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第1章 白の世界

第7話 一つの終わりと始まりの予感

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過去の世界に転移し、俺が『カズヤ』ではなく『ルナウス』として生きたように、『リア』は『セレナ』として生きた。目の前の金髪美女は『セレナ』にならなかった『リア』、別の可能性――『カズヤ』が守り通せず過酷な運命を辿った『リア』の内の一人、まとめるとこういうことだろう。

「願いが叶ったと分かった今、これから・・・その、どうするつもりなんだ?」

落ち着いたころを見計らい今後について切りだすことにした。これは確認だ。内容次第で俺達の今後の方針も変わる。それぐらいやってのける切り札の一枚や二枚はまだある。

「そう・・・ですね。これまでと同じ、見守ることにします。」
「それはまた、別の可能性に干渉し続けるということか?」
「ええ・・・、『ルナウス』と『セレナ』はイレギュラーですから。」
「やはりそうなるか。」
「『えっ。』」

二人の驚愕の声が重なる。最もその理由は異なっているだろうが本題に移ることにした。手元に手札は揃っている。

「九千九百九十九人目の『ルナウス』は上手くいったのに、一万人目の『カズヤ』は上手くいかなかった。それはこれからも、ということだ。数百年後の世界は何も変わらない。君の戦いは終わらない、そういうことだろう?」
『カズヤ・・・。あなた、もしかして・・・。』
「察しがよくて助かる。その数百年後の世界に乗り込んで運命とやらを覆す!“時の墓場“に君をいつまでもいさせておくわけにはいかないからな。」
「あなた・・・何を・・・、それに“時の墓場“のことまで・・・どうして・・・。」
「それなりの付き合いだからな。何となく気がついた。失敗した『俺』がいた世界は消えるのだろう?だからここに辿りつく・・・。違うか?」
「そうよ・・・。その通りよ。」

観念したのか両手を挙げて彼女は答える。種明かしに開き直ったのか落ち着きを取り戻したようだ。

「けど、未来の世界に飛んで運命を変えるなんて・・・本気?それにこの後、あなたは死ぬのよ。分かっているの?そんなの不可能よ。」

その台詞に俺は揺るぎない意思をもって宣言することにした。

「ならばその不可能・・・。俺が叩き斬る!俺は、俺たちは死なない。セレナが傍にいてくれる。そのことが俺に奇跡を起こす力をくれるんだ。」

「ちょっ・・・ちょっと、あなたも黙ってないで何か言って!大丈夫なの?こんなこと言ってるけど、あなたはそれでいいの?」

取り戻した調子が再度崩れ、砕けた口調で小さい彼女に視線を向ける。(少し前から砕けた気もするが・・・。)その視線は『このバカ何とかして』と言いたげだ。

『こうなったらテコでも動かないし、わたしも同じ考えだから・・・、うん、大丈夫!』

小さなガッツポーズがこれまた可愛らしい。

『ここにもバカがいた。』という顔で金髪美人は呆れてみせた後、コホンと咳払いをし姿勢を正して話始める。

「元の場所に戻ったら、あなた達は封鎖結界の中。誰に邪魔されるわけでもなく二人で幸せに暮らせるはずです。それも放棄するのですか?」
「その提案は魅力的だけど、気になることがあるからな・・・。」

俺の気がかりの正体。それはセレナがクリスタル化された際に聞いた奴の言葉。

『来世もその次もどんな世界でも生まれ変わる度に蹂躙して辱めて何もかも奪ってア・ゲ・ル。幸せなんて感じさせてあげない。絶対!絶ッ対に。』

「ここで止まるわけにはいかない。奴の思い通りにさせるわけにはいかない。これは俺の戦いでもあるからな。」
『もちろん、わたしも行くよ。だから『俺の』って一人でやろうとしないで!』
「そう・・・だよな。わかった。済まない。一緒に行こう!」
『うん!』
「わかりました。もう止めはしません。私はここであなた達を見守るようにします。」

溜息を吐きながらも金髪美女は最後にはそう答えてくれた。正直、見守ってくれるだけでも心強い。
別れの挨拶を済ませ転移の準備に入るところで、俺は呼びとめられた。

「ちょっ・・・あの、少しだけいいですか?」
「うん?・・・。どうかしたのか?」
少々、遠慮がちに声をかけてくる彼女。緊張しているのか目元は潤み、唇は若干震えている。
年上美女の上目づかいに少しばかりドキリとしていると、妖精な彼女に睨まれた。視線が痛い。

「最後に・・・、私のことを『リア』と呼んでくれませんか?迷惑なら無理にとは・・・。」

「リア」

彼女が――リアが言い終わる前に俺は望みを叶えることにした。

「あ・・・、はい、・・・はい!」
「行ってくるよ・・・リア。」
「はい!いってらっしゃい。カズヤ・・・」

頬は赤く染まりリアの瞳から一筋の雫が流れた。互いの顔が近付き見つめあうと・・・、

『き・・・キスはダメぇぇー!』と響き渡り、思わず笑みが零れるのだった。
むくれたセレナの機嫌を直すのに苦労したことは言うまでもない。

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