ゴブリンロード

水鳥天

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「それともう一つ、ゴブリンロードの目と耳としてこのヴァルが遣わされている」

 ユウトに手で指し示されヴァルは少し前に出る。

「我ハ、ヴァル、ロードノ僕トシテ今ハ、ユウトニ同行シテイル。ドウゾヨロシク」

 ヴァルは抑揚のない、独特な音声で自己紹介を行い、ユウトはさらに言葉を続けた。

「このヴァルは使者として見聞きしたことをロードのもとに伝え、ロードからの言葉を代弁する能力があるそうだ。
 これからここで話す内容、意見についてできればロードへ共有させてもらいたいが構わないだろうか?」
「隠しておかなければいけないことはない。かまわないだろう」

 マレイがいち早く答え、レイノスとディゼルの方へ確認するように目配せをする。レイノスもディゼルも何も言わずに頷いた。

「ありがとう。それでは本題に入りたい。まずゴブリン側が考えている作戦と見返りだ。
 ゴブリン殲滅ギルドが掲げている目標である旧世代ゴブリンたちの絶滅と引き換えにして今現在ここに向かっている大型魔獣の討伐を行う。その見返りに新世代ゴブリンを友好的な民として認めてもらう手助けをしてもらいたい」

 そこまで言うとユウトは黙って少しの間、考え込む。そして決心したように話を続け始めた。

「正直に言えば、大魔獣の目的もギルドと同じくゴブリンの殲滅にある。
 ロードの考えたこの作戦はゴブリンが原因で起こった大魔獣という災いを自らで解決し、ゴブリンが一定の利益を得るものだ。
 ただ、新世代のゴブリンを受け入れることで従来の敵であった旧世代のゴブリンはより早く確実に殲滅できる利点がある。
 ガラルドはこの条件の利点を理解はしていたようだけど納得できなかったようだった。だからこそ決闘という手段で早く決着を付けてたかったんだと思う。
 レイノス副隊長はこの提案をどう考える?」

 ユウトから話を振られてレイノスは組んでいた腕をほどいてユウトを真正面にとらえた。

「ガラルドが決闘を決断し行動を起こした結果、ガラルドは破れこの会談の場がある。とするならガラルドの了承は得ているものと考えるのが妥当だろう。
 本気でユウトを止めたいのであれば決闘なんてまどろっこしいことをする必要はない。
 それに我々ギルドが今この大工房にいるのはガラルドの報告書にそう指示があったからだ」
「指示?ガラルド隊長はこうなることを予測していたのでしょうか?」

 ヨーレンは驚きを隠せない様子でレイノスに尋ねる。

「さすがのガラルドも真に正しくこの現状を予測できなかっただろう。報告書には異様に組織だった活動を行うゴブリンの存在、ユウトの高い能力と持ち合わせた社会性からゴブリンに何らかの変化が起こったのではないと予見していた。
 そして魔物がゴブリンを積極的に襲っているのではとも考えて、ユウトを狙う魔物の襲撃に備えるため、我々をここに完全武装で来るようにと指示をしていた」

 レイノスは困ったような笑顔を見せながら答えた。

「それで・・・レイノスはこのゴブリンからの提案をどうする?必要な条件があればできる限り取り入れられるようにするつもりだけど」

 ユウトは神妙な面持ちでレイノスがどうゴブリン側の提案を扱うのか尋ねる。レイノスは半眼で少し考えるように黙った後、話し始めた。

「先ほども言ったようにガラルドとユウトの間で決着が着いたのならその結果を尊重し、提案を受けるべきだろう。
 提案を受け入れることでいち早く旧世代のゴブリンだけでも殲滅できるのなら、その後に起こりうる問題と比べたとしても十分に利がある。と、私は考える」

 レイノスは冷めた表情で自らの考えを語る。その内容には何か問題があれば新世代のゴブリンも容赦なく斬り捨てるという覚悟が垣間見えたようにユウトは感じられた。

「わかった。調査騎士団としてはどうだろう?」

 ユウトは次にディゼルへ意見を求める。

「我々調査騎士団の目的は害なす魔物への対処だ。その観点で言えば大魔獣の討伐を積極的に行う第三者の存在は好ましい。それだけ騎士団の損害を軽減できる。
 最終的な判断はクロノワ団長に委ねなければならないが一人の団員の意見としては受け入れられると思う」

 真剣な表情でディゼルはユウトに意見を語った。

「ありがとう。では具体的なゴブリンの見返りについて確認しておきたい。
 新世代のゴブリンがこの社会に受け入れられるために物語を演出する。筋書きはこう。旧世代ゴブリンの企みによって作り出された大魔獣を別種のゴブリンとしてオレがとどめを刺す。というものだ。その証明をギルドと騎士団にはお願いしたい」
「つまり、ユウトによる勝利を印象付けるためにギルドと騎士団に嘘をついてもらうというわけか」

 マレイが口をはさんだがユウトにはその内容について反論できない。

「そのとおりだよマレイ。ギルドと騎士団には新世代は旧世代に作られたということを隠してもらわなければならない。ただ、その代わりに大魔獣との戦闘においてゴブリン側は手助けを求めない」

 ユウトはマレイに対して食い下がらずに話しを続けた。

「では、もしユウトと共に新世代が大魔獣に敗れとすればその後始末はギルドと騎士団に負わせる、ということなんだな」
「・・・なんとしても達成してみせる。けど、最悪の場合そうなる」

 マレイの追撃をユウトは認めざるを得ない。覆しようのない事実だった。 
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