ゴブリンロード

水鳥天

文字の大きさ
130 / 213

放物

しおりを挟む
 ユウトは戦闘態勢の構えを解いて自然な立ち姿へと戻る。軽く肩で息をしながら手に持つ光魔剣をまじまじと見つめた。

 ヨーレンの許可が出るまで禁止されていた実戦を想定した身体の動きを久しぶりに行ったが、その空白期間を感じさせないほどにマレイによって作り直された光魔剣は扱いやすくなっているとユウトは明確に感じている。これまでであれば気を緩めてしまうとすぐに最大出力になってしまうような荒い、極端な操作感覚だった魔力調節が無段階に綺麗な階調になっていた。

 マレイによる改良の成果に対して素直に感激し、その実力に驚くユウト。立ち尽くしているユウトにヴァルが近寄りつつ発言した。

「出力安定性、良好。出力損失、少量。最大攻撃力ハ大剣ニ劣ルモノノ、完成度ハ光魔剣改修型ノ方ガ圧倒的ニ優レル」
「確かに・・・な。モリードには内緒にしておいてやってくれ。きっとそれを知ると対抗心を燃やして暴走するだろうから」
「了解シタ」

 ヴァルの報告に苦笑いしながら言葉を返すユウトは光魔剣を腰のベルトに引っかけるようにして身に着ける。

「さてと・・・それじゃオレ達も戻ろうか。今日の魔力消費分は使い切ってしまったことだし」
「ワカッタ。デワ我ニ乗レ」
「ヴァルに、乗る?」
「ソウダ。急ギノ用ガ出来タ。我ガ野営地マデ送ロウ」

 巨大な卵のような形をしたヴァルをユウトはいぶかしげに眺める。その滑らかな金属曲面はけして乗りやすいようには見えなかった。

「乗レバ、ワカル」

 ヴァルが念を押すように疑いの目を持つユウトに返答する。ヴァルと出会ってから数日を共にしている期間でヴァル自身が主張をすることは初めてだった。

「そうか・・・わかった。せっかくだしよろしく頼むよ」

 ユウトはそう言うとヴァルの頂点に両手を置いて慎重に腰を下ろす。するとすぐにユウトは不思議な感覚を認識した。全身を含め、身に着けている衣類までヴァルの表面に吸い付くような作用を感じる。さらにヴァルの表面と密着している面から力が発生し、ユウトの身体は滑り出した。

 ヴァルの正面から乗っかったユウトの身体は半回転を行いヴァルと同じ方向を向く。ユウトの姿勢も調整され、ユウトの意思と関係なく体制を調整された。ユウトはヴァルに表面で固定される。安定感があるが、離れそうにない両方の手の平にユウトは拘束されているような気もした。

「え、おい。動けないんだが・・・」
「デハ、行クゾ」

 準備が整ったのかヴァルが声を上げる。それと同時にヴァルに触れた面から振動が伝わってくることにユウトは気づいた。振動のふり幅は小さいものの、徐々にその周期を縮めている。まるでヴァルの中心から発せられているような高速の振動にユウトは得も言われぬ不安を抱いた。

「ちょっと待て、何をするつもりだヴァル!」

 ユウトの問いかけに答えることなくヴァルは「発進」と言ったと同時に地表からポンッと跳ね上がる。上昇する速度はすぐに衰え、高めの跳躍かとユウトは思った。

 しかしその瞬間、上昇速度は猛烈にその勢いを取り戻す。ヴァルから突き上げるような加速をユウトは全身で感じ取っていた。

 ヴァルの頭上に固定されているユウトは身動きが取れない。そんな状態でみるみるうちに離れていく地上の風景をただ眺めていることしかできなかった。

 草原を円形になぎ倒しながらユウトとヴァルは空を昇る。斜め方向に角度のついたヴァルの飛翔は放物線を描き出していた。

 上昇速度が落ち、ゼロになる。最も高い点に迫るそのひと時の瞬間、ヴァルは緩く回転しユウトは周囲を見渡した。遠くにそびえる崩壊塔、大工房にジヴァのいる森を見下ろし、真下に広がる星の大釜。日に照らされた新緑の緑が広がる光景にユウトは自身の不安定な状態を忘れてしまうほど見入ってしまった。

 しかしその視界の隅に何かが引っかかる。ユウトの視線は遠く森の広がる彼方へ引き寄せられた。
 顔をしかめさせて厳しい表情を取るユウトが睨んだ方向で鳥が森から飛び上がる。背の高い木々の間から黒々した何かがちらりと覗いた。

「あれが・・・」

 ユウトは小さくつぶやくのに合わせたかのように広がる景色は速度を上げて流れ始める。ヴァルは自由落下を始め、重力加速度に身を任せるように加速していった。

 気を取られていたユウトはその変化の対応に一歩出遅れてしまい、ぞわっとする感覚に襲われてしまう。緊張感が裏返りそれまで考えていたことがかき消されてしまった。放物線の軌道をたどって姿勢を保ったまま落下していくヴァルにユウトは声を出すこともできずに静観するしかない。星の大釜の外縁に並ぶ大小さまざまなテント群を飛び越えた開けた草原が迫ってきていた。

 ユウトの頭の中ではすでに地面に激突してしまった時の対処について思考が巡り始めている。覚悟を決めかけていたユウトに反してヴァルの落下速度はがくんと急激に弱まりを見せた。地面に激突することなく柔らかな浮遊感を持ってヴァルは地上へ着陸を果たす。ユウトは全身の緊張が解けるように大きく安堵の息を吐いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

聖女を追放した国は、私が祈らなくなった理由を最後まで知りませんでした

藤原遊
ファンタジー
この国では、人の悪意や欲望、嘘が積み重なると 土地を蝕む邪気となって現れる。 それを祈りによって浄化してきたのが、聖女である私だった。 派手な奇跡は起こらない。 けれど、私が祈るたびに国は荒廃を免れてきた。 ――その役目を、誰一人として理解しないまま。 奇跡が少なくなった。 役に立たない聖女はいらない。 そう言われ、私は静かに国を追放された。 もう、祈る理由はない。 邪気を生み出す原因に目を向けず、 後始末だけを押し付ける国を守る理由も。 聖女がいなくなった国で、 少しずつ異変が起こり始める。 けれど彼らは、最後まで気づかなかった。 私がなぜ祈らなくなったのかを。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生

西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。 彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。 精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。 晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。 死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。 「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」 晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。

才能に打ち砕かれた日から、僕の最強は始まった

雷覇
ファンタジー
ワノクニ、蒼神流・蒼月道場。 天城蒼真は幼き頃から剣を学び、努力を重ねてきた。 だがある日、異世界から来た「勇者」瀬名隼人との出会いが、すべてを変える。 鍛錬も経験もない隼人は、生まれながらの天才。 一目見ただけで蒼真と幼馴染の朱音の剣筋を見切り、打ち破った。 朱音は琴音の命で、隼人の旅に同行することを決意する。 悔しさを抱えた蒼真は、道場を後にする。 目指すは“修羅の山”――魔族が封印され、誰も生きて戻らぬ死地へと旅立つ。

知識スキルで異世界らいふ

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

『ミッドナイトマート 〜異世界コンビニ、ただいま営業中〜』

KAORUwithAI
ファンタジー
深夜0時——街角の小さなコンビニ「ミッドナイトマート」は、異世界と繋がる扉を開く。 日中は普通の客でにぎわう店も、深夜を回ると鎧を着た騎士、魔族の姫、ドラゴンの化身、空飛ぶ商人など、“この世界の住人ではない者たち”が静かにレジへと並び始める。 アルバイト店員・斉藤レンは、バイト先が異世界と繋がっていることに戸惑いながらも、今日もレジに立つ。 「袋いりますか?」「ポイントカードお持ちですか?」——そう、それは異世界相手でも変わらない日常業務。 貯まるのは「ミッドナイトポイントカード(通称ナイポ)」。 集まるのは、どこか訳ありで、ちょっと不器用な異世界の住人たち。 そして、商品一つひとつに込められる、ささやかで温かな物語。 これは、世界の境界を越えて心を繋ぐ、コンビニ接客ファンタジー。 今夜は、どんなお客様が来店されるのでしょう? ※異世界食堂や異世界居酒屋「のぶ」とは 似て非なる物として見て下さい

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

処理中です...