107 / 213
雨後
しおりを挟む
セブルはレナを乗せひた走る。丸薬を使用した状態に比べればその速度は劣るものの街中を移動するどんなものより早く、そして機敏だった。
過ぎ去る街並みの人々はどこかよそよそしくざわめいている。過ぎ去っていくセブルを言葉に言い表せない不安な表情で見送っていた。その原因は非常事態を告げる二本の大柱のせいだったのかもしれないし、ユウトとガラルドの決闘だったのかもしれない。そんな不安な視線を気にも留めずセブルはただ全力で走った。
ヨーレンの工房は間もなく視界に入る。セブルは四つ足すべてで踏ん張ると石畳を濡らした雨水を跳ねて滑りながら急減速した。速度は落ちるものの工房正面口を通り過ぎそうな勢いを保っている。入口に達しそうになったところでセブルは毛をからませていたレナを開放し、両足を地につけさせた。
レナは残った勢いに身を任せ走り出し、工房入り口へ直行。そのまま扉を強く叩いて叫んだ。
「ネイラ!レナだっ!緊急の要件。すぐに開けて!」
扉を叩きだして間もなく扉は開く。レナは流れるように中に入り、レナのすぐ後ろに着いたセブルも身体を滑り込ませた。
ネイラは真剣な面持ちでレナとセブルとを出迎える。レナはネイラの前を通り過ぎ、歩みを止めず進み続ける。ネイラはレナの後を追うように歩いた。
「ノノはいる?」
「ええ、奥の工作室に。それで今はどんな状況?」
レナは奥に向けて歩きつづける。
「今、ガラルド隊長とユウトで決闘をしている。おそらくどちらかが死ぬまでやるはず」
「そうか・・・」
ネイラは驚くこともなく何かを察したようにつぶやいた。
そうしている間にレナは工作室の戸の前にたどり着き二度叩く。
「ノノ!頼みたいことがあるの!ヨーレンさんから言付かってる。入るよ」
扉越しに声を上げノノの返答を待たず戸を開けた。
明けた先の部屋には様々な工作機器があふれている。ちょうどノノは皮手袋を外そうとしていたところで急に入ってきたレナにきょとんとしていた。
「聞いてノノ。これはヨーレンさんから緊急の頼み。今ある研究中の治癒魔術の機材一式を持って広場に一緒に来て」
レナはノノの正面まで歩みを進めるとノノの両肩をぎゅっと掴む。
「わ、わかったわ。すぐに準備する」
ノノはレナの勢いに圧倒されながら慌てながらも慎重に荷物をまとめ始める。それほど時間がかかることもなくノノは肩掛けの鞄を背負い準備を終えた。
「よし、ついてきて」
レナは有無を言わさずノノの手を引き正面出入り口の広間に連れてくる。
「じゃあセブル。あとはお願い」
声を掛けられたセブルはノノの後方から股をくぐり自身の身体に毛をからませる。ノノを固定させると戸惑うノノに気を遣うことなくネイラが開け放った扉から飛び出していった。
その後姿を見送ったレナは呆然と立ち尽くす。そんなレナの後頭部を軽くはたいたのはネイラだった。
「何をぼうっとしているんだ。私たちも向かうんだろ。ここで事の顛末への知らせが来るのを待ってるつもりか?」
「・・・すぐに出る」
レナはむっとしながら肩に担いでいた魔槍を立てかけ扉から外に出る。ネイラもレナに続いて外にでると扉を施錠した。
二人は揃って雨の中を駆け出す。セブルほどではないが魔膜を利用した走法でみるみる加速していった。ネイラはロングスカートを片手で持って裾を上げ、レナに負けない速度で描けていく。レナも必死に食らいつきながらセブルとノノの後を追って駆け抜けた。
ユウトの視界には雲に差し込む白い光が写る。霧雨のような雨粒が舞い、雨はもう止もうとしていた。ゆっくりと身体を起こす。身体の感覚は希薄で疲労感を強く感じた。ふと左腕を見ると手がない。痛みはなく、血だけがあふれていた。意識を集中させると魔膜で覆われ血は止まる。あたりを見回すと赤い斑点が同心円上に散っていた。その先を見ると男が一人倒れている。周囲はどこまでも静かだった。
何かが座った足元に降り立つ。それは赤い鳥だった。その鳥は何かをユウトに語り掛けるが音は聞こえない。しかし別の何かが感じ取れた。
「ユウトさん!ユウトさんっ!大丈夫っスか!」
名前を呼ばれ、ユウトのぼんやりとした意識は徐々に鮮明さを取り戻す。自身の状況を一つ一つ振り返り始めた。
ガラルドとの最後の攻防をたどり自身が魔剣の爆発によって吹き飛ばされたことまで認識する。咄嗟に全身の魔膜を膨張させ防御を行っていたことでダメージを減少させる試みはおおむね成功したのだと分析した。それでも鼓膜までは完全に守り切れなかったようでキーンという音が鳴り響いている。徐々に聴覚を取り戻しながらユウトは立ち上がった。
ユウトは握り締めていた魔剣の柄を落とし金属音が響くのがほんのり感じる。ラトムは滞空するように飛び上がり、ユウトへ切実に声を掛けた。
「ユウトさん。今こそオイラの飾り羽を使ってくださいっス。今なら切り落とされた腕だってもとに戻せるっス」
「すごいな。そんな治癒力があるのか」
そう言いながらユウトは足を引きずるように真っすぐ正面へと歩き始める。たどり着いたのは大の字に横たわるガラルドだった。
過ぎ去る街並みの人々はどこかよそよそしくざわめいている。過ぎ去っていくセブルを言葉に言い表せない不安な表情で見送っていた。その原因は非常事態を告げる二本の大柱のせいだったのかもしれないし、ユウトとガラルドの決闘だったのかもしれない。そんな不安な視線を気にも留めずセブルはただ全力で走った。
ヨーレンの工房は間もなく視界に入る。セブルは四つ足すべてで踏ん張ると石畳を濡らした雨水を跳ねて滑りながら急減速した。速度は落ちるものの工房正面口を通り過ぎそうな勢いを保っている。入口に達しそうになったところでセブルは毛をからませていたレナを開放し、両足を地につけさせた。
レナは残った勢いに身を任せ走り出し、工房入り口へ直行。そのまま扉を強く叩いて叫んだ。
「ネイラ!レナだっ!緊急の要件。すぐに開けて!」
扉を叩きだして間もなく扉は開く。レナは流れるように中に入り、レナのすぐ後ろに着いたセブルも身体を滑り込ませた。
ネイラは真剣な面持ちでレナとセブルとを出迎える。レナはネイラの前を通り過ぎ、歩みを止めず進み続ける。ネイラはレナの後を追うように歩いた。
「ノノはいる?」
「ええ、奥の工作室に。それで今はどんな状況?」
レナは奥に向けて歩きつづける。
「今、ガラルド隊長とユウトで決闘をしている。おそらくどちらかが死ぬまでやるはず」
「そうか・・・」
ネイラは驚くこともなく何かを察したようにつぶやいた。
そうしている間にレナは工作室の戸の前にたどり着き二度叩く。
「ノノ!頼みたいことがあるの!ヨーレンさんから言付かってる。入るよ」
扉越しに声を上げノノの返答を待たず戸を開けた。
明けた先の部屋には様々な工作機器があふれている。ちょうどノノは皮手袋を外そうとしていたところで急に入ってきたレナにきょとんとしていた。
「聞いてノノ。これはヨーレンさんから緊急の頼み。今ある研究中の治癒魔術の機材一式を持って広場に一緒に来て」
レナはノノの正面まで歩みを進めるとノノの両肩をぎゅっと掴む。
「わ、わかったわ。すぐに準備する」
ノノはレナの勢いに圧倒されながら慌てながらも慎重に荷物をまとめ始める。それほど時間がかかることもなくノノは肩掛けの鞄を背負い準備を終えた。
「よし、ついてきて」
レナは有無を言わさずノノの手を引き正面出入り口の広間に連れてくる。
「じゃあセブル。あとはお願い」
声を掛けられたセブルはノノの後方から股をくぐり自身の身体に毛をからませる。ノノを固定させると戸惑うノノに気を遣うことなくネイラが開け放った扉から飛び出していった。
その後姿を見送ったレナは呆然と立ち尽くす。そんなレナの後頭部を軽くはたいたのはネイラだった。
「何をぼうっとしているんだ。私たちも向かうんだろ。ここで事の顛末への知らせが来るのを待ってるつもりか?」
「・・・すぐに出る」
レナはむっとしながら肩に担いでいた魔槍を立てかけ扉から外に出る。ネイラもレナに続いて外にでると扉を施錠した。
二人は揃って雨の中を駆け出す。セブルほどではないが魔膜を利用した走法でみるみる加速していった。ネイラはロングスカートを片手で持って裾を上げ、レナに負けない速度で描けていく。レナも必死に食らいつきながらセブルとノノの後を追って駆け抜けた。
ユウトの視界には雲に差し込む白い光が写る。霧雨のような雨粒が舞い、雨はもう止もうとしていた。ゆっくりと身体を起こす。身体の感覚は希薄で疲労感を強く感じた。ふと左腕を見ると手がない。痛みはなく、血だけがあふれていた。意識を集中させると魔膜で覆われ血は止まる。あたりを見回すと赤い斑点が同心円上に散っていた。その先を見ると男が一人倒れている。周囲はどこまでも静かだった。
何かが座った足元に降り立つ。それは赤い鳥だった。その鳥は何かをユウトに語り掛けるが音は聞こえない。しかし別の何かが感じ取れた。
「ユウトさん!ユウトさんっ!大丈夫っスか!」
名前を呼ばれ、ユウトのぼんやりとした意識は徐々に鮮明さを取り戻す。自身の状況を一つ一つ振り返り始めた。
ガラルドとの最後の攻防をたどり自身が魔剣の爆発によって吹き飛ばされたことまで認識する。咄嗟に全身の魔膜を膨張させ防御を行っていたことでダメージを減少させる試みはおおむね成功したのだと分析した。それでも鼓膜までは完全に守り切れなかったようでキーンという音が鳴り響いている。徐々に聴覚を取り戻しながらユウトは立ち上がった。
ユウトは握り締めていた魔剣の柄を落とし金属音が響くのがほんのり感じる。ラトムは滞空するように飛び上がり、ユウトへ切実に声を掛けた。
「ユウトさん。今こそオイラの飾り羽を使ってくださいっス。今なら切り落とされた腕だってもとに戻せるっス」
「すごいな。そんな治癒力があるのか」
そう言いながらユウトは足を引きずるように真っすぐ正面へと歩き始める。たどり着いたのは大の字に横たわるガラルドだった。
0
あなたにおすすめの小説
聖女を追放した国は、私が祈らなくなった理由を最後まで知りませんでした
藤原遊
ファンタジー
この国では、人の悪意や欲望、嘘が積み重なると
土地を蝕む邪気となって現れる。
それを祈りによって浄化してきたのが、聖女である私だった。
派手な奇跡は起こらない。
けれど、私が祈るたびに国は荒廃を免れてきた。
――その役目を、誰一人として理解しないまま。
奇跡が少なくなった。
役に立たない聖女はいらない。
そう言われ、私は静かに国を追放された。
もう、祈る理由はない。
邪気を生み出す原因に目を向けず、
後始末だけを押し付ける国を守る理由も。
聖女がいなくなった国で、
少しずつ異変が起こり始める。
けれど彼らは、最後まで気づかなかった。
私がなぜ祈らなくなったのかを。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生
西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。
彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。
精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。
晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。
死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。
「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」
晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。
才能に打ち砕かれた日から、僕の最強は始まった
雷覇
ファンタジー
ワノクニ、蒼神流・蒼月道場。
天城蒼真は幼き頃から剣を学び、努力を重ねてきた。
だがある日、異世界から来た「勇者」瀬名隼人との出会いが、すべてを変える。
鍛錬も経験もない隼人は、生まれながらの天才。
一目見ただけで蒼真と幼馴染の朱音の剣筋を見切り、打ち破った。
朱音は琴音の命で、隼人の旅に同行することを決意する。
悔しさを抱えた蒼真は、道場を後にする。
目指すは“修羅の山”――魔族が封印され、誰も生きて戻らぬ死地へと旅立つ。
知識スキルで異世界らいふ
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ
『ミッドナイトマート 〜異世界コンビニ、ただいま営業中〜』
KAORUwithAI
ファンタジー
深夜0時——街角の小さなコンビニ「ミッドナイトマート」は、異世界と繋がる扉を開く。
日中は普通の客でにぎわう店も、深夜を回ると鎧を着た騎士、魔族の姫、ドラゴンの化身、空飛ぶ商人など、“この世界の住人ではない者たち”が静かにレジへと並び始める。
アルバイト店員・斉藤レンは、バイト先が異世界と繋がっていることに戸惑いながらも、今日もレジに立つ。
「袋いりますか?」「ポイントカードお持ちですか?」——そう、それは異世界相手でも変わらない日常業務。
貯まるのは「ミッドナイトポイントカード(通称ナイポ)」。
集まるのは、どこか訳ありで、ちょっと不器用な異世界の住人たち。
そして、商品一つひとつに込められる、ささやかで温かな物語。
これは、世界の境界を越えて心を繋ぐ、コンビニ接客ファンタジー。
今夜は、どんなお客様が来店されるのでしょう?
※異世界食堂や異世界居酒屋「のぶ」とは
似て非なる物として見て下さい
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました
okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる