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贈呈
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新たな朝を迎え、朝日が野戦基地を温かい光で照らし始める。まだ日も登りきらない中、ユウトはとあるテントへと呼び出されていた。
工房守備隊の隊員に促されて入ったテントの中には工房長マレイとゴブリン殲滅ギルド副隊長レイノスの後姿がある。そのほかに数人の男と広く取られた空間を照らす魔術灯。そして中央にマレイとレイノスが見つめるとうてい一人では持てそうにない大きな木箱が鎮座していた。
「朝早くに悪いな、ユウト。一つ頼み事があってな」
入ってきたユウトの気配に気づいたのかマレイが振り返ってユウトに声を掛ける。
「大丈夫だ。それより何か問題で起こったのか?その木箱は?」
ユウトは二人に近づき蓋を取られた木箱の中身をのぞき込んだ。
「私達からの贈り物だな。これを受け取ってもらいたい」
マレイの言葉を聞きながらユウトが見た木箱の中には兜が見える。兜の下には布に包まれた何かで詰まっており、おそらく甲冑が一式揃っているだろうということがユウトは想像した。
露出した兜をまじまじとユウトは眺めて観察する。曲面は滑らかで白く、その色合いは隣に立つレイノスの甲冑に似ていた。ただその装飾は見るからにレイノスの物より手が込んでおり金色の金属で縁取りされている。そしてその兜には傷一つ、ほこり一つもなく全くの新品のようだった。
「・・・甲冑か。どうしてまたオレに?」
ユウトはいぶかしげにマレイに尋ねる。唐突な申し出に何か企んでいるように感じられたからだった。
「決戦では目立ってもらわなければいかないからな。決戦当日も今のまま、いつもの様相で挑むつもりだったろう?それでは地味すぎるし、心もとない。
だから頼み事というのはこの鎧を身に着け、戦ってもらいたい」
「うーん・・・わからなくもないが・・・これはどうやって用意したんだ?急ごしらえには見えない。箱には何か紋章まで載っているし、オレ用にあつらえた物じゃないんだろ?」
「そのとおりだ」
ユウトの質問に対してそれまで黙っていたレイノスが答える。
「この鎧はもともと王族からガラルドに対して贈られたものだ。ガラルドは一度もその鎧を身に着けることはなかったがな。式典でさへ身に着けなかった。
本人が言うには使い慣れないうえに拡張性が低く無駄な装飾が多いから、らしい。おかげで同じ時期に鎧を送られた私がいつも身に着けて王族の機嫌を取らねばならなくなってしまった」
レイノスの説明の最後の方はどこか愚痴っぽくユウトには聞こえた。
「そういうわけだ。せっかくの逸品だ。使わなければもったいないだろう?設計は私がわざわざやってやった物だ。性能は保証する。
まったく!私の逸品を無下にするとはな・・・」
マレイからもガラルドに対する愚痴のようなものがもれる。ユウトはふと話題に出たガラルドのことを思い出していた。
広場での決闘以降その姿をユウトが見ることはなく、ヨーレンからの話では未だ絶対安静の状態が続いているということを聞いている。少なくともゴブリンの殲滅というガラルドの願いを打ち砕いたという事実を小さい棘が刺さっているような感覚で思いだしていた。
「おいッ!ユウト!」
考え込んでしまっていたユウトはマレイの声で引き戻される。
「この鎧はガラルド用に作られたものだ。だから今からお前の身体に合うように調整する。わかったな!」
「あ、ああ」
ぐいっと間を詰めて言い寄るマレイに不意を突かれユウトはのけぞって後ずさって返事をした。
「よし!それじゃああとは頼んだぞ」
「はいっ!工房長」
マレイの掛け声に対して控えていた男たちが景気よく答える。
「ではあとは任せた」
「私も失礼する」
マレイとレイノスはそう言ってあっさりとその場を後にし、テントから出て行った。
ユウトの周りには男たちが取り囲む。
「それではユウト殿、今日一日で終えたい。急ぎご協力をお願いいたします。まずは採寸から行います。その後着用、調整と進みます」
「あーはい。わかったよ」
ユウトはいまだ釈然としない感情を抱えつつも抵抗することをあきらめ、男たちの仕事に協力することにした。
「レイノス、副隊長としてではなく、あんたはこのゴブリンが提案した最終決戦をどう思う?」
テントから出たマレイは共に出てきたレイノスに振り向き唐突に尋ねる。
「ふむ。そうだな。これも一つの決着の形として許容できるだろう」
レイノスはマレイを見ず朝焼けに染まる空を見上げて答えた。
「なかなか物わかりのいい、あっさりした回答だな」
「我々は長く戦いすぎた。管理された狭い土地に生きることに慣れ、以前の自由を忘れつつある」
どこか疲れたようなレイノスの独白に似た語り口をマレイは見上げながら聞き続ける。
「ゴブリンの数はここ数年で限りなく少なくなっていた。遠征をしてもゴブリンの痕跡すらっ確認できないこともあった。しかし殲滅、絶滅できた、という証は誰にも出せない。どこかに潜んでいるかもしれないという不安はいつまでもつきまとう。
だから一つのわかりやすい催し物として今回の決戦は良い機会だ。ギルドも中央もこの決戦が終われば宣言せずにはいられない。ゴブリンという疫病は収束したのだと、我々は打ち勝ったのだと、な」
「ゴブリンロードの言葉に嘘があったとしても、か」
「ガラルドならそのかすかな疑念さえも許さないだろう。だが人々はガラルドほど強くはなれない。どこかで線引きをしなければならない。うずくまることに慣れ切ってしまえば二度と立ち上がれなくなってしまうだろう」
レイノスはそこまで語ると黙り、マレイとの間に沈黙が流れた。
次第に日の高さは増し、人々の声、生活音が大きくなってくる。
「少し、喋りすぎたか。忘れてくれ。
私もマレイの策略を詮索しない」
そう言ってレイノスは上げた視線を落としてマレイを見下ろしてにやりと笑った。
「あははは。それは助かるな。まぁ期待しているといい。面白いことをしてやるからな」
そうして二人の会話は終了し、示し合わせたようにマレイとレイノスはお互い別方向へと歩みだした。
工房守備隊の隊員に促されて入ったテントの中には工房長マレイとゴブリン殲滅ギルド副隊長レイノスの後姿がある。そのほかに数人の男と広く取られた空間を照らす魔術灯。そして中央にマレイとレイノスが見つめるとうてい一人では持てそうにない大きな木箱が鎮座していた。
「朝早くに悪いな、ユウト。一つ頼み事があってな」
入ってきたユウトの気配に気づいたのかマレイが振り返ってユウトに声を掛ける。
「大丈夫だ。それより何か問題で起こったのか?その木箱は?」
ユウトは二人に近づき蓋を取られた木箱の中身をのぞき込んだ。
「私達からの贈り物だな。これを受け取ってもらいたい」
マレイの言葉を聞きながらユウトが見た木箱の中には兜が見える。兜の下には布に包まれた何かで詰まっており、おそらく甲冑が一式揃っているだろうということがユウトは想像した。
露出した兜をまじまじとユウトは眺めて観察する。曲面は滑らかで白く、その色合いは隣に立つレイノスの甲冑に似ていた。ただその装飾は見るからにレイノスの物より手が込んでおり金色の金属で縁取りされている。そしてその兜には傷一つ、ほこり一つもなく全くの新品のようだった。
「・・・甲冑か。どうしてまたオレに?」
ユウトはいぶかしげにマレイに尋ねる。唐突な申し出に何か企んでいるように感じられたからだった。
「決戦では目立ってもらわなければいかないからな。決戦当日も今のまま、いつもの様相で挑むつもりだったろう?それでは地味すぎるし、心もとない。
だから頼み事というのはこの鎧を身に着け、戦ってもらいたい」
「うーん・・・わからなくもないが・・・これはどうやって用意したんだ?急ごしらえには見えない。箱には何か紋章まで載っているし、オレ用にあつらえた物じゃないんだろ?」
「そのとおりだ」
ユウトの質問に対してそれまで黙っていたレイノスが答える。
「この鎧はもともと王族からガラルドに対して贈られたものだ。ガラルドは一度もその鎧を身に着けることはなかったがな。式典でさへ身に着けなかった。
本人が言うには使い慣れないうえに拡張性が低く無駄な装飾が多いから、らしい。おかげで同じ時期に鎧を送られた私がいつも身に着けて王族の機嫌を取らねばならなくなってしまった」
レイノスの説明の最後の方はどこか愚痴っぽくユウトには聞こえた。
「そういうわけだ。せっかくの逸品だ。使わなければもったいないだろう?設計は私がわざわざやってやった物だ。性能は保証する。
まったく!私の逸品を無下にするとはな・・・」
マレイからもガラルドに対する愚痴のようなものがもれる。ユウトはふと話題に出たガラルドのことを思い出していた。
広場での決闘以降その姿をユウトが見ることはなく、ヨーレンからの話では未だ絶対安静の状態が続いているということを聞いている。少なくともゴブリンの殲滅というガラルドの願いを打ち砕いたという事実を小さい棘が刺さっているような感覚で思いだしていた。
「おいッ!ユウト!」
考え込んでしまっていたユウトはマレイの声で引き戻される。
「この鎧はガラルド用に作られたものだ。だから今からお前の身体に合うように調整する。わかったな!」
「あ、ああ」
ぐいっと間を詰めて言い寄るマレイに不意を突かれユウトはのけぞって後ずさって返事をした。
「よし!それじゃああとは頼んだぞ」
「はいっ!工房長」
マレイの掛け声に対して控えていた男たちが景気よく答える。
「ではあとは任せた」
「私も失礼する」
マレイとレイノスはそう言ってあっさりとその場を後にし、テントから出て行った。
ユウトの周りには男たちが取り囲む。
「それではユウト殿、今日一日で終えたい。急ぎご協力をお願いいたします。まずは採寸から行います。その後着用、調整と進みます」
「あーはい。わかったよ」
ユウトはいまだ釈然としない感情を抱えつつも抵抗することをあきらめ、男たちの仕事に協力することにした。
「レイノス、副隊長としてではなく、あんたはこのゴブリンが提案した最終決戦をどう思う?」
テントから出たマレイは共に出てきたレイノスに振り向き唐突に尋ねる。
「ふむ。そうだな。これも一つの決着の形として許容できるだろう」
レイノスはマレイを見ず朝焼けに染まる空を見上げて答えた。
「なかなか物わかりのいい、あっさりした回答だな」
「我々は長く戦いすぎた。管理された狭い土地に生きることに慣れ、以前の自由を忘れつつある」
どこか疲れたようなレイノスの独白に似た語り口をマレイは見上げながら聞き続ける。
「ゴブリンの数はここ数年で限りなく少なくなっていた。遠征をしてもゴブリンの痕跡すらっ確認できないこともあった。しかし殲滅、絶滅できた、という証は誰にも出せない。どこかに潜んでいるかもしれないという不安はいつまでもつきまとう。
だから一つのわかりやすい催し物として今回の決戦は良い機会だ。ギルドも中央もこの決戦が終われば宣言せずにはいられない。ゴブリンという疫病は収束したのだと、我々は打ち勝ったのだと、な」
「ゴブリンロードの言葉に嘘があったとしても、か」
「ガラルドならそのかすかな疑念さえも許さないだろう。だが人々はガラルドほど強くはなれない。どこかで線引きをしなければならない。うずくまることに慣れ切ってしまえば二度と立ち上がれなくなってしまうだろう」
レイノスはそこまで語ると黙り、マレイとの間に沈黙が流れた。
次第に日の高さは増し、人々の声、生活音が大きくなってくる。
「少し、喋りすぎたか。忘れてくれ。
私もマレイの策略を詮索しない」
そう言ってレイノスは上げた視線を落としてマレイを見下ろしてにやりと笑った。
「あははは。それは助かるな。まぁ期待しているといい。面白いことをしてやるからな」
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