ゴブリンロード

水鳥天

文字の大きさ
168 / 213

晩餐

しおりを挟む
 夜を迎えた野営基地のテント群の一角の大型テント。その中でユウトとモリード、デイタスは黙々と食事をとっている。三人は三枚のパンに溢れんばかりの肉や生鮮野菜が挟まれたサンドイッチで口の中をいっぱいにしていた。

「ふーっ。もう腹いっぱいだ」

 一番早く食べ終わったユウトが満足げに口を開く。

「これは食いごたえがあった!ずいぶんと奮発したもんんだ。どの素材もかなり新鮮だったぞ」

 最後の一口を頬張り、飲み込んだデイタスが嬉しそうに言った。

「確かにこれまでも普通に新しい食材だったけど今日は特別豪勢だったな。食事場の雰囲気はどうだった?やっぱり盛り上がってたのか?」
「いや、そうでもなかった。静かなもんでな。これまでの賑やかな様子はない」
「そっか。もう明日が本番だからだろうな・・・」

 そう言いながらユウトは思いだす。鎧の最終調整を済ませ、モリードの仮設工房テントに戻ってくる間、野営基地の張り詰めた緊張感をひしひしと感じていた。

「デイタス、明日はハイゴブリン達の護衛をよろしく頼む」
「うむ、任せておけ。久々の戦場、武人としては胸が高鳴るものがある。必ず、役目を果たそう」

 デイタスは高揚としつつ、覚悟の定まった頼もしい笑い声とともに答える。仮工房の隅にはデイタス用に用意され、ユウトが魔力を補充した魔術武器の大剣とデイタス自前の鎧が並べられていた。

 そうしてユウトとデイタスが話している間にようやくモリードが食べ終わり、湯気立つお茶をぐいと飲んで一息つく。

「僕は明日までもうひと踏ん張りだな。他の部署の手伝いに行ってくるよ。もうこれ以上、大魔剣の調整がしようがないのは残念だけど」
「助かったよモリード。大魔剣は十分に仕上がってる。鎧との連携調整もやってもらって安定性は格段に良くなってる。安心して決戦に臨めるよ」

 モリードはユウトの言葉に満足げに頷いた。

 食事を終え、落ち着いたころ仮工房の入口を二人組がくぐってくる。

「失礼します。ここはモリードさんの工房で間違いありませんか?」

 二重になった入口の二つ目から声がかけられた。

「あ、ラーラか」
「はっはい。モリードですっ」

 モリードは緊張を隠せない固い声で慌てて返事を返す。その声に答えたように入口の垂れ幕をノエンが持ち上げ、ラーラが入ってきた。

「こんばんわ。ユウトもここにいたのね。ラトムは本当に役に立ってくれたわ」
「(無茶苦茶こき使われたっス・・・)」

 ラトムは声に出さずにユウトにぼそりと愚痴をこぼす。

「それはよかった」
「本当よ。できるならずっと一緒にいて欲しいくらい」
「(ひぇっ)」

 ラトムの声にならない動揺がユウトには聞こえた。

「残念だけど、ラトムは大事な仲間だからな。手放せないよ」
「あら残念」

 ユウトの返答を聞いてラトムはふうとユウトの肩の上でぴょんぴょんと小さく二回跳ねて緊張した身体の力を抜く。そんなラトムと反対にモリードは肩をがちがちにこわばらせて立ち上がり向かってくるラーラを待ち構えていた。

「モリード、進捗を教えて」

 ラーラはモリードの正面で立ち止まり温和な笑顔で尋ねる。

「ど、どうぞ。あちらに」

 強張った声と動作でモリードは安置された魔大剣の方へとラーラを案内してユウト達から離れていった。

「なんでモリードはあんなに緊張しているんだ。魔大剣は十分に仕上がっていただろ?」

 ユウトはモリードが精いっぱい魔大剣の説明をラーラに向かって行っているのを見ながら不思議そうにつぶやく。

「モリードさんに渡した資金はほぼ全て使い切っていたましたから、その経緯と成果の説明で緊張しているんでしょう」

 ユウトの疑問に答えてくれたのはラーラについていかずにユウト達のそばに立つノエンだった。

 ユウトは思わずノエンを見上げる。初めてノエンの声を聞いた気がした。

「なるほど。結構な額だったし、多少は後ろめたさがあるのかもしれない、か」

 ノエンを見上げながらユウトはにこやかに言葉を返す。よかったら座ってくれとデイタスが続けるとノエンは素直に椅子に腰かけ、さっそく話を切り出した。

「ユウトさん、実はお願いがあるのです。明日、僕も中央の警護として参戦させてもらえませんか?」
「えっ、オレとしてはありがたい・・・けど、中央で何を守るのか知ってるのか?」

 唐突な申し出にユウトは驚く。

「ハイゴブリン達ということはもちろん承知しています」

 躊躇なく答えるノエンにユウトは一瞬考え込んで口を開いた。

「ギルドも騎士団も護衛対象の詳細について知る者は少ないから人員は少ない。正直ありがたいけど、どうして?その理由を知っておきたい」

 ユウトは初めてノエンと言葉を交わしている現状を不思議に感じている。いつもラーラのそばに寄り添い、その身を守る寡黙な護衛の印象しかなかっためだった。

「余計なおせっかいだと思うがラーラ殿の護衛はいいのか?」

 一緒に話を聞くデイタスがユウトに続いて質問を重ねる。

「姉は明日、工房長の傍で事の始終を見届けるのでひとまず安心できます。そして参戦させてもらい理由ですが・・・ディゼル様と共に戦う機会が欲しいというよこしまなものです」
「ディゼルと知り合いなのか?」

 ユウトにとって全く関連づかなかった名前に呆気にとられた。

「ええ、まぁ。申し訳ありませんが、今は詳しくは話せません。姉との合意が必要ですし、この内容についても口外しないでもらえば助かります」

 ノエンの表情が強張っていることがユウトには見て取れる。

「ああ、わかった。戦力は一人でも多い方がいい。ノエンの実力はわからないけど、その役割を全力で臨んでくれるのなら不満はないよ。よろしくお願いする。ラーラとの合意もあるんでしょ?」
「ありがとうございます。姉の許可は取っています。足手まといにはなりません」

 そう答えてようやくノエンの緊張は解かれ、うっすらと笑顔が垣間見えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

聖女を追放した国は、私が祈らなくなった理由を最後まで知りませんでした

藤原遊
ファンタジー
この国では、人の悪意や欲望、嘘が積み重なると 土地を蝕む邪気となって現れる。 それを祈りによって浄化してきたのが、聖女である私だった。 派手な奇跡は起こらない。 けれど、私が祈るたびに国は荒廃を免れてきた。 ――その役目を、誰一人として理解しないまま。 奇跡が少なくなった。 役に立たない聖女はいらない。 そう言われ、私は静かに国を追放された。 もう、祈る理由はない。 邪気を生み出す原因に目を向けず、 後始末だけを押し付ける国を守る理由も。 聖女がいなくなった国で、 少しずつ異変が起こり始める。 けれど彼らは、最後まで気づかなかった。 私がなぜ祈らなくなったのかを。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生

西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。 彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。 精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。 晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。 死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。 「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」 晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。

才能に打ち砕かれた日から、僕の最強は始まった

雷覇
ファンタジー
ワノクニ、蒼神流・蒼月道場。 天城蒼真は幼き頃から剣を学び、努力を重ねてきた。 だがある日、異世界から来た「勇者」瀬名隼人との出会いが、すべてを変える。 鍛錬も経験もない隼人は、生まれながらの天才。 一目見ただけで蒼真と幼馴染の朱音の剣筋を見切り、打ち破った。 朱音は琴音の命で、隼人の旅に同行することを決意する。 悔しさを抱えた蒼真は、道場を後にする。 目指すは“修羅の山”――魔族が封印され、誰も生きて戻らぬ死地へと旅立つ。

知識スキルで異世界らいふ

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

『ミッドナイトマート 〜異世界コンビニ、ただいま営業中〜』

KAORUwithAI
ファンタジー
深夜0時——街角の小さなコンビニ「ミッドナイトマート」は、異世界と繋がる扉を開く。 日中は普通の客でにぎわう店も、深夜を回ると鎧を着た騎士、魔族の姫、ドラゴンの化身、空飛ぶ商人など、“この世界の住人ではない者たち”が静かにレジへと並び始める。 アルバイト店員・斉藤レンは、バイト先が異世界と繋がっていることに戸惑いながらも、今日もレジに立つ。 「袋いりますか?」「ポイントカードお持ちですか?」——そう、それは異世界相手でも変わらない日常業務。 貯まるのは「ミッドナイトポイントカード(通称ナイポ)」。 集まるのは、どこか訳ありで、ちょっと不器用な異世界の住人たち。 そして、商品一つひとつに込められる、ささやかで温かな物語。 これは、世界の境界を越えて心を繋ぐ、コンビニ接客ファンタジー。 今夜は、どんなお客様が来店されるのでしょう? ※異世界食堂や異世界居酒屋「のぶ」とは 似て非なる物として見て下さい

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

処理中です...