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心象
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息苦しい胸の圧迫。その感覚だけだった。その感覚は行きつく先にゆるやかな死を想像させる。そしてその想像は恐怖へと変わり、さらに胸を押しつぶそうとした。
循環し、重なってゆく。その様子を他人事のように見つめていた。いつか見た光景と、その行きつく先を知っている。
「いやだ」
言葉にならない思考の中で意識が叫んだ。
一度はあきらめたのかもしれない。だが二度目はないと感情が沸き立った。
そして感情は行動に移され、あるはずの四肢の指示を出す。指先よ動け、と意識を集中させた。
しかし反応がない。それでもあきらめることなく、試行は幾度となく繰り返し、続けられた。
その時、新たな感覚が生まれる。暖かさを感じた。その熱は左腕の断面から徐々に全身へと伝わってゆく。そしてその熱と共に流れ込んでくるものがあった。
夢のように浮かんでは消えてを繰り返す心象風景。そのどれもが腕を通して流れ込んでくる暖かさとは裏腹に悲哀の冷たさを感じさせた。
床に広がる人だった物体。遠ざかっていく男の後ろ姿。折られた剣。掲げられる首。煙をあげて激しく燃える館。あらぬ方向に曲がる脚。土砂降りの雨に打たれる街道。
そして気づけば息苦しさは消え、不安も霧が晴れるように消えていた。
ユウトは閉じたまぶたの上から光を感じる。そしてすぐ近くに子ども達のはしゃぎ声を聞いた。
ゆっくりと繰り返される呼吸と確かに動く指先、横たわる身体を意識してユウトは安堵する。そして重たいまぶたをうっすらと開いた。
まず最初に映るのはユウトを覗き込む四人の顔。ハイゴブリンの四姉妹だった。
「あっ!みてみてっ!」「ほら、やっぱり起きた」
「言った通りでしょ!セブル!」「早く・・・知らせないと」
騒がしく会話を繰り広げた姉妹たちはユウトが声を掛けようとするのも気づかず慌てるようにして視界から姿を消す。残されたユウトの視界にはテントの天幕が映った。その視線を遮るようにして今度は黒い塊が覗いてくる。それは瑠璃色した二つの瞳でユウトを見下ろした。
そして次第に形を変えて女の子の姿になると、潤んだ瞳から水滴がこぼれ落ち、ユウトのほほを濡らす。何も言わずにユウトの胸に顔をうずめ、握りしめた両手を震わせた。
「ごめんな、セブル。心配かけて」
そう言ってユウトは左腕を持ち上げると、うずくまったセブルの頭へ静かに手を置く。セブルの身体は横たわるユウトの胸に重さを伝えるがユウトは息苦しさを感じなかった。
しばらくして姉妹たちのはしゃぐ声が近づいてくる。ほどなくしてテントの垂れ幕を持ち上げて、リナが顔を出した。その時にはセブルはいつものネコテンの姿へと戻っている。
「あぁ、本当に起きたみたいね。ほっとしたわ。調子はどう?違和感はない?」
リナは息を付きながらテントへ入ってくる。とユウトが寝ている寝台の横に膝をついて座った。
「うん。身体がなまってるというかだるいけど、痛みとかはないかな。全身の感覚もある」
ユウトは横になったまま首を動かしてリナを見る。リナの背中越しには四姉妹が顔をのぞかせていた。
「それならとりあえず大丈夫そうね。知らせをやったからヨーレンがもうすぐ来るはずよ」
「わかった。あれから何日くらい経った?」
「あの戦いから七日経ったわ」
「そんなに?うーん・・・なら、だいぶ周りに迷惑を掛けてしまったんだろうな」
ユウトは一日か二日、長くても三日程と思っていたがそれ以上の日数に驚き、その間の自身の世話をしてくれた者に対して申し訳なさを感じる。
「気にしなくていいわ。あの戦いでもっとも危険な役割を担ったのはユウトさんなのだから。少なくとも、ユウトさんの行動はみんな理解してくれているはずよ。レナはちょっと拗ねてたけど。
あー・・・あと、工房長の様子は控えめに言って怒ってたかな」
リナは少し困ったような笑顔で答えた。
「ははっ・・・覚悟しとくよ」
ユウトも軽く自嘲したような微笑みで返すと、先のことが少し思いやられる。
「身体は起こせる?起きれたのなら少し水を飲んで」
「うん。ああ、なんとか起こせそうだ」
ユウトは手をついて慎重に身体を起こした。
セブルがすかさずユウトの浮いた背中に身体を滑り込ませ支える。リナは一度立ってテントの中に置いてある瓶から器に水を汲んできてユウトに差し出した。
ユウトはリナに器を支えてもらいながら少しづつ水を飲む。水を口にして始めてのどが渇いていたのだと自覚した。
「そのくらいでいいかな。間を置きながらゆっくり飲んでね」
「うん。おいしかったよ。ありがとう」
「それはよかったわ。毎日レナが取り替えてくれてたからお礼を言ってあげて」
「そっか、わかった」
ユウトはもう一度器に口をつける。口の中を湿らすように含んだ水は身体の内側をたどって全身を潤していくように感じた。
ほっと一息付いたユウトは何かに気づく。遠く誰かの声が聞こえてくるような気がしてテントの中を見渡した。
それは四姉妹も同じだったようできょろきょろと見渡す。そして全員がレナの背中から離れテントの外へと出ていった。
循環し、重なってゆく。その様子を他人事のように見つめていた。いつか見た光景と、その行きつく先を知っている。
「いやだ」
言葉にならない思考の中で意識が叫んだ。
一度はあきらめたのかもしれない。だが二度目はないと感情が沸き立った。
そして感情は行動に移され、あるはずの四肢の指示を出す。指先よ動け、と意識を集中させた。
しかし反応がない。それでもあきらめることなく、試行は幾度となく繰り返し、続けられた。
その時、新たな感覚が生まれる。暖かさを感じた。その熱は左腕の断面から徐々に全身へと伝わってゆく。そしてその熱と共に流れ込んでくるものがあった。
夢のように浮かんでは消えてを繰り返す心象風景。そのどれもが腕を通して流れ込んでくる暖かさとは裏腹に悲哀の冷たさを感じさせた。
床に広がる人だった物体。遠ざかっていく男の後ろ姿。折られた剣。掲げられる首。煙をあげて激しく燃える館。あらぬ方向に曲がる脚。土砂降りの雨に打たれる街道。
そして気づけば息苦しさは消え、不安も霧が晴れるように消えていた。
ユウトは閉じたまぶたの上から光を感じる。そしてすぐ近くに子ども達のはしゃぎ声を聞いた。
ゆっくりと繰り返される呼吸と確かに動く指先、横たわる身体を意識してユウトは安堵する。そして重たいまぶたをうっすらと開いた。
まず最初に映るのはユウトを覗き込む四人の顔。ハイゴブリンの四姉妹だった。
「あっ!みてみてっ!」「ほら、やっぱり起きた」
「言った通りでしょ!セブル!」「早く・・・知らせないと」
騒がしく会話を繰り広げた姉妹たちはユウトが声を掛けようとするのも気づかず慌てるようにして視界から姿を消す。残されたユウトの視界にはテントの天幕が映った。その視線を遮るようにして今度は黒い塊が覗いてくる。それは瑠璃色した二つの瞳でユウトを見下ろした。
そして次第に形を変えて女の子の姿になると、潤んだ瞳から水滴がこぼれ落ち、ユウトのほほを濡らす。何も言わずにユウトの胸に顔をうずめ、握りしめた両手を震わせた。
「ごめんな、セブル。心配かけて」
そう言ってユウトは左腕を持ち上げると、うずくまったセブルの頭へ静かに手を置く。セブルの身体は横たわるユウトの胸に重さを伝えるがユウトは息苦しさを感じなかった。
しばらくして姉妹たちのはしゃぐ声が近づいてくる。ほどなくしてテントの垂れ幕を持ち上げて、リナが顔を出した。その時にはセブルはいつものネコテンの姿へと戻っている。
「あぁ、本当に起きたみたいね。ほっとしたわ。調子はどう?違和感はない?」
リナは息を付きながらテントへ入ってくる。とユウトが寝ている寝台の横に膝をついて座った。
「うん。身体がなまってるというかだるいけど、痛みとかはないかな。全身の感覚もある」
ユウトは横になったまま首を動かしてリナを見る。リナの背中越しには四姉妹が顔をのぞかせていた。
「それならとりあえず大丈夫そうね。知らせをやったからヨーレンがもうすぐ来るはずよ」
「わかった。あれから何日くらい経った?」
「あの戦いから七日経ったわ」
「そんなに?うーん・・・なら、だいぶ周りに迷惑を掛けてしまったんだろうな」
ユウトは一日か二日、長くても三日程と思っていたがそれ以上の日数に驚き、その間の自身の世話をしてくれた者に対して申し訳なさを感じる。
「気にしなくていいわ。あの戦いでもっとも危険な役割を担ったのはユウトさんなのだから。少なくとも、ユウトさんの行動はみんな理解してくれているはずよ。レナはちょっと拗ねてたけど。
あー・・・あと、工房長の様子は控えめに言って怒ってたかな」
リナは少し困ったような笑顔で答えた。
「ははっ・・・覚悟しとくよ」
ユウトも軽く自嘲したような微笑みで返すと、先のことが少し思いやられる。
「身体は起こせる?起きれたのなら少し水を飲んで」
「うん。ああ、なんとか起こせそうだ」
ユウトは手をついて慎重に身体を起こした。
セブルがすかさずユウトの浮いた背中に身体を滑り込ませ支える。リナは一度立ってテントの中に置いてある瓶から器に水を汲んできてユウトに差し出した。
ユウトはリナに器を支えてもらいながら少しづつ水を飲む。水を口にして始めてのどが渇いていたのだと自覚した。
「そのくらいでいいかな。間を置きながらゆっくり飲んでね」
「うん。おいしかったよ。ありがとう」
「それはよかったわ。毎日レナが取り替えてくれてたからお礼を言ってあげて」
「そっか、わかった」
ユウトはもう一度器に口をつける。口の中を湿らすように含んだ水は身体の内側をたどって全身を潤していくように感じた。
ほっと一息付いたユウトは何かに気づく。遠く誰かの声が聞こえてくるような気がしてテントの中を見渡した。
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