ゴブリンロード

水鳥天

文字の大きさ
134 / 213

心配

しおりを挟む
 座ったカーレンはユウトと同じ包みをほどいて食事を始める。ユウトは怒らせてしまっただろうかと不安にかられて焦りながらも、話があると言われてしまった手前その場を後にすこともできず、ブドウを一粒ずつもぎ取ってはちまちまと食べ進めることしかできなかった。

 しばらく時間が経ってゆっくり食べていたブドウも底をつきかけた頃、サンドイッチを食べ終わったカーレンがようやく口を開く。

「すみません。私が迂闊でした。魔導は人前で使用することを控えてその仕組みを悟られないよう隠さなければならない、という教えがあるのですが騎士団に所属してからその意識が薄れてしまっていたみたいです。
 その・・・ゴブリンの身体であれば魔物として魔力の流れに敏感である可能性を忘れていたのは私の落ち度です。私の態度から不快にさせてしまったら申し訳ないです」
「いやっ、その。全然大丈夫だから。こちらこそ、なんというかすまない」

 ユウトは突然謝罪されたことへの驚きと怒らせていなかったという安堵から思考の処理が追い付かないままあたふたと返答を返す。ユウトは一度間を置き、思考を落ち着かせてから言葉を続けた。

「何か、オレに話があるそうだったけど、なんだろうか」
「実は兄のことについて聞きたくて。兄の様子はユウトさんから見てどう感じますか?」
「様子か・・・最近は準備に忙しくて話しもできていないな」
「実はユウトさんに兄の工房まで送り届けてもらった後、兄と二人で話をする機会があったんです」
「へぇ、カーレンから?」
「いえ、兄からでした。随分と久しぶりにちゃんとした会話をしたような気がします」

 そう語るカーレンの横顔は先ほどまでと打って変わって柔らかい。

「よかったじゃないか。ちゃんと話ができたんだ」

 ユウトは以前ヨーレンに思い切ったした忠告をしていたことを思い出す。聞き入れてくれたことが少しうれしかった。

「はい。私は気持ちが軽くなった気がします。ただ・・・気になることがあって」

 明るくなったカーレンの表情が曇る。

「なんとなく、なんですけど、思い詰めるというか、あの頃のような」
「あの頃?」
「えっと、兄がまだ魔術師だった頃のことです。家を出る直前の頃の張り詰めた雰囲気に似てるんです。あの頃の兄は見ていて私もつらかった」
「魔導士だったころのヨーレンってそんなだったんだ」

 いつも物腰の柔らかいヨーレンしか知らないユウトにとってはあまり想像できなかった。

「私も魔導士としての兄が具体的にどういった活動をしていたのか知らないんです。とにかく魔導士としての才に優れ有能であったと聞かされるばかりで」

 その話を聞いてユウトはヨーレンに聞いてもすんなり答えられるようなことではないのだろうと推測する。

「確かに気になるな・・・オレも気にかけておくよ」

 うつむいて心配そうなカーレンを励まそうときるだけ明るく答える。

「すみません。今、ここでこんな話ができるの兄さんの工房にいるレナさん達だけなのであまえてしまってますね」

 カーレンはユウトに笑って見せた。

 ユウトも笑顔を作る。ゴブリンの笑顔がどんなモノかはユウト自身わからなかったがカーレンを安心させてやりたい一心だった。

 一つ、ユウトの記憶に引っかかりがある。それはジヴァの前で外したヨーレンの指輪だった。それが意味するところをユウトは掴み切れず、口に出すことを躊躇した。

「そうだ。昔のヨーレンはカーレンから見てどんなだったんだ?」

 多少強引とも思ったがユウトは話の流れを大きく変えることにする。

「えっ?ああ、そうですね・・・」

 突然の質問にカーレンははっとして真剣に考えだした。

「私から見てヨー兄さんはおっとりしていているんですけど自分の興味のあることにはこだわる人でしたね。特にお茶なんかは没頭してました」
「お茶か。そういえば一度何か入れてもらったことがあったな。ちょっと苦いけど甘みが強くて妙においしいお茶だったっけ。確かに機器とかすごく手が込んでた気がする」

 ユウトは討伐遠征野営地で淹れてもらったお茶のことを想い出す。あれっ切り同じものに口を付けた覚えがなかったが舌が覚えていた。

「ええっ!それはたぶん極東から伝わるっているすっごく珍しい茶葉ですよ!いつかはって言ってたけれどついに手にいれてたんだ」

 カーレンは口に手を当てながら驚く。「私にもいつか淹れてくれるって言ってたのに」と少し悔しそうにつぶやいた声をユウトは聞いた。

 それからというもの、カーレンからヨーレンへの思い出話に花が咲く。その内容は子供時代の他愛のないものばかりだったがユウトにとっても興味深く、この世界の持つ暖かい思い出を共有できることがうれしかった。

 特にこの日の予定もなかった二人の語らいはしばらく続いていく。太陽だけが徐々に傾いていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

聖女を追放した国は、私が祈らなくなった理由を最後まで知りませんでした

藤原遊
ファンタジー
この国では、人の悪意や欲望、嘘が積み重なると 土地を蝕む邪気となって現れる。 それを祈りによって浄化してきたのが、聖女である私だった。 派手な奇跡は起こらない。 けれど、私が祈るたびに国は荒廃を免れてきた。 ――その役目を、誰一人として理解しないまま。 奇跡が少なくなった。 役に立たない聖女はいらない。 そう言われ、私は静かに国を追放された。 もう、祈る理由はない。 邪気を生み出す原因に目を向けず、 後始末だけを押し付ける国を守る理由も。 聖女がいなくなった国で、 少しずつ異変が起こり始める。 けれど彼らは、最後まで気づかなかった。 私がなぜ祈らなくなったのかを。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生

西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。 彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。 精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。 晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。 死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。 「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」 晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。

才能に打ち砕かれた日から、僕の最強は始まった

雷覇
ファンタジー
ワノクニ、蒼神流・蒼月道場。 天城蒼真は幼き頃から剣を学び、努力を重ねてきた。 だがある日、異世界から来た「勇者」瀬名隼人との出会いが、すべてを変える。 鍛錬も経験もない隼人は、生まれながらの天才。 一目見ただけで蒼真と幼馴染の朱音の剣筋を見切り、打ち破った。 朱音は琴音の命で、隼人の旅に同行することを決意する。 悔しさを抱えた蒼真は、道場を後にする。 目指すは“修羅の山”――魔族が封印され、誰も生きて戻らぬ死地へと旅立つ。

知識スキルで異世界らいふ

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

『ミッドナイトマート 〜異世界コンビニ、ただいま営業中〜』

KAORUwithAI
ファンタジー
深夜0時——街角の小さなコンビニ「ミッドナイトマート」は、異世界と繋がる扉を開く。 日中は普通の客でにぎわう店も、深夜を回ると鎧を着た騎士、魔族の姫、ドラゴンの化身、空飛ぶ商人など、“この世界の住人ではない者たち”が静かにレジへと並び始める。 アルバイト店員・斉藤レンは、バイト先が異世界と繋がっていることに戸惑いながらも、今日もレジに立つ。 「袋いりますか?」「ポイントカードお持ちですか?」——そう、それは異世界相手でも変わらない日常業務。 貯まるのは「ミッドナイトポイントカード(通称ナイポ)」。 集まるのは、どこか訳ありで、ちょっと不器用な異世界の住人たち。 そして、商品一つひとつに込められる、ささやかで温かな物語。 これは、世界の境界を越えて心を繋ぐ、コンビニ接客ファンタジー。 今夜は、どんなお客様が来店されるのでしょう? ※異世界食堂や異世界居酒屋「のぶ」とは 似て非なる物として見て下さい

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

処理中です...