140 / 213
達成
しおりを挟む
ユウトは信じる。後方に控える一人ひとりの能力と信念は必ずそれぞれの役割を果たすと。雑念のない思考と行動が続いた。
そして変化が訪れる。ラトムの示す光の点は収縮し、より強く輝き始めた。
核が近い、もうすぐ現れるという前触れであるとユウトは認識する。
ユウトは進行速度を増し、危険を冒してさらに一歩踏み込む。後方から回り込むようなムチの一撃をすんでのところでかわすとムチの先の爪がユウトの頬に一文字の傷を刻んだ。
傷口から球のような血液が浮き上がる。同時に一歩分の踏み込みはそれだけ深く傷口をえぐり開いた。
魔獣の身体から赤く透明な球面が顔を覗かせる。
これが核だと直感したユウトは光魔剣を振り切った勢いのまま倒れ込むように地に伏す。
それまで見えていた魔獣の身体と全く違う光沢を放つ核の一部は直ちにその身を隠すように引き下がろうとする。しかしそれは飛来したカーレンの短剣が覗く核を取り突き刺ささって取り囲んで逃がさなかった。
逃れようとする働きと引っ張りだそうとする働きがせめぎあい、姿を覗かせる核は震える。そして生まれたその一瞬の間を逃さない鋭敏な一突きが核の球面に触れた。
それは細い細い光の筋。四肢を踏みしめるセブルを発射台にして突き出したレナの魔槍の刃。光はその先端から伸びていた。
次の瞬間、滑らかな硬質の球面を白く染めあげられる。微細な亀裂が核に走った。
そして光の筋は魔獣の身体を貫いてラトムの光に隠れた裏面に一瞬現れる。
レナは握り締めた柄をグイとさらにねじり込む。魔獣の歪だった身体は一度膨らんで動きを止めると雪崩れるようにその身を崩した。
その場に居合わせる生き残った全員は時が止まったかのように呆然とする。地に伏し、魔獣の残した黒い毛に身体半分埋もれるユウトはどれほどの時間そうして呆けていたのかわからなかった。
そして皆が息を合わせて一斉に「はぁあ・・・」と大きくため息をついてうなだれる。ユウトは身体にまとわりつく毛を気にする様子もなく立ち上がってあたりを見回した。
街道の幅いっぱいに埋め尽くす魔獣の黒い毛。その毛はそよ風に吹かれて舞うほど軽く、ラトムの発する光を受けて小さくきらめいていた。
レナやカーレンは疲れ切ったようにその場に座り込んでいる。さらに周りの様子を何気なく見回していたユウトはふと何かが小さく鳴っていることに気づいた。
それはセブルも同じだったようでユウトと同じ方向に目を向けている。ユウトとセブルは引き寄せられるように今にも消え入りそうな鳴き声の方向へと歩みを進め始めた。
目標は石畳の隅で形を残して転がっている。それは魔獣の頭だった。
斬り飛ばされた魔獣の頭は身体を失ってなお脈打っている。しかしその強さはすでに小さく今にも止まりそうだった。
ユウトとセブルが見つめる頭からは確かに何かが聞こえる。ユウトはその声に聞き覚えがあった。
「ユウトさん、あの・・・」
丸薬の影響で大きな姿のセブルはユウトへ頭を低くして声を掛けてくる。それと同時にユウト達に近づく人影があった。
「これがもう一つの核です。この状態になった魔獣は時間が経てば消滅しますが・・・念のため早めに核を討っておきますか?」
カーレンがユウトの後ろから声を掛けてくる。その手には短剣が握られていた。
脈打つ頭の赤い瞳はユウト達を見つめる。ユウトはその瞳と鳴り続ける声を聞いていた。
「いや・・・待ってくれカーレン。セブル、助けられそうなのか?」
「はい、今ある魔力を送れば今なら助けられます。ボクは・・・助けてあげたいです」
「うん、オレもそう思う。
カーレン、この魔獣はオレに預けてもらってもいいか?面倒はオレが引き受けるから」
ユウトから正面切っての申し出にカーレンはきょとんとしてからうろたえる。
「えっと、それは・・・私の判断では・・・」
「わかってる。だからこれはカーレンの制止を振り切り、オレの独断でやったと報告してくれ。お願いだ」
「あの、その・・・では、そのように。でも報告はユウトさんの方からも必ず行ってください」
押し切られそうになるカーレンは気後れした表情を持ち直し、真剣にユウトへ釘を指す。
「必ず報告するよ。ありがとう、カーレン」
返事したユウトはセブルに視線を移した。
「セブル、やってくれ」
その言葉を聞き、セブルは頷くと魔獣の頭に近づいて鼻先をほんの少し触れさせる。すると魔獣の頭として形作っていた黒毛が細かくなびいた。
そして形は次第に崩れていき丸みを帯びて小さくなる。それまで消え入りそうだった魔力の灯が強くなったようにユウトは感じた。そして二つの三角形が並んで生えると黄色くぼんやりと輝く二つの円が現れる。それに続いて短い四肢と尻尾が伸びた。
ぱちぱちと数回、瞳を瞬きして魔獣の頭であったソレはユウト達を見上げて一声あげる。
「なーぅ」
その姿はクロネコテンとしてのセブルそのものだった。
見た目の違いは瞳の色ぐらいしかない。ただそれ以上にユウトには気になることがあった。
そして変化が訪れる。ラトムの示す光の点は収縮し、より強く輝き始めた。
核が近い、もうすぐ現れるという前触れであるとユウトは認識する。
ユウトは進行速度を増し、危険を冒してさらに一歩踏み込む。後方から回り込むようなムチの一撃をすんでのところでかわすとムチの先の爪がユウトの頬に一文字の傷を刻んだ。
傷口から球のような血液が浮き上がる。同時に一歩分の踏み込みはそれだけ深く傷口をえぐり開いた。
魔獣の身体から赤く透明な球面が顔を覗かせる。
これが核だと直感したユウトは光魔剣を振り切った勢いのまま倒れ込むように地に伏す。
それまで見えていた魔獣の身体と全く違う光沢を放つ核の一部は直ちにその身を隠すように引き下がろうとする。しかしそれは飛来したカーレンの短剣が覗く核を取り突き刺ささって取り囲んで逃がさなかった。
逃れようとする働きと引っ張りだそうとする働きがせめぎあい、姿を覗かせる核は震える。そして生まれたその一瞬の間を逃さない鋭敏な一突きが核の球面に触れた。
それは細い細い光の筋。四肢を踏みしめるセブルを発射台にして突き出したレナの魔槍の刃。光はその先端から伸びていた。
次の瞬間、滑らかな硬質の球面を白く染めあげられる。微細な亀裂が核に走った。
そして光の筋は魔獣の身体を貫いてラトムの光に隠れた裏面に一瞬現れる。
レナは握り締めた柄をグイとさらにねじり込む。魔獣の歪だった身体は一度膨らんで動きを止めると雪崩れるようにその身を崩した。
その場に居合わせる生き残った全員は時が止まったかのように呆然とする。地に伏し、魔獣の残した黒い毛に身体半分埋もれるユウトはどれほどの時間そうして呆けていたのかわからなかった。
そして皆が息を合わせて一斉に「はぁあ・・・」と大きくため息をついてうなだれる。ユウトは身体にまとわりつく毛を気にする様子もなく立ち上がってあたりを見回した。
街道の幅いっぱいに埋め尽くす魔獣の黒い毛。その毛はそよ風に吹かれて舞うほど軽く、ラトムの発する光を受けて小さくきらめいていた。
レナやカーレンは疲れ切ったようにその場に座り込んでいる。さらに周りの様子を何気なく見回していたユウトはふと何かが小さく鳴っていることに気づいた。
それはセブルも同じだったようでユウトと同じ方向に目を向けている。ユウトとセブルは引き寄せられるように今にも消え入りそうな鳴き声の方向へと歩みを進め始めた。
目標は石畳の隅で形を残して転がっている。それは魔獣の頭だった。
斬り飛ばされた魔獣の頭は身体を失ってなお脈打っている。しかしその強さはすでに小さく今にも止まりそうだった。
ユウトとセブルが見つめる頭からは確かに何かが聞こえる。ユウトはその声に聞き覚えがあった。
「ユウトさん、あの・・・」
丸薬の影響で大きな姿のセブルはユウトへ頭を低くして声を掛けてくる。それと同時にユウト達に近づく人影があった。
「これがもう一つの核です。この状態になった魔獣は時間が経てば消滅しますが・・・念のため早めに核を討っておきますか?」
カーレンがユウトの後ろから声を掛けてくる。その手には短剣が握られていた。
脈打つ頭の赤い瞳はユウト達を見つめる。ユウトはその瞳と鳴り続ける声を聞いていた。
「いや・・・待ってくれカーレン。セブル、助けられそうなのか?」
「はい、今ある魔力を送れば今なら助けられます。ボクは・・・助けてあげたいです」
「うん、オレもそう思う。
カーレン、この魔獣はオレに預けてもらってもいいか?面倒はオレが引き受けるから」
ユウトから正面切っての申し出にカーレンはきょとんとしてからうろたえる。
「えっと、それは・・・私の判断では・・・」
「わかってる。だからこれはカーレンの制止を振り切り、オレの独断でやったと報告してくれ。お願いだ」
「あの、その・・・では、そのように。でも報告はユウトさんの方からも必ず行ってください」
押し切られそうになるカーレンは気後れした表情を持ち直し、真剣にユウトへ釘を指す。
「必ず報告するよ。ありがとう、カーレン」
返事したユウトはセブルに視線を移した。
「セブル、やってくれ」
その言葉を聞き、セブルは頷くと魔獣の頭に近づいて鼻先をほんの少し触れさせる。すると魔獣の頭として形作っていた黒毛が細かくなびいた。
そして形は次第に崩れていき丸みを帯びて小さくなる。それまで消え入りそうだった魔力の灯が強くなったようにユウトは感じた。そして二つの三角形が並んで生えると黄色くぼんやりと輝く二つの円が現れる。それに続いて短い四肢と尻尾が伸びた。
ぱちぱちと数回、瞳を瞬きして魔獣の頭であったソレはユウト達を見上げて一声あげる。
「なーぅ」
その姿はクロネコテンとしてのセブルそのものだった。
見た目の違いは瞳の色ぐらいしかない。ただそれ以上にユウトには気になることがあった。
0
あなたにおすすめの小説
聖女を追放した国は、私が祈らなくなった理由を最後まで知りませんでした
藤原遊
ファンタジー
この国では、人の悪意や欲望、嘘が積み重なると
土地を蝕む邪気となって現れる。
それを祈りによって浄化してきたのが、聖女である私だった。
派手な奇跡は起こらない。
けれど、私が祈るたびに国は荒廃を免れてきた。
――その役目を、誰一人として理解しないまま。
奇跡が少なくなった。
役に立たない聖女はいらない。
そう言われ、私は静かに国を追放された。
もう、祈る理由はない。
邪気を生み出す原因に目を向けず、
後始末だけを押し付ける国を守る理由も。
聖女がいなくなった国で、
少しずつ異変が起こり始める。
けれど彼らは、最後まで気づかなかった。
私がなぜ祈らなくなったのかを。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生
西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。
彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。
精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。
晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。
死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。
「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」
晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。
才能に打ち砕かれた日から、僕の最強は始まった
雷覇
ファンタジー
ワノクニ、蒼神流・蒼月道場。
天城蒼真は幼き頃から剣を学び、努力を重ねてきた。
だがある日、異世界から来た「勇者」瀬名隼人との出会いが、すべてを変える。
鍛錬も経験もない隼人は、生まれながらの天才。
一目見ただけで蒼真と幼馴染の朱音の剣筋を見切り、打ち破った。
朱音は琴音の命で、隼人の旅に同行することを決意する。
悔しさを抱えた蒼真は、道場を後にする。
目指すは“修羅の山”――魔族が封印され、誰も生きて戻らぬ死地へと旅立つ。
知識スキルで異世界らいふ
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ
『ミッドナイトマート 〜異世界コンビニ、ただいま営業中〜』
KAORUwithAI
ファンタジー
深夜0時——街角の小さなコンビニ「ミッドナイトマート」は、異世界と繋がる扉を開く。
日中は普通の客でにぎわう店も、深夜を回ると鎧を着た騎士、魔族の姫、ドラゴンの化身、空飛ぶ商人など、“この世界の住人ではない者たち”が静かにレジへと並び始める。
アルバイト店員・斉藤レンは、バイト先が異世界と繋がっていることに戸惑いながらも、今日もレジに立つ。
「袋いりますか?」「ポイントカードお持ちですか?」——そう、それは異世界相手でも変わらない日常業務。
貯まるのは「ミッドナイトポイントカード(通称ナイポ)」。
集まるのは、どこか訳ありで、ちょっと不器用な異世界の住人たち。
そして、商品一つひとつに込められる、ささやかで温かな物語。
これは、世界の境界を越えて心を繋ぐ、コンビニ接客ファンタジー。
今夜は、どんなお客様が来店されるのでしょう?
※異世界食堂や異世界居酒屋「のぶ」とは
似て非なる物として見て下さい
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました
okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる