ゴブリンロード

水鳥天

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助手

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 ヨーレンがもう一人の人物の横に立ち話し始める。

「ユウトに紹介しておくよ。彼女はノノ。私の開発研究部の助手を務めてくれている。魔術具の試作品の製造を主に担当してもらっているんだ」

 そう言ってヨーレンはノノを紹介する。女性であることは紹介される前に身体が反応していたためユウトは承知していた。

 ユウトから見てノノはユウトと同じくらいの身長と童顔で少し癖がついて膨らんだ短い金髪をしている。延びた前髪が緑っぽい大きな瞳を隠していた。

 その年齢の読めない見た目からユウトはおそらくノノもノームなのだろうと予想する。マレイと違い少し体が大きくふくよかだったが胸元に組んだ指と少し前かがみな姿勢からどこかおどおどしているように見え、マレイより小さい印象を受けた。

「そしてここは私に任せられている研究開発のための工房だよ。一階の奥が作業場と居間、二階に泊まるための個室がいくつかある。みんなはしばらくここに滞在してもらうことになるから部屋は空いているものを好きに使ってもらって構わないよ」

 ヨーレンはさらに続けてこの工房で生活するための基本情報を説明する。その説明のほとんどはユウトに向けられていたためガラルドやレナにはこの工房に宿泊経験があるのだろうとユウトには予想できた。

「それでノノ。彼の名はユウトだ。事情があって彼は少し特徴的な見た目をしているけれどユウトの人間性は数日共にして保証するからあまり、その・・・怖がらないであげられないかな」

 ノノは先ほどから目を泳がせていてちらちらとその視線をユウトは感じている。それは決して歓迎しているようには思えなかった。

「あ・・・えっと、どうぞよろしく」

 ユウトも怯えているように見えるノノを何とか和ませようと言葉に気を付けながら挨拶をして深くかぶっていたフードを取り軽く目を伏せお辞儀する。

 しかしノノはフードを取ったユウトの顔を見て小さく「ヒッ」と聞こえるような息を吸い肩と組んだ指をこわばらせてうつむいた。

 ユウトはフードをもう一度深々と被りなおして一歩後ろへと下がる。ノノの反応はユウトが考えていた以上に自身の精神を揺さぶっていた。大橋砦でのディゼルから聞いたゴブリンという魔物の影響力を再認識する。

 これまでユウトには殺気を向けられたり怪訝な目で見られることはあってもそれは初めての経験でどこか他人事のようにとらえることで不安を払拭させることができた。しかし今回は自身に対して嫌悪感を抱かれてるという状況に胸が締め付けられ消したい記憶と重なり動揺していることを自認する。だがユウトはノノに対して怒りや不条理さの感情を持つことはなかった。

 ただただこれまでこの世界で出会ってきた人々がユウトに対していかに誠実に接してくれていたかという事実を思い知らされる。だからこそユウトは多少図々しいと受け取られてもいいと覚悟を決め、ノノに言葉をかける勇気を奮い立たせて一歩前に出た。

「ユウトだ。どれくらいの期間になるのかまだわからないけどここでお世話になるよ。
 この姿が怖がらせてしまって申し訳ない。もしできることがあれば何でも言ってくれ。できる限りのことはさせてもらうから」

 ユウトは精一杯に緊張を押し殺してフード越しではあるもののにこやかに話しかける。ノノはユウトがはきはきとしゃべりだして初めのうちこそ体を緊張させていたが次第に少しづつ固まった指が解かれていった。

「そうだ、ノノさん。ユウトは珍しい生き物に懐かれやすくてさ、面白い動物と一緒にいるんだよ」

 レナそう声を上げるとユウトに近寄り手を差し出す。

「ほらっ、セブル。あんたの出番でしょ」
「ぬぅ」

 セブルは小さく鳴くとユウトの肩を離れてレナの手に乗り移る。不満を漏らしつつ素直にレナの言うことを聞くセブルがユウトには少し不思議な光景だった。

 レナはセブルを連れてノノの目の前まで歩くと手に乗せたセブルを差し出す。セブルはこれまでユウトが見た中で最もかわいらしい仕草と鳴き声で愛想を振りまいた。

「ここ、この子もしかしてクロネコテン?!実在したの?」 

 ノノはセブルに興味津々でそれまでの怯えようがかき消されていく。

「ノノさん。触ってみなよ。すっごいふわふわで良い触り心地だよ」
「えっ。触っても嫌がらないの?」
「そうだよー。ユウトがしっかり手なずけてるから大丈夫なんだよ。ほらほら」

 セブルは渾身の甘え声でノノを誘惑する。レナは少し吹き出しそうになっていた。

 おそるおそる伸ばされたノノのかわいらしい手にセブルは自ら頭を撫で付ける。するとノノは周りが見えなくなるほど感動したようで強張った表情は解け、満面の笑みに変わった。畳みかけるようにセブルはノノの肩に乗り移ると身体を伸ばして首の周りに巻き付き頭を頬にすり寄せる。ノノはおそるおそるセブルの体を両手で撫でた。

「はぁ、すごいです。これがかの伝説のクロネコテンの毛並みなんですねぇ」

 緊迫していた空気が嘘のように和やかになっている。それほど長い時間ではなかったがノノは夢心地からハッと我に返ると「すみませんっ」と一言謝った。

 セブルはもう十分と判断したのかノノから離れてレナに飛び移り最後にユウトの定位置に落ち着いてため息を一つ、小さくついた。ノノは少し名残惜しそうにしているようにユウトには見えた。

「ユウトさんっ!さっ、先ほどは失礼な態度をとってしまい申し訳ありませんでしたっ。お恥ずかしい限りです」
「気にしないでくれ。またセブルに触ってみたかったらオレでも、レナにでも頼んでもらってかまわないから」
「はっ、はい」

 ノノは恥ずかしそうにもじもじと指をからませていたが最初の頃の固い緊張はもう見えなかった。
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