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試練
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ユウトは体へ当てられている光が身体の内側まで照らし出しているような感覚を覚える。骨から筋肉の繊維、血液、髄液、脳まで徹底的に内側を覗かれているような感覚に鳥肌が立った。
しばらくその状態が続いて調査が終わったのかジヴァの手の光は小さくなっていくとそのまま消える。伸ばした手を椅子のひじ掛けに下ろした。
「ふむ。おおむね体の検査は終わったよ。何が聞きたい?」
「質問できる数に制限はあるのか?」
「それほど意地悪ではないさ。気が済むまで聞くといい。
まぁそうだね。代わりにわしのほうからもいくつか質問をさせてもらうよ」
「わかった。かまわない」
ユウトは少し黙って言葉を選ぶ。
「この体はゴブリンで間違いないのか?だとすれば人に戻すことはできるか?」
「その体はゴブリンで間違いない。そして人の体になることもない。ドワーフがエルフになることが出来ないように、ゴブリンが人になることも出来ない」
ユウトはジヴァの言葉の重みを噛みしめる。ヨーレンが初めてユウトの体を診てくれた時と表現は変わらない。より確実性が増したことに過ぎずユウトも覚悟をしていた。
「これからこの体はどうなると考えられる?いつか自我を失い精神までもゴブリンと化してしまうだろうか」
「体に刻み込まれた精神に揺らぎは見られない。しっかりと定着しているね」
ジヴァの答えにユウトは安堵を覚える。もっとも恐れていたのは自我が消え去り怪物として周囲の人たちへ害を与えてしまうのではないかという懸念への恐怖だった。
自我の消失、変質がないという答えを聞いて緊張していた体の力が抜け背もたれに身体を預ける。身構えていた体も精神も一瞬のゆるみが生じユウトはジヴァから視線を天井にはずした。
「ただし」
その一瞬の隙をつくようにジヴァは言葉を続ける。
「お前さんのゴブリン由来の性欲が暴走して誰それ構わず婦女子を襲わないという保証はできない」
しまった、とユウトは咄嗟に思う。ユウトがこれまで抱いていた恐怖心を見透かしてジヴァは不意の一言を放った。慌ててユウトは視線をジヴァに戻す。ジヴァは音もたてずその場に立っていた。
何かまずいことが起こるとユウトの本能はけたたましく警鐘を鳴らす。
思わずその場から逃げようと立ち上がろうとしたが椅子から体が離れない。無数の極細の糸のようなものがユウトの体から椅子、床にまでピンと張り巡らされていた。
「ユウトさん!」
セブルが異変を察知して身体を動かそうとする。ラトムもセブルの動きを察して飛び上がろうとした。
しかし、セブルとラトムは不自然に宙に浮いて床へ落ちる。
固まったように動かない。二匹とも糸でがんじがらめにされているのが分かった。
「セブ、むぐっ!」
声を上げようとしたユウトの口も糸によって閉じられてしまう。二匹は先ほどの人形達数体が部屋の隅の方へと移動させた。
「傷つけようってわけじゃない。ちょっと静かにしてもらうだけさ」
ジヴァはそう言いながらユウトへ歩み寄り近づく。
「その丸薬を一つもらうよ」
腰に持っていたガラルドの丸薬の小袋からジヴァは一つ取り出しそのまま口に含んで飲み込む。かなりの近さまでジヴァとの距離が詰められたがユウトの体は反応することなくその点においてユウトは一安心した。
「さて、わしはお前さんが人ではないと断言したがその事実は見方によって意味は変わってくる。
確かに体はゴブリンだ。だがその記憶、知識、倫理観そして忍耐力が人並であればどうだろう。
人としての社会性を持ちゴブリンの体を制御できるのなら、それは人と呼んでもさしつかえないのではないだろうか。
なぁユウトよ」
ジヴァは不敵に笑い数歩あとずさりながらユウトへ正対して語りかけている。語る内容はユウトにとっては希望の持てる内容だった。ジヴァが認めれば人であると証明され、ユウトの知る限りのこの世界においては人としての生活が保証されるとジヴァの語る内容からユウトは予想する。しかし、ジヴァの放つ空気はそう易々と認めないだろうということも想像にたやすかった。
「そこで一つ試そうと思う」
ジヴァはそういい販つと肩にかけた布を落とし腰ひもを解く。両手で肩口を掴み広げると人つなぎのスカートは容易く床に落ちて同心円に広がった。さらにジヴァは止まることなく残りの身に着けていたものをすべて脱ぐ。ユウトは反応しないとは言え意味てられず目をそむけた。
「人と言い張るならばその忍耐。限界を見せてみな」
ジヴァそう言い放った瞬間、高速に流動する魔力の流れをユウトは感知する。これまで感じたことのないほどの膨大な魔力の激流が目の前で発生したことで目を背けていたユウトの視線はその発生源のジヴァを無視することができなかった。
ジヴァの体は発熱し皮膚が急に劣化を起こしたように浮き上がりぱらぱらと落ちだす。歳よりに見えるジヴァがさらに急激に歳を取って老け込みミイラになっていくようにユウトには思えた。
しかしすぐにそれは違うということがわかる。熱は強まり全身からは湯気のようなものが立ち上がり始めていた。髪も伸び始めるが新たに生まれゆく髪は艶やかに瑞々しい。今、ジヴァに起こっていることはとてつもなく早い新陳代謝だとユウトは理解した。
それを裏付けるようにそれまでには感じなかった異性と認識する無臭の匂いをユウトはかすかに感知し始めている。それがまるで爬虫類の脱皮したあとの皮を何重にも着込んだような得体のしれない目の前の正対する人型から発せられていることは明らかだった。
しばらくその状態が続いて調査が終わったのかジヴァの手の光は小さくなっていくとそのまま消える。伸ばした手を椅子のひじ掛けに下ろした。
「ふむ。おおむね体の検査は終わったよ。何が聞きたい?」
「質問できる数に制限はあるのか?」
「それほど意地悪ではないさ。気が済むまで聞くといい。
まぁそうだね。代わりにわしのほうからもいくつか質問をさせてもらうよ」
「わかった。かまわない」
ユウトは少し黙って言葉を選ぶ。
「この体はゴブリンで間違いないのか?だとすれば人に戻すことはできるか?」
「その体はゴブリンで間違いない。そして人の体になることもない。ドワーフがエルフになることが出来ないように、ゴブリンが人になることも出来ない」
ユウトはジヴァの言葉の重みを噛みしめる。ヨーレンが初めてユウトの体を診てくれた時と表現は変わらない。より確実性が増したことに過ぎずユウトも覚悟をしていた。
「これからこの体はどうなると考えられる?いつか自我を失い精神までもゴブリンと化してしまうだろうか」
「体に刻み込まれた精神に揺らぎは見られない。しっかりと定着しているね」
ジヴァの答えにユウトは安堵を覚える。もっとも恐れていたのは自我が消え去り怪物として周囲の人たちへ害を与えてしまうのではないかという懸念への恐怖だった。
自我の消失、変質がないという答えを聞いて緊張していた体の力が抜け背もたれに身体を預ける。身構えていた体も精神も一瞬のゆるみが生じユウトはジヴァから視線を天井にはずした。
「ただし」
その一瞬の隙をつくようにジヴァは言葉を続ける。
「お前さんのゴブリン由来の性欲が暴走して誰それ構わず婦女子を襲わないという保証はできない」
しまった、とユウトは咄嗟に思う。ユウトがこれまで抱いていた恐怖心を見透かしてジヴァは不意の一言を放った。慌ててユウトは視線をジヴァに戻す。ジヴァは音もたてずその場に立っていた。
何かまずいことが起こるとユウトの本能はけたたましく警鐘を鳴らす。
思わずその場から逃げようと立ち上がろうとしたが椅子から体が離れない。無数の極細の糸のようなものがユウトの体から椅子、床にまでピンと張り巡らされていた。
「ユウトさん!」
セブルが異変を察知して身体を動かそうとする。ラトムもセブルの動きを察して飛び上がろうとした。
しかし、セブルとラトムは不自然に宙に浮いて床へ落ちる。
固まったように動かない。二匹とも糸でがんじがらめにされているのが分かった。
「セブ、むぐっ!」
声を上げようとしたユウトの口も糸によって閉じられてしまう。二匹は先ほどの人形達数体が部屋の隅の方へと移動させた。
「傷つけようってわけじゃない。ちょっと静かにしてもらうだけさ」
ジヴァはそう言いながらユウトへ歩み寄り近づく。
「その丸薬を一つもらうよ」
腰に持っていたガラルドの丸薬の小袋からジヴァは一つ取り出しそのまま口に含んで飲み込む。かなりの近さまでジヴァとの距離が詰められたがユウトの体は反応することなくその点においてユウトは一安心した。
「さて、わしはお前さんが人ではないと断言したがその事実は見方によって意味は変わってくる。
確かに体はゴブリンだ。だがその記憶、知識、倫理観そして忍耐力が人並であればどうだろう。
人としての社会性を持ちゴブリンの体を制御できるのなら、それは人と呼んでもさしつかえないのではないだろうか。
なぁユウトよ」
ジヴァは不敵に笑い数歩あとずさりながらユウトへ正対して語りかけている。語る内容はユウトにとっては希望の持てる内容だった。ジヴァが認めれば人であると証明され、ユウトの知る限りのこの世界においては人としての生活が保証されるとジヴァの語る内容からユウトは予想する。しかし、ジヴァの放つ空気はそう易々と認めないだろうということも想像にたやすかった。
「そこで一つ試そうと思う」
ジヴァはそういい販つと肩にかけた布を落とし腰ひもを解く。両手で肩口を掴み広げると人つなぎのスカートは容易く床に落ちて同心円に広がった。さらにジヴァは止まることなく残りの身に着けていたものをすべて脱ぐ。ユウトは反応しないとは言え意味てられず目をそむけた。
「人と言い張るならばその忍耐。限界を見せてみな」
ジヴァそう言い放った瞬間、高速に流動する魔力の流れをユウトは感知する。これまで感じたことのないほどの膨大な魔力の激流が目の前で発生したことで目を背けていたユウトの視線はその発生源のジヴァを無視することができなかった。
ジヴァの体は発熱し皮膚が急に劣化を起こしたように浮き上がりぱらぱらと落ちだす。歳よりに見えるジヴァがさらに急激に歳を取って老け込みミイラになっていくようにユウトには思えた。
しかしすぐにそれは違うということがわかる。熱は強まり全身からは湯気のようなものが立ち上がり始めていた。髪も伸び始めるが新たに生まれゆく髪は艶やかに瑞々しい。今、ジヴァに起こっていることはとてつもなく早い新陳代謝だとユウトは理解した。
それを裏付けるようにそれまでには感じなかった異性と認識する無臭の匂いをユウトはかすかに感知し始めている。それがまるで爬虫類の脱皮したあとの皮を何重にも着込んだような得体のしれない目の前の正対する人型から発せられていることは明らかだった。
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