ゴブリンロード

水鳥天

文字の大きさ
104 / 213

変化

しおりを挟む
 雨に濡れるセブルのそばでラトムが寄り添そいセブルの顔を見上げる。セブルは顔を落としながら目だけはユウトを見つめ続けていた。

「セブル、大丈夫っスか?ユウトさんならきっと大丈夫っスよ。オイラの羽もあることだしどんな怪我だって立ちどころの直せるっス!」

 語り掛けるラトムの声にセブルは何も答えずその姿勢を変えることもない。瞬きもなく置物のように硬直したままだった。

 そんなセブルのもとに石畳にたまる雨水を跳ねさせながら駆ける足音が近づいてくる。セブルのすぐ前で音が止まりセブルは両脇を掴まれ持ち上げられた。

「あんたに頼みたいことがある。急ぎだ」

 わき目も降らずにセブルに駆け寄ったレナは自身の眼前にセブルを引き寄せ言い放つ。セブルは反応せず不機嫌そうな顔でじっとレナを見た。

 反応の薄いセブルに対してレナは腹を立て始める。

「何ふてくされてるの。ユウトを見守っていたいんだろうけどじっと見つめていたって事態は変わらない。あたし達ができるのはその後だ。ヨーレンさんの治癒魔術が使えるかもしれない。ユウトかガラルド隊長のどちらか、もしくはどちらもまずい状況になりえる。そのために今、備えておくんだよ。しっかりしろセブル!話しをいつでも聞くって言ったじゃないか!」

 レナは必死に訴えかけながらセブルをぶんぶんと揺さぶる。セブルは耐えかねて鳴いて喚いた。

「なうっ!なんなぅう!(やめろ!そういう意味で言ってない!)」

 セブルの鳴き声を聞いてレナは一旦揺さぶるのをやめる。

「どう?手伝ってくれる?」

 レナは真剣な表情でセブルに顔を寄せて語り掛ける。セブルは気圧されたように顔が少し引いて目が泳いだ。

「セブル、ワカッタッテ、イッテル」

 ラトムが滞空しながら二人の間を割るような形で、レナに伝わる言葉を発する。

「本当?よしっ!今からすぐにヨーレンさんの工房に行ってノノと機材一式を持ってこないといけないんだ」

 レナの説明を受けてセブルはため息をつくように息をもらす。雨に濡れて張り付いていた毛は水をはじき始め、みるみるうちにセブルらしいシルエットに戻りだした。

 そしてセブルは元気よく身をよじってレナの手から逃れ地に足をつける。それと同時に宙に浮いラトムを上目遣いに睨んだ。

「まったく余計なことして。覚えてなよラトム。それで、魔力吸収に熱が足りない。熱を貸して」
「はいっス!お安い御用っス」

 ラトムはセブルに近づくと翼をより広げ熱風を送る。風を受けてすぐセブルの毛は伸びだし地に接したところから水が凍った。

 セブルはその体を大きくさせる。その変化を目立ち、ユウトとガラルドを見ていた周囲の人々の視線を集めた。

 そんなことを気にする様子もなくセブルはレナの足にまとわりつき自身の身体に固定させる。レナは思いもしなかったのかきょとんと呆気にとられた。

「え、人に姿を変えるかラトムがいれば言葉は伝わるんじゃ・・・」

 レナの言葉も聞かず、セブルはそこから素早く駆け出す。ユウト達を囲む人々がセブルをよけて道が生まれ、円に切れ目ができた。



 ユウトはガラルドと向き合いその間をじりじりと詰める。それまでにユウトの脳は継続してこれまでのやり取りの分析と予想を繰り返していた。

 しかし答えは出ない。わかっていることは単純な速度や力任せな手出しは見切られてしまうということだった。

 答えが出ないまま、ユウトが考えるガラルドのギリギリ届かない間合いで足を止める。

 ユウトの身体に染みついた基本の型はガラルドを模したものである限り自身の太刀筋が容易に読まれてしまうことはわかっている。今持っている魔剣が光魔剣であれば事態はもっと有利だったかもしれないとユウトはほんの少し嘆いた。

 もしも、なんていう考えを振り払いユウトは目の前のガラルドを中止する。とにかくまずは情報を得ることにした。

 ガラルドに向かってユウトは短く足を踏み込み手を狙って剣を振るう。致命傷にならない牽制の一撃。仮にかわされてもユウト自身に隙を生み出さない程度、防御が可能な攻撃だった。

 案の定、ガラルドはあっさりと剣で受け流す。ユウトはその感覚をしっかりと見てガラルドの間合いから出た。

 そしてまた牽制の攻撃を行う。今度は最初と違う場所を狙い、かわされればまた場所を変え、角度を変えて繰り返した。

 繰り返していくうちにその感覚は徐々に速さを増し、変化を生み、連続させていく。ユウトは息を切らすことはなかった。内包する魔力を身体能力へと変換させる量を適宜調節している。これは試作魔術具の試験を数多くこなすうちに身に着けた技術だった。

 ユウトはその圧倒的な持久力を利用してガラルドのほころびを探す。ガラルドの疲労度や、いつか起きるであろうミスを探し出そうとユウトはぎりぎりの間合いの中でガラルドとの攻防を繰り広げていた。

 試行と分析を積み重ね続けたユウトの手数とその速度に周囲で二人の決闘を見守る人々は唖然とする。圧倒的にユウトが有利な状況になっているようにしか見えなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

聖女を追放した国は、私が祈らなくなった理由を最後まで知りませんでした

藤原遊
ファンタジー
この国では、人の悪意や欲望、嘘が積み重なると 土地を蝕む邪気となって現れる。 それを祈りによって浄化してきたのが、聖女である私だった。 派手な奇跡は起こらない。 けれど、私が祈るたびに国は荒廃を免れてきた。 ――その役目を、誰一人として理解しないまま。 奇跡が少なくなった。 役に立たない聖女はいらない。 そう言われ、私は静かに国を追放された。 もう、祈る理由はない。 邪気を生み出す原因に目を向けず、 後始末だけを押し付ける国を守る理由も。 聖女がいなくなった国で、 少しずつ異変が起こり始める。 けれど彼らは、最後まで気づかなかった。 私がなぜ祈らなくなったのかを。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生

西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。 彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。 精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。 晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。 死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。 「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」 晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。

才能に打ち砕かれた日から、僕の最強は始まった

雷覇
ファンタジー
ワノクニ、蒼神流・蒼月道場。 天城蒼真は幼き頃から剣を学び、努力を重ねてきた。 だがある日、異世界から来た「勇者」瀬名隼人との出会いが、すべてを変える。 鍛錬も経験もない隼人は、生まれながらの天才。 一目見ただけで蒼真と幼馴染の朱音の剣筋を見切り、打ち破った。 朱音は琴音の命で、隼人の旅に同行することを決意する。 悔しさを抱えた蒼真は、道場を後にする。 目指すは“修羅の山”――魔族が封印され、誰も生きて戻らぬ死地へと旅立つ。

知識スキルで異世界らいふ

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

『ミッドナイトマート 〜異世界コンビニ、ただいま営業中〜』

KAORUwithAI
ファンタジー
深夜0時——街角の小さなコンビニ「ミッドナイトマート」は、異世界と繋がる扉を開く。 日中は普通の客でにぎわう店も、深夜を回ると鎧を着た騎士、魔族の姫、ドラゴンの化身、空飛ぶ商人など、“この世界の住人ではない者たち”が静かにレジへと並び始める。 アルバイト店員・斉藤レンは、バイト先が異世界と繋がっていることに戸惑いながらも、今日もレジに立つ。 「袋いりますか?」「ポイントカードお持ちですか?」——そう、それは異世界相手でも変わらない日常業務。 貯まるのは「ミッドナイトポイントカード(通称ナイポ)」。 集まるのは、どこか訳ありで、ちょっと不器用な異世界の住人たち。 そして、商品一つひとつに込められる、ささやかで温かな物語。 これは、世界の境界を越えて心を繋ぐ、コンビニ接客ファンタジー。 今夜は、どんなお客様が来店されるのでしょう? ※異世界食堂や異世界居酒屋「のぶ」とは 似て非なる物として見て下さい

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

処理中です...