79 / 213
帰路
しおりを挟む
「さて、これでユウトの用はすんだね。ヨーレン、次はお前さんの方だよ」
扉から一歩出たところにいつの間にかジヴァが立ってる。ジヴァの方に目を移したヨーレンは驚いて硬直しているようにユウトには見えた。硬直の理由がジヴァの見違えるほど変わった姿なのか矛先が自身へ向いたからなのはわからない。ただすぐにヨーレンの硬直した表情は緊張しつつも身構えたものへと変化した。
「そろそろ指輪を外してもいいころだ。長年着けていた分その反動は重いだろうが、まぁ大丈夫だろう。ユウトはその身体の特性をねじ伏せて耐えたんだからな。お前さんにもできるはずだよ」
ジヴァの言葉を聞いてヨーレンはユウトを見る。どこか納得したような表情だった。
「そうだったのか。すまなかったユウト。私の想像力不足だ。かなり苦しんだことだろう。
確かにこの鈍さは指輪の影響もあるかもしれないね」
ジヴァはまた意地悪そうな笑みを浮かべているのをユウトは視界の隅で見る。指輪を外す行為がどれほど困難なことなのかということを改めて考えさせられた。
ヨーレンの表情は緊張から覚悟へと変わり、つい一時前までのユウトのように指にはめられた指輪を凝視する。そしてもう片方の手でつかみゆっくりと指輪から指を抜いた。ヨーレンはうつむき口を手で覆う。その様子はどこか戸惑っているようにもユウトには見えた。
「それで魔力の流れは幾分掴みやすくなるだろう。慣れるまではしばらくかかるだろうがそれも修行のうちだよ。指輪は私が預かっておこう」
ジヴァはそういって手を差し出す。ヨーレンは返事をすることなくジヴァへ近寄りその手に指輪を渡した。
「よし、話は以上だよ。皆帰りな。それとも昼ごはんでも食べていくかい?」
「いや・・・遠慮しとくよ。今日は疲れた。もう帰るよ」
話すことが難しそうなヨーレンに変わってユウトがジヴァに答える。ユウトもジヴァを目の前にすれば身体が疼くものの最初の衝撃に比べれば多少慣れてきていた。取り乱しはしないものの師匠の返答にも困る様子のヨーレンが自身と同じような体験を今していると思うとユウトにはヨーレンが不憫に思う。崩壊塔の上でマレイがヨーレンに言っていたことの意味がわかった気がした。
ユウトとヨーレンはジヴァに背を向け、帰り始める。庭の入口まで来てユウトは振り返ると遠くに見える家の入口にたたずむジヴァが片手を掲げた。それに呼応するように庭のあちらこちらで作業をしていた人形たちも一斉に手を止めユウトへ向くとそれぞれが腕を伸ばして振り出した。
ユウトもそれにつられぎこちなく手を振る。そして来た道を辿りヨーレンの様子を気にしながら森へと入った。
森は明るい。やってきた時と比べて日が高く昇ったせいか地を照らす日の光が強くユウトには感じられる。魔女の家を後にしてしばらく経ちヨーレンの調子は良くなっているように見えた。ユウトもジヴァの姿と香りが遠のきずいぶんと楽になっていると自覚している。視線が上がり足取りも確かになったヨーレンはユウトに語り始めた。
「気を使わせてしまってすまない。かなり楽になったよ」
「よかった。それほど指輪を外した反動ってあるものなのか?」
ユウトの女性に対しての過剰な反応はゴブリン特有のものだと思っている。この世界において指輪を外すことで起きる反動というのがヨーレンのように激しいものなのかと意外に感じていた。
「いや、普通の人はこれほどではないと思うよ。一つは師匠のせい、もう一つは私自身の特質のせいかな」
「え、そうなんだ。よかったら教えてくれないか」
二人は緑に輝く森を歩きながら話し続ける。
「師匠はかなりの長い時間を生きている。最初に見た老婆の姿以上にね。ああして時より身体を若返らせいるんだよ。私も初めて見た。その様子を見たのならユウトはかなり稀な体験をしたね」
ユウトはその時のことを思い出すとまったくありがたみはなく複雑な面持ちになる。
「おそらく代謝を超活性させていると予想するけど、そのときの魔力の残滓か何かの物質が大量に排出されていたんだと思う。次に会うときはそれは落ち着いているんじゃないかな」
これまでに感じたことのない強烈な反応の原因がわかってユウトは少し安心できた。
「そうか。ならオレも次はもう少し落ち着いて話ができるかもしれないな」
「そうだね。それをわかっててやってるから師匠は人から嫌がられるんだよ、まったく」
ヨーレンが悪態をつくところをユウトは初めて見た気がする。ヨーレンは言葉を続けた。
「もう一つの私の特質。それは魔力量が多すぎるんだ。
過剰な魔力量はその代償を何かしら負うことになるんだけど、私は著しく身体の成長に影響が出た。それで主に魔力を消費するという意味で特別な指輪をしていたんだ。
もう体も成長しきったことだし、いつ外しても問題はなかったのだけど、かなり長い間身に着けていて外すのが怖くなっていたのかもしれない。案の定、指輪を取ることで魔力感覚が一気に高まって魔力酔いを起こしてしまった」
そう話すヨーレンはこれまでとどこか違って明るくなったようにユウトは感じる。その変化にセブルも気づいたようでユウトに話しかけた。
「なんだか明るくなりましたね。前はどっか沈んだ感じだったのに」
「うん、たぶん指輪を外した反動で少し高揚していると思うよ。これからしばらく指輪任せだった自制の感覚を鍛えないといけないね。ユウトを見習わないと」
「えっ?」
ユウトもセブルもヨーレンの反応に驚く。これまで聞こえなかったセブルの声に割り込んで返事を返していた。
「あ、ようやく話せたねセブル。かなり魔力感覚が戻ってきてるみたいだ」
「じゃあオイラの言ってることもわかるっスか?」
ユウトの肩に乗るラトムもヨーレンに声を掛ける。
「ああ。わかるよラトム。せっかくならジェスとの会話を聞いてみたかったよ。あの時どんな話をしていたんだい?」
「あの時はっスねぇ・・・」
「ちょっと!余計なこと言わないでよラトム!」
セブルが慌てて話しに割り込み賑やかな二人と二匹は魔女の森を進み続けた。
扉から一歩出たところにいつの間にかジヴァが立ってる。ジヴァの方に目を移したヨーレンは驚いて硬直しているようにユウトには見えた。硬直の理由がジヴァの見違えるほど変わった姿なのか矛先が自身へ向いたからなのはわからない。ただすぐにヨーレンの硬直した表情は緊張しつつも身構えたものへと変化した。
「そろそろ指輪を外してもいいころだ。長年着けていた分その反動は重いだろうが、まぁ大丈夫だろう。ユウトはその身体の特性をねじ伏せて耐えたんだからな。お前さんにもできるはずだよ」
ジヴァの言葉を聞いてヨーレンはユウトを見る。どこか納得したような表情だった。
「そうだったのか。すまなかったユウト。私の想像力不足だ。かなり苦しんだことだろう。
確かにこの鈍さは指輪の影響もあるかもしれないね」
ジヴァはまた意地悪そうな笑みを浮かべているのをユウトは視界の隅で見る。指輪を外す行為がどれほど困難なことなのかということを改めて考えさせられた。
ヨーレンの表情は緊張から覚悟へと変わり、つい一時前までのユウトのように指にはめられた指輪を凝視する。そしてもう片方の手でつかみゆっくりと指輪から指を抜いた。ヨーレンはうつむき口を手で覆う。その様子はどこか戸惑っているようにもユウトには見えた。
「それで魔力の流れは幾分掴みやすくなるだろう。慣れるまではしばらくかかるだろうがそれも修行のうちだよ。指輪は私が預かっておこう」
ジヴァはそういって手を差し出す。ヨーレンは返事をすることなくジヴァへ近寄りその手に指輪を渡した。
「よし、話は以上だよ。皆帰りな。それとも昼ごはんでも食べていくかい?」
「いや・・・遠慮しとくよ。今日は疲れた。もう帰るよ」
話すことが難しそうなヨーレンに変わってユウトがジヴァに答える。ユウトもジヴァを目の前にすれば身体が疼くものの最初の衝撃に比べれば多少慣れてきていた。取り乱しはしないものの師匠の返答にも困る様子のヨーレンが自身と同じような体験を今していると思うとユウトにはヨーレンが不憫に思う。崩壊塔の上でマレイがヨーレンに言っていたことの意味がわかった気がした。
ユウトとヨーレンはジヴァに背を向け、帰り始める。庭の入口まで来てユウトは振り返ると遠くに見える家の入口にたたずむジヴァが片手を掲げた。それに呼応するように庭のあちらこちらで作業をしていた人形たちも一斉に手を止めユウトへ向くとそれぞれが腕を伸ばして振り出した。
ユウトもそれにつられぎこちなく手を振る。そして来た道を辿りヨーレンの様子を気にしながら森へと入った。
森は明るい。やってきた時と比べて日が高く昇ったせいか地を照らす日の光が強くユウトには感じられる。魔女の家を後にしてしばらく経ちヨーレンの調子は良くなっているように見えた。ユウトもジヴァの姿と香りが遠のきずいぶんと楽になっていると自覚している。視線が上がり足取りも確かになったヨーレンはユウトに語り始めた。
「気を使わせてしまってすまない。かなり楽になったよ」
「よかった。それほど指輪を外した反動ってあるものなのか?」
ユウトの女性に対しての過剰な反応はゴブリン特有のものだと思っている。この世界において指輪を外すことで起きる反動というのがヨーレンのように激しいものなのかと意外に感じていた。
「いや、普通の人はこれほどではないと思うよ。一つは師匠のせい、もう一つは私自身の特質のせいかな」
「え、そうなんだ。よかったら教えてくれないか」
二人は緑に輝く森を歩きながら話し続ける。
「師匠はかなりの長い時間を生きている。最初に見た老婆の姿以上にね。ああして時より身体を若返らせいるんだよ。私も初めて見た。その様子を見たのならユウトはかなり稀な体験をしたね」
ユウトはその時のことを思い出すとまったくありがたみはなく複雑な面持ちになる。
「おそらく代謝を超活性させていると予想するけど、そのときの魔力の残滓か何かの物質が大量に排出されていたんだと思う。次に会うときはそれは落ち着いているんじゃないかな」
これまでに感じたことのない強烈な反応の原因がわかってユウトは少し安心できた。
「そうか。ならオレも次はもう少し落ち着いて話ができるかもしれないな」
「そうだね。それをわかっててやってるから師匠は人から嫌がられるんだよ、まったく」
ヨーレンが悪態をつくところをユウトは初めて見た気がする。ヨーレンは言葉を続けた。
「もう一つの私の特質。それは魔力量が多すぎるんだ。
過剰な魔力量はその代償を何かしら負うことになるんだけど、私は著しく身体の成長に影響が出た。それで主に魔力を消費するという意味で特別な指輪をしていたんだ。
もう体も成長しきったことだし、いつ外しても問題はなかったのだけど、かなり長い間身に着けていて外すのが怖くなっていたのかもしれない。案の定、指輪を取ることで魔力感覚が一気に高まって魔力酔いを起こしてしまった」
そう話すヨーレンはこれまでとどこか違って明るくなったようにユウトは感じる。その変化にセブルも気づいたようでユウトに話しかけた。
「なんだか明るくなりましたね。前はどっか沈んだ感じだったのに」
「うん、たぶん指輪を外した反動で少し高揚していると思うよ。これからしばらく指輪任せだった自制の感覚を鍛えないといけないね。ユウトを見習わないと」
「えっ?」
ユウトもセブルもヨーレンの反応に驚く。これまで聞こえなかったセブルの声に割り込んで返事を返していた。
「あ、ようやく話せたねセブル。かなり魔力感覚が戻ってきてるみたいだ」
「じゃあオイラの言ってることもわかるっスか?」
ユウトの肩に乗るラトムもヨーレンに声を掛ける。
「ああ。わかるよラトム。せっかくならジェスとの会話を聞いてみたかったよ。あの時どんな話をしていたんだい?」
「あの時はっスねぇ・・・」
「ちょっと!余計なこと言わないでよラトム!」
セブルが慌てて話しに割り込み賑やかな二人と二匹は魔女の森を進み続けた。
0
あなたにおすすめの小説
聖女を追放した国は、私が祈らなくなった理由を最後まで知りませんでした
藤原遊
ファンタジー
この国では、人の悪意や欲望、嘘が積み重なると
土地を蝕む邪気となって現れる。
それを祈りによって浄化してきたのが、聖女である私だった。
派手な奇跡は起こらない。
けれど、私が祈るたびに国は荒廃を免れてきた。
――その役目を、誰一人として理解しないまま。
奇跡が少なくなった。
役に立たない聖女はいらない。
そう言われ、私は静かに国を追放された。
もう、祈る理由はない。
邪気を生み出す原因に目を向けず、
後始末だけを押し付ける国を守る理由も。
聖女がいなくなった国で、
少しずつ異変が起こり始める。
けれど彼らは、最後まで気づかなかった。
私がなぜ祈らなくなったのかを。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生
西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。
彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。
精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。
晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。
死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。
「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」
晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。
才能に打ち砕かれた日から、僕の最強は始まった
雷覇
ファンタジー
ワノクニ、蒼神流・蒼月道場。
天城蒼真は幼き頃から剣を学び、努力を重ねてきた。
だがある日、異世界から来た「勇者」瀬名隼人との出会いが、すべてを変える。
鍛錬も経験もない隼人は、生まれながらの天才。
一目見ただけで蒼真と幼馴染の朱音の剣筋を見切り、打ち破った。
朱音は琴音の命で、隼人の旅に同行することを決意する。
悔しさを抱えた蒼真は、道場を後にする。
目指すは“修羅の山”――魔族が封印され、誰も生きて戻らぬ死地へと旅立つ。
知識スキルで異世界らいふ
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ
『ミッドナイトマート 〜異世界コンビニ、ただいま営業中〜』
KAORUwithAI
ファンタジー
深夜0時——街角の小さなコンビニ「ミッドナイトマート」は、異世界と繋がる扉を開く。
日中は普通の客でにぎわう店も、深夜を回ると鎧を着た騎士、魔族の姫、ドラゴンの化身、空飛ぶ商人など、“この世界の住人ではない者たち”が静かにレジへと並び始める。
アルバイト店員・斉藤レンは、バイト先が異世界と繋がっていることに戸惑いながらも、今日もレジに立つ。
「袋いりますか?」「ポイントカードお持ちですか?」——そう、それは異世界相手でも変わらない日常業務。
貯まるのは「ミッドナイトポイントカード(通称ナイポ)」。
集まるのは、どこか訳ありで、ちょっと不器用な異世界の住人たち。
そして、商品一つひとつに込められる、ささやかで温かな物語。
これは、世界の境界を越えて心を繋ぐ、コンビニ接客ファンタジー。
今夜は、どんなお客様が来店されるのでしょう?
※異世界食堂や異世界居酒屋「のぶ」とは
似て非なる物として見て下さい
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました
okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる