53 / 213
魔膜
しおりを挟む
ユウトはその晩は翌朝まで城壁の上で過ごすことにしていた。昼間に十分睡眠をとることができていた、というのが建前半分でレナの近くで眠れる気がしなかったというのが主な理由だった。
暇を持て余していたユウトは一人城壁の上で日課としている魔剣の訓練にいそしんでいる。ユウトの様子を見て哨戒をしていたディゼルが声をかけてきた。
「ユウトは熱心だね。つい今朝、戦闘を終えたばかりなのに」
「いや、何かやってないと不安だっていうのもあるんだよ」
ユウトは構えをといてディゼルに向き合い荒くなった息を整える。
「こんな身なりだろ。何かあったとき、できることを増やしておきたいんだ。
あっ!そういえば昨日の夕方、魔鳥の攻撃から荷馬車を助けるとき城壁を飛び降りてどうして無事だったんだ?あれも魔術か?」
ユウトはディゼルが高所から飛び降りて無事だったことへの疑問を思い出し、ぱあぁっと表情が明るくなると食いつくようにディゼルへ尋ねる。
「あれは魔術膜の応用だよ。着地する直前に展開した膜で空気を包み込んで圧縮し衝撃を最大に吸収したところで一方向に破裂させたんだ」
「え?膜?包み込む?どういうことなんだ」
ユウトにはディゼルの言っていることに全く見当がつかずぽかんとしている。そのユウトの様子にディゼルは少し驚いた。
「すまない。あの戦いぶりからもう知っているものだと思っていた。
そうだな。ちょっと実践してみようか。僕の手にユウトは拳で打ってみてくれ」
ディゼルはそういうとユウトに向けて右手のひらを掲げる。ユウトはそこへ気軽にパンチを放った。
するとパンと音を立ててユウトの拳はディゼルに受け止められる。他愛もない一連の動きの流れだったがユウトはとても驚いていた。
それはまるでディゼルの手を風船越しにパンチを行ったような感覚。パンという音は手と拳が合わさった音ではなく触れるほんの一瞬前に鳴っている。
「体の表面に魔力を放出して膜を作り出す。そしてその膜の中に魔力を気体のような魔力を充満させる。そうして膜の強度、収縮、注入する魔力量を調節することで衝撃の吸収、反発などの現象を起こすことができるんだ。これは魔術より体術に近い原始魔術だから魔術師や魔導士じゃなくても使いやすい。
この技術は使用者の器用さと修練次第。老兵でもこの技術で衰えた筋力を補っている者も多いよ」
「一つ質問なんだけどディゼルは全身鎧を身に着けてるよな、どうやって鎧越しにその能力を使用しているんだ?」
「この膜は魔力を流しやすいものに触れていれば拡張して発現することができるんだ。金属は魔力を通しやすいから出力しやすいね。
ほらブーツの裏に金属が見えるだろ。軍用服にも魔力を通しやすい素材が織り込まれているね」
ディゼルはそういって片足を持ち上げ裏面を見せる。等間隔に点を打つように金属の円が見えた。
ユウトも自身の片足をあげてブーツをのぞき込んでみるとディゼルのモノより少ないが同じような金属の円があるのを確認できる。ユウトは「おお」と感嘆の声をあげた。
「防御に使われることが多いけど、調整のうまい人になると攻撃にも転用できるよ。
まずは手のひらでできるように練習するといい」
「なるほど。ありがとうディゼル。とても勉強になった」
ユウトがディゼルへ礼を言い終わったタイミングで遠くからディゼルを呼ぶ声が聞こえる。
「副隊ちょー!そろそろ交代だそーでーす」
城壁の下り階段の近くでカーレンが大きく手を振りながらディゼルよ呼んでいた。
「じゃあユウト。そろそろ行くよ。またいつか」
ディゼルはそういって手を差し出した。
ユウトは一瞬その意味がわからなかったが握手を求めていることに気づき慌てて手を出し握る。ディゼルは力強く握り返した。
「ああ。またいつか」
そして二人は手を離すとディゼルはカーレンの方に向けて歩き出し去っていった。
ユウト達が大橋砦に来て二回目の朝を迎える。日の光が差すころケランの馬車はちょうど門を抜け大石橋を渡りだした。
二回目に見るユウトはまぶたを重たそうにゆっくりと上下させながらケランの横の御者席で日の光を浴びている。
ディゼルと別れたあと、新しい魔力の使い方に興奮し夜通し修練をこなしていた。そのため消費された魔力と酷使した集中力から身体が睡眠を求めていた。
「ユウトさん。ボクとラトムで周りを警戒しときますから今は寝てください」
「そっス、そうっス。初任務がんばるっス」
二匹の申し出にユウトは甘えることにして警戒を頼み背中を持たれかけされフードで日の光をさえぎりユウトは仮眠の態勢を取る。何かが楽しくて、熱中して、夜通しやり続けて寝不足なんていつ以来だろうかとユウトは思った。
疲れた体と充実した精神でユウトの意識は眠りに落ちた。
暇を持て余していたユウトは一人城壁の上で日課としている魔剣の訓練にいそしんでいる。ユウトの様子を見て哨戒をしていたディゼルが声をかけてきた。
「ユウトは熱心だね。つい今朝、戦闘を終えたばかりなのに」
「いや、何かやってないと不安だっていうのもあるんだよ」
ユウトは構えをといてディゼルに向き合い荒くなった息を整える。
「こんな身なりだろ。何かあったとき、できることを増やしておきたいんだ。
あっ!そういえば昨日の夕方、魔鳥の攻撃から荷馬車を助けるとき城壁を飛び降りてどうして無事だったんだ?あれも魔術か?」
ユウトはディゼルが高所から飛び降りて無事だったことへの疑問を思い出し、ぱあぁっと表情が明るくなると食いつくようにディゼルへ尋ねる。
「あれは魔術膜の応用だよ。着地する直前に展開した膜で空気を包み込んで圧縮し衝撃を最大に吸収したところで一方向に破裂させたんだ」
「え?膜?包み込む?どういうことなんだ」
ユウトにはディゼルの言っていることに全く見当がつかずぽかんとしている。そのユウトの様子にディゼルは少し驚いた。
「すまない。あの戦いぶりからもう知っているものだと思っていた。
そうだな。ちょっと実践してみようか。僕の手にユウトは拳で打ってみてくれ」
ディゼルはそういうとユウトに向けて右手のひらを掲げる。ユウトはそこへ気軽にパンチを放った。
するとパンと音を立ててユウトの拳はディゼルに受け止められる。他愛もない一連の動きの流れだったがユウトはとても驚いていた。
それはまるでディゼルの手を風船越しにパンチを行ったような感覚。パンという音は手と拳が合わさった音ではなく触れるほんの一瞬前に鳴っている。
「体の表面に魔力を放出して膜を作り出す。そしてその膜の中に魔力を気体のような魔力を充満させる。そうして膜の強度、収縮、注入する魔力量を調節することで衝撃の吸収、反発などの現象を起こすことができるんだ。これは魔術より体術に近い原始魔術だから魔術師や魔導士じゃなくても使いやすい。
この技術は使用者の器用さと修練次第。老兵でもこの技術で衰えた筋力を補っている者も多いよ」
「一つ質問なんだけどディゼルは全身鎧を身に着けてるよな、どうやって鎧越しにその能力を使用しているんだ?」
「この膜は魔力を流しやすいものに触れていれば拡張して発現することができるんだ。金属は魔力を通しやすいから出力しやすいね。
ほらブーツの裏に金属が見えるだろ。軍用服にも魔力を通しやすい素材が織り込まれているね」
ディゼルはそういって片足を持ち上げ裏面を見せる。等間隔に点を打つように金属の円が見えた。
ユウトも自身の片足をあげてブーツをのぞき込んでみるとディゼルのモノより少ないが同じような金属の円があるのを確認できる。ユウトは「おお」と感嘆の声をあげた。
「防御に使われることが多いけど、調整のうまい人になると攻撃にも転用できるよ。
まずは手のひらでできるように練習するといい」
「なるほど。ありがとうディゼル。とても勉強になった」
ユウトがディゼルへ礼を言い終わったタイミングで遠くからディゼルを呼ぶ声が聞こえる。
「副隊ちょー!そろそろ交代だそーでーす」
城壁の下り階段の近くでカーレンが大きく手を振りながらディゼルよ呼んでいた。
「じゃあユウト。そろそろ行くよ。またいつか」
ディゼルはそういって手を差し出した。
ユウトは一瞬その意味がわからなかったが握手を求めていることに気づき慌てて手を出し握る。ディゼルは力強く握り返した。
「ああ。またいつか」
そして二人は手を離すとディゼルはカーレンの方に向けて歩き出し去っていった。
ユウト達が大橋砦に来て二回目の朝を迎える。日の光が差すころケランの馬車はちょうど門を抜け大石橋を渡りだした。
二回目に見るユウトはまぶたを重たそうにゆっくりと上下させながらケランの横の御者席で日の光を浴びている。
ディゼルと別れたあと、新しい魔力の使い方に興奮し夜通し修練をこなしていた。そのため消費された魔力と酷使した集中力から身体が睡眠を求めていた。
「ユウトさん。ボクとラトムで周りを警戒しときますから今は寝てください」
「そっス、そうっス。初任務がんばるっス」
二匹の申し出にユウトは甘えることにして警戒を頼み背中を持たれかけされフードで日の光をさえぎりユウトは仮眠の態勢を取る。何かが楽しくて、熱中して、夜通しやり続けて寝不足なんていつ以来だろうかとユウトは思った。
疲れた体と充実した精神でユウトの意識は眠りに落ちた。
0
あなたにおすすめの小説
聖女を追放した国は、私が祈らなくなった理由を最後まで知りませんでした
藤原遊
ファンタジー
この国では、人の悪意や欲望、嘘が積み重なると
土地を蝕む邪気となって現れる。
それを祈りによって浄化してきたのが、聖女である私だった。
派手な奇跡は起こらない。
けれど、私が祈るたびに国は荒廃を免れてきた。
――その役目を、誰一人として理解しないまま。
奇跡が少なくなった。
役に立たない聖女はいらない。
そう言われ、私は静かに国を追放された。
もう、祈る理由はない。
邪気を生み出す原因に目を向けず、
後始末だけを押し付ける国を守る理由も。
聖女がいなくなった国で、
少しずつ異変が起こり始める。
けれど彼らは、最後まで気づかなかった。
私がなぜ祈らなくなったのかを。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生
西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。
彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。
精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。
晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。
死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。
「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」
晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。
才能に打ち砕かれた日から、僕の最強は始まった
雷覇
ファンタジー
ワノクニ、蒼神流・蒼月道場。
天城蒼真は幼き頃から剣を学び、努力を重ねてきた。
だがある日、異世界から来た「勇者」瀬名隼人との出会いが、すべてを変える。
鍛錬も経験もない隼人は、生まれながらの天才。
一目見ただけで蒼真と幼馴染の朱音の剣筋を見切り、打ち破った。
朱音は琴音の命で、隼人の旅に同行することを決意する。
悔しさを抱えた蒼真は、道場を後にする。
目指すは“修羅の山”――魔族が封印され、誰も生きて戻らぬ死地へと旅立つ。
知識スキルで異世界らいふ
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ
『ミッドナイトマート 〜異世界コンビニ、ただいま営業中〜』
KAORUwithAI
ファンタジー
深夜0時——街角の小さなコンビニ「ミッドナイトマート」は、異世界と繋がる扉を開く。
日中は普通の客でにぎわう店も、深夜を回ると鎧を着た騎士、魔族の姫、ドラゴンの化身、空飛ぶ商人など、“この世界の住人ではない者たち”が静かにレジへと並び始める。
アルバイト店員・斉藤レンは、バイト先が異世界と繋がっていることに戸惑いながらも、今日もレジに立つ。
「袋いりますか?」「ポイントカードお持ちですか?」——そう、それは異世界相手でも変わらない日常業務。
貯まるのは「ミッドナイトポイントカード(通称ナイポ)」。
集まるのは、どこか訳ありで、ちょっと不器用な異世界の住人たち。
そして、商品一つひとつに込められる、ささやかで温かな物語。
これは、世界の境界を越えて心を繋ぐ、コンビニ接客ファンタジー。
今夜は、どんなお客様が来店されるのでしょう?
※異世界食堂や異世界居酒屋「のぶ」とは
似て非なる物として見て下さい
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました
okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる