90 / 213
取引
しおりを挟む
言葉を失い呆然としていた人々も降り出した雨で我に返り、それぞれ雨の対処に追われ始める。ユウトのようにマントやフードでしっかり身を包む者もいれば、近くに止められていた馬車の荷台へ足早に向かう者もいてあたりは慌ただしくなっていた。
ユウトはモリードとデイタスを見つけて走り寄る。まず声を上げたのはモリードだった。
「見事だったよ、ユウト!あの大きさの試石でちゃんと性能を発揮することができた。能力を証明したんだ」
モリードは雨に打たれながら満開の笑顔に強く両こぶしを握り締め、興奮しながらユウトへ語る。横でたたずむデイタスはそんなモリードのフードを力強くかぶせた。
「落ち着けモリード。まだ評価は出ていない・・・が、よくやったなユウト!観客は良い反応だったぞ!はっはっは!」
デイタスは豪快に空にむけ笑い声を上げる。二人の様子にユウトも気分が高揚してきた。
「あとは評価結果を待つだけか。雨で水を差されてしまったのはもったいなかったけど、振り出す前でよかった」
「そうだろう。そうだろう、私の言ったとおりだったろう!ぬかるんだ地面では力を発揮しきれないからな」
デイタスはより自慢げに胸を張って満足げに語る。
「ここにいてもしょうがないか。一旦工房に戻ろう。剣をあまり濡らしたくないし疲労度を早く確認しておきたい」
モリードは二人へ提案する。気持ちが落ち着いたのか冷静になってようですでに興味は移っていた。
「そうだな。お披露目はいったん中断するだろうしな」
「よし、なら急いで戻るぞ。ユウト、剣は私が持とう」
ユウトはデイタスに剣を渡す。そうして三人は来た道を小走りに戻りだした。
降り出したころの雨の強さはしだいに弱まり、小康状態となっている。ほとんど人がいなくなった広場の中心にある、ユウトによって半分を木っ端みじんにされた元巨石の傍には二人の人影があった。
一人は屈強な男で、あたりに目を光らせている。もう一人はしゃがみ込み、崩れた石の破片を掴んで手のひらに載せて観察していた。手のひらの上に乗せられた小石ほどの白い石をもう片方の手指の先で押し付けると石は砕けるように割れる。その断面は白く細かな粒子の荒い面になっており、割れた衝撃で粉のような白い砂を散らせた。
「どういう原理なのかしらね。斬ったというより壊したと表現する方が正しいかも」
しゃがんでいた一人は手に載っていた石と砂を両手ではたき、地面に触れて濡れたスカートを気にする様子もなく立ち上がる。
「ともあれ、なんとも取り扱いが難しそうな過剰な威力。だけどおもしろいわ」
女は一人ぶつぶつとつぶやく。深くかぶったフードの奥から変わり果てた巨石をじっと見つめ、あごに手をやり思案を始めた。
雨にたたずむ二人へ小柄な人が一人近づく。男は一瞬身構えたが近寄る人物を確認してすぐに構えを解いた。
「いつも姉に付き合わされて大変だねノエン」
降りしきる雨を気にする様子もなくずぶ濡れのその人物はノエンと呼んだ男の横を通り過ぎ、元は巨石だった石の山のそばに向かう。そしてすでにいたもう一人の横に並ぶと声を掛けた。
「どうかなラーラ。この性能、無視はできないだろう?」
「ええ、工房長。驚きはしましたよ。試石をここまで破壊できる技術はそうない。どこかの魔導貴族の秘技くらいでしょうね。しかしこの技術をどうするおつもりですか?まだ兵器としては粗削りに感じられます。あの特殊なゴブリン、ユウトさんでなければ扱えない代物と思われますが」
聞き返された工房長マレイはふんと鼻で笑った。
「やはりもうわかっていたか。確かにまだ扱いづらい技術だ。一般の戦士にこの技術を普及させるまでにはもうしばらくの時間と資金が必要になるだろうね」
「私としては魔槍の方がよほど商品として魅力的です。大石橋砦での一件では目覚ましい能力でした。あの長大な射程距離と威力なら使い捨てと割り切っても大量の受注が期待できます」
ラーラはマレイが声を掛けてきた真意を探ろうと横に立つマレイに向けて視線を斜め下におとす。マレイはそれを見透かしていたかのようにすでに上方のラーラへ視線を送っていた。
「なら魔槍を競り落とせばいい。だが今ならあの大剣の技術を取り扱う交渉権をラーラ、あんたにだけ譲ってもいいのだけどね。どうする?」
マレイは後ろに手を組み斜め上へ突き上げるような上目遣いでラーラをにらむ。その強い視線は今、ここで決断することを迫る威圧感を放っていた。ラーラはその視線から逃げずに見つめ返すことしかできない。マレイの顔を雨水がつたい、地を打つ雨音だけが鳴り響いた。
「その交渉権、私に譲ってもらいます」
しばらくの沈黙のあとラーラは絞り出すような震える声で、その決断の意思をマレイに伝える。それを聞いたマレイは口の端を緩ませにたりと不敵に笑顔になった。
「そうか、では頼んだぞラーラ」
マレイはそれだけ言葉を発すると、きびすを返してさっそうとその場を去っていく。残されたラーラは雨に濡れて染み出した巨石の残骸の白い水たまりを一度眺めて空を仰ぎフードを取って雨に打たれた。
ユウトはモリードとデイタスを見つけて走り寄る。まず声を上げたのはモリードだった。
「見事だったよ、ユウト!あの大きさの試石でちゃんと性能を発揮することができた。能力を証明したんだ」
モリードは雨に打たれながら満開の笑顔に強く両こぶしを握り締め、興奮しながらユウトへ語る。横でたたずむデイタスはそんなモリードのフードを力強くかぶせた。
「落ち着けモリード。まだ評価は出ていない・・・が、よくやったなユウト!観客は良い反応だったぞ!はっはっは!」
デイタスは豪快に空にむけ笑い声を上げる。二人の様子にユウトも気分が高揚してきた。
「あとは評価結果を待つだけか。雨で水を差されてしまったのはもったいなかったけど、振り出す前でよかった」
「そうだろう。そうだろう、私の言ったとおりだったろう!ぬかるんだ地面では力を発揮しきれないからな」
デイタスはより自慢げに胸を張って満足げに語る。
「ここにいてもしょうがないか。一旦工房に戻ろう。剣をあまり濡らしたくないし疲労度を早く確認しておきたい」
モリードは二人へ提案する。気持ちが落ち着いたのか冷静になってようですでに興味は移っていた。
「そうだな。お披露目はいったん中断するだろうしな」
「よし、なら急いで戻るぞ。ユウト、剣は私が持とう」
ユウトはデイタスに剣を渡す。そうして三人は来た道を小走りに戻りだした。
降り出したころの雨の強さはしだいに弱まり、小康状態となっている。ほとんど人がいなくなった広場の中心にある、ユウトによって半分を木っ端みじんにされた元巨石の傍には二人の人影があった。
一人は屈強な男で、あたりに目を光らせている。もう一人はしゃがみ込み、崩れた石の破片を掴んで手のひらに載せて観察していた。手のひらの上に乗せられた小石ほどの白い石をもう片方の手指の先で押し付けると石は砕けるように割れる。その断面は白く細かな粒子の荒い面になっており、割れた衝撃で粉のような白い砂を散らせた。
「どういう原理なのかしらね。斬ったというより壊したと表現する方が正しいかも」
しゃがんでいた一人は手に載っていた石と砂を両手ではたき、地面に触れて濡れたスカートを気にする様子もなく立ち上がる。
「ともあれ、なんとも取り扱いが難しそうな過剰な威力。だけどおもしろいわ」
女は一人ぶつぶつとつぶやく。深くかぶったフードの奥から変わり果てた巨石をじっと見つめ、あごに手をやり思案を始めた。
雨にたたずむ二人へ小柄な人が一人近づく。男は一瞬身構えたが近寄る人物を確認してすぐに構えを解いた。
「いつも姉に付き合わされて大変だねノエン」
降りしきる雨を気にする様子もなくずぶ濡れのその人物はノエンと呼んだ男の横を通り過ぎ、元は巨石だった石の山のそばに向かう。そしてすでにいたもう一人の横に並ぶと声を掛けた。
「どうかなラーラ。この性能、無視はできないだろう?」
「ええ、工房長。驚きはしましたよ。試石をここまで破壊できる技術はそうない。どこかの魔導貴族の秘技くらいでしょうね。しかしこの技術をどうするおつもりですか?まだ兵器としては粗削りに感じられます。あの特殊なゴブリン、ユウトさんでなければ扱えない代物と思われますが」
聞き返された工房長マレイはふんと鼻で笑った。
「やはりもうわかっていたか。確かにまだ扱いづらい技術だ。一般の戦士にこの技術を普及させるまでにはもうしばらくの時間と資金が必要になるだろうね」
「私としては魔槍の方がよほど商品として魅力的です。大石橋砦での一件では目覚ましい能力でした。あの長大な射程距離と威力なら使い捨てと割り切っても大量の受注が期待できます」
ラーラはマレイが声を掛けてきた真意を探ろうと横に立つマレイに向けて視線を斜め下におとす。マレイはそれを見透かしていたかのようにすでに上方のラーラへ視線を送っていた。
「なら魔槍を競り落とせばいい。だが今ならあの大剣の技術を取り扱う交渉権をラーラ、あんたにだけ譲ってもいいのだけどね。どうする?」
マレイは後ろに手を組み斜め上へ突き上げるような上目遣いでラーラをにらむ。その強い視線は今、ここで決断することを迫る威圧感を放っていた。ラーラはその視線から逃げずに見つめ返すことしかできない。マレイの顔を雨水がつたい、地を打つ雨音だけが鳴り響いた。
「その交渉権、私に譲ってもらいます」
しばらくの沈黙のあとラーラは絞り出すような震える声で、その決断の意思をマレイに伝える。それを聞いたマレイは口の端を緩ませにたりと不敵に笑顔になった。
「そうか、では頼んだぞラーラ」
マレイはそれだけ言葉を発すると、きびすを返してさっそうとその場を去っていく。残されたラーラは雨に濡れて染み出した巨石の残骸の白い水たまりを一度眺めて空を仰ぎフードを取って雨に打たれた。
0
あなたにおすすめの小説
聖女を追放した国は、私が祈らなくなった理由を最後まで知りませんでした
藤原遊
ファンタジー
この国では、人の悪意や欲望、嘘が積み重なると
土地を蝕む邪気となって現れる。
それを祈りによって浄化してきたのが、聖女である私だった。
派手な奇跡は起こらない。
けれど、私が祈るたびに国は荒廃を免れてきた。
――その役目を、誰一人として理解しないまま。
奇跡が少なくなった。
役に立たない聖女はいらない。
そう言われ、私は静かに国を追放された。
もう、祈る理由はない。
邪気を生み出す原因に目を向けず、
後始末だけを押し付ける国を守る理由も。
聖女がいなくなった国で、
少しずつ異変が起こり始める。
けれど彼らは、最後まで気づかなかった。
私がなぜ祈らなくなったのかを。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生
西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。
彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。
精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。
晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。
死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。
「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」
晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。
才能に打ち砕かれた日から、僕の最強は始まった
雷覇
ファンタジー
ワノクニ、蒼神流・蒼月道場。
天城蒼真は幼き頃から剣を学び、努力を重ねてきた。
だがある日、異世界から来た「勇者」瀬名隼人との出会いが、すべてを変える。
鍛錬も経験もない隼人は、生まれながらの天才。
一目見ただけで蒼真と幼馴染の朱音の剣筋を見切り、打ち破った。
朱音は琴音の命で、隼人の旅に同行することを決意する。
悔しさを抱えた蒼真は、道場を後にする。
目指すは“修羅の山”――魔族が封印され、誰も生きて戻らぬ死地へと旅立つ。
知識スキルで異世界らいふ
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ
『ミッドナイトマート 〜異世界コンビニ、ただいま営業中〜』
KAORUwithAI
ファンタジー
深夜0時——街角の小さなコンビニ「ミッドナイトマート」は、異世界と繋がる扉を開く。
日中は普通の客でにぎわう店も、深夜を回ると鎧を着た騎士、魔族の姫、ドラゴンの化身、空飛ぶ商人など、“この世界の住人ではない者たち”が静かにレジへと並び始める。
アルバイト店員・斉藤レンは、バイト先が異世界と繋がっていることに戸惑いながらも、今日もレジに立つ。
「袋いりますか?」「ポイントカードお持ちですか?」——そう、それは異世界相手でも変わらない日常業務。
貯まるのは「ミッドナイトポイントカード(通称ナイポ)」。
集まるのは、どこか訳ありで、ちょっと不器用な異世界の住人たち。
そして、商品一つひとつに込められる、ささやかで温かな物語。
これは、世界の境界を越えて心を繋ぐ、コンビニ接客ファンタジー。
今夜は、どんなお客様が来店されるのでしょう?
※異世界食堂や異世界居酒屋「のぶ」とは
似て非なる物として見て下さい
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました
okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる