって現れる。 それを祈りによって浄化してきたのが、聖女である私だった。 派手な奇跡は起こらない。 けれど、私が祈るたびに国は荒廃を免れてきた。 ――その役目を、誰一人として理解しないまま。 奇跡が少なくなった。 役に立たない聖女はいらない。 そう言われ、私は静かに国を追放された。 もう、祈る理由はない。 邪気を生み出す原因に目を向けず、 後始末だけを押し付ける国を守る理由も。 聖女がいなくなった国で、 少しずつ異変が起こり始める。 けれど彼らは、最後まで気づかなかった。 私がなぜ祈らなくなったのかを。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生

西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。 彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。 精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。 晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。 死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。 「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」 晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。

才能に打ち砕かれた日から、僕の最強は始まった

雷覇
ファンタジー
ワノクニ、蒼神流・蒼月道場。 天城蒼真は幼き頃から剣を学び、努力を重ねてきた。 だがある日、異世界から来た「勇者」瀬名隼人との出会いが、すべてを変える。 鍛錬も経験もない隼人は、生まれながらの天才。 一目見ただけで蒼真と幼馴染の朱音の剣筋を見切り、打ち破った。 朱音は琴音の命で、隼人の旅に同行することを決意する。 悔しさを抱えた蒼真は、道場を後にする。 目指すは“修羅の山”――魔族が封印され、誰も生きて戻らぬ死地へと旅立つ。

知識スキルで異世界らいふ

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

『ミッドナイトマート 〜異世界コンビニ、ただいま営業中〜』

KAORUwithAI
ファンタジー
深夜0時——街角の小さなコンビニ「ミッドナイトマート」は、異世界と繋がる扉を開く。 日中は普通の客でにぎわう店も、深夜を回ると鎧を着た騎士、魔族の姫、ドラゴンの化身、空飛ぶ商人など、“この世界の住人ではない者たち”が静かにレジへと並び始める。 アルバイト店員・斉藤レンは、バイト先が異世界と繋がっていることに戸惑いながらも、今日もレジに立つ。 「袋いりますか?」「ポイントカードお持ちですか?」——そう、それは異世界相手でも変わらない日常業務。 貯まるのは「ミッドナイトポイントカード(通称ナイポ)」。 集まるのは、どこか訳ありで、ちょっと不器用な異世界の住人たち。 そして、商品一つひとつに込められる、ささやかで温かな物語。 これは、世界の境界を越えて心を繋ぐ、コンビニ接客ファンタジー。 今夜は、どんなお客様が来店されるのでしょう? ※異世界食堂や異世界居酒屋「のぶ」とは 似て非なる物として見て下さい

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

処理中です...