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第4章 覚醒~受け継ぎし想い

第25話 受け継ぎし想い~僕の願ったもの

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一人で二体相手に善戦する彼女を見つめながら、自らも参戦すべく立ち上がる。“土”の精霊、カブトムシの姿をしたクレスは俺の肩に乗り準備が出来ていることを示す。

「精霊闘衣“土”、頼むぞクレス!素材も使いたいものがあれば好きに使っていい!」

初のクレスとの精霊闘衣、通常はもっと長く時を過ごし交流を深め、確かな絆を築き上げてから行うべき術。もっとも過去の激戦を潜り抜けた俺にとっては全くの異例には当てはまらない。この位の危機や修羅場は潜り抜けている。問題はない。

リアのように媒介となる鎧を特に準備しているわけではない。俺の精霊闘衣のデザインは全てほぼ同じ、精霊の属性によって色や細部の調整は加える必要があるが、大枠はできている。心配はない。
俺の意識とクレスの意識が共鳴する。俺が描く精霊闘衣の姿、それは――――。

『・・・は・・・った』

なんだろうこの感覚は、いつもと様子が違う。

『僕は・・・った』

“僕”?これは一体・・・、その声の意志を聞き取ろうと五感を集中させる。声が聞こえる。
『僕はなりたかった』
『何に?』
『守れる者になりたかった。僕は守れなかったから、その土俵に立つこともできなかったから』
『何を、誰を?』
『僕の憧れの一人の女の子、君も良く知る子』
『お前は何を望む?』
『一人の女の子を守ることができる力が欲しい。守れる者になりたい!言っただろ?』
『彼女の騎士になりたいのか?それがお前の望む守る者の姿か?』
『違う。“騎士”でもましてや“勇者”でもない・・・、格好つけても彼女は守れない。』
『最初から素直に言えばいい。では、改めて聞く!お前は何を望む?』
『どんな危機や逆境にも負けない強さが欲しい。例え傷つき倒れても、何度でもあきらめずに立ち上がる・・・、格好悪くたっていい、泥臭くたって構わない!』

そうだ。その想いが力になる。精霊闘衣は応えてくれる。

『僕はリアのヒーローになりたい!』

『だったら、なればいい』
『無理だよ、不可能だ・・・、だって僕は・・・・』
『そんなことはない。あの時も言ったはずだ』
『あ!?』

『『ぼくの遺志はおれが継ぐ。その不可能、俺が・・・俺達が叩き斬る!』』

なんだ、分かっているじゃないか。“俺”も“僕”も“カズヤ“だ。僕の願いは俺の願い。俺たちは一つだ!


☆★☆

カズヤの助言を受けて行動を開始するリア。上空から構え魔力弾で足止めしてから魔法の準備に入る。

「射貫け!フレア・アロー! 行って!シャイニング・アロー!」

着弾と同時に撒きあがる噴煙に紛れ急降下、旋回、加速し煙越しに上空を警戒する敵の側面を狙う。

「集中・・・すること!貫いて・・・フレイム・ランス!」

左腕を前に突き出し二本の炎の槍を一本ずつ赤と緑の敵に見舞う。
それぞれ右肩、左肩に直撃し重たい威力に身をたじろがせるも、「無駄だ。」と言いたげに睨み返す。」

「まだよ!シャイニング・ブレイド!」

フレイム・ランスの勢いが残る部位を突き刺し刃が通ると一気に切り裂いた。
「グッガッァァァ!」と雄たけびを上げるがもう遅い。二体の肩口から切り裂かれた腕は宙を舞っている。チャンスとばかりにリアは更なる追撃に移り始める。


「ここで一気に・・・、フレイム・バインド!」

虚空に魔法陣が浮かび上がり炎の鎖が二体を絡め宙に拘束。彼らに抵抗の術はない敗北へのカウントダウンが始まる。

「シャイニング・フェニックス!」

魂の奥底から光が溢れだし彼女を包み込むと神鳥かみどりの姿を形作る。眼前の敵を撃ち滅ぼしても余りある高エネルギーが暴れ狂うように彼女の体内を駆け巡る。

『あ、熱い・・・、体がバラバラになりそう・・・、でもこれだけの力なら勝てる!』

空中に拘束されし標的に狙いを定め翼を羽ばたかせ飛翔すると光の粒子をまき散らしながら急加速して肉薄する。まもなく決着の時を迎える。

「うっぅ、いっ、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

接触を迎える寸前、目的を叶えることなく、彼女の悲鳴とともに光の鳥は消え去った。翼を失いそのまま地面にその細身を叩きつけることになる。
耐えきれず呻きを漏らすが体を動かすことができない。うつ伏せのまま、『どうして?』という思考でいっぱいになる。

『技の威力に体が耐えられなかったのよ。』
パートナーの精霊、緋凰が心に語りかける。
『ごめんなさい。私も気付くべきでした。』
精一杯に申し訳なさを口にするが、その言葉は空しく宙をさ迷った。

カズヤの心配が的中した。リアは優れた目と学習能力で技を見切り、自分に適しているものであれば己の技とし、驚くべきスピードで急成長を遂げている。その力はカズヤと再会する前と比べて段違いと言っても過言ではない。
だが、欠点もあった。忠実に技を再現することができても、一から自身の手で築き上げたわけではない。修得過程をいくつも飛び越えて身につけている。実戦使用の経験も浅ければ、技の本質や欠点を知る機会もなかった。
今、彼女が放とうとした技は、カズヤ程の強靭な肉体がなければ使用できない技であった。
結局、技の本質を知り得ないまま使用し自滅する格好となった。敗北のカウントダウンが刻まれていたのは彼女の方だった。

炎の鎖の戒めから解放された二体は互いと未だ地面にうつ伏せに横たわる彼女を見比べると笑みを浮かべる。長い舌をチョロチョロと出すと涎が滴る。
彼らは理解したのだ。先程、自分達の命を刈り取る寸前にまで追い詰めた者に、今はその戦闘力が無いことを。立場が逆転し今は自分達が狩る立場だと。
ゆっくり、ゆっくりと獲物に近付いて行く。暴力をふるう喜びに振えたかのように尾が揺れる。
銀色の剣士が見当たらない以上、彼らに与えられた任務の最優先事項は先程まで命のやり取りをし、今はその力を無くした彼女を生け捕りとすることだ。
いつしか背が割れ金属製の拘束用アームや器具が出現する。もっとも彼らにその任務を済ませるだけで終わらせる気は失せていた。散々痛めつけられた礼を返してから連れていく方向に切り替わっている。愉悦に浸る笑いが止まらない。

ギュィィィィィィン!

「「グル?」」

全てを切り裂くような、機械が高速で回転する音が響き、赤と緑は互いを見比べ自分達の者ではないことを確認するが・・・。

手遅れだった。

「え?・・・、ド、ドリル!?」

辛うじて意識を保ち見上げたリアの瞳に映ったものは、呟き通り゛ドリル”だった。
どこからか飛来し、緑のリザードマンの焼けただれた顔に直撃、その重厚な体を吹き飛ばしている。ギリギリと高速回転したそれは鱗の一部をえぐり取った。
何事かともう一体の赤い魔物が飛来してきた方を見回すが、それも見当違いだ。

「スパイラルゥッ・ブレードゥォ・キィーーークッ!!」

その声は上からだ。もっとも気付くころには手遅れだ。軸足を中心に光の刃がドリルのように高速回転し流星の如く胸部を貫き爆発。残された下半身は火花をあげドサリと地面に倒れ込む。

こんな非常識をやってのける人物は一人しかいない。

「か、カズヤ君?」
「立てるか?」
「えっ、ええ・・・。何とか立つくらいなら・・・。」
横たわる彼女の手を取り、その身を支えながら立ち起こす。お化けでも見たような顔をしながらも回復魔法をその身に施し、一番の疑問点を口にした。

「カズヤ君、その格好、何?」

三本の刃を宿したヘッドギアがヘルメット状の兜にどうやら変形しているようだ。目元には例の青い色をしたアナライズ・アイに加え顔が分からないように、恐らく開閉可能と思われるマスクが装着されている。装備についても鎧というよりナノスキン装甲みたいで、その姿はまるで・・・。

「なんだか・・・、特撮ヒーローみたいだね」
「精霊闘衣を生み出す時に、“リアのヒーローになりたい”って念じたらこうなった」
「カズヤ君、そういうの大好きよね・・・、そういえば、クレスちゃんも変身道具のオモチャにそっくりなのよ!昔、よくそれで『変身!』ってカズヤ君、遊んでたもの」

黒歴史をさりげなく暴かれながらも記憶にない俺は特に恥ずかしがるわけでもなく、「そうだったのか」と一人、納得する。クレスも頷いている。どうやら、玩具に込められた願いが精霊化したとでもいうのか、我ながら驚きだ。

「リア、緑のトカゲが立ち上がる。最後は一緒に決めよう!」
「ええ。」

「月輪・閃光剣!」 「日輪・烈光剣!」

「人の・・・、」
「って、カズヤ君、それもやるの?」
「当然だ!」

わかりました、と彼女が折れたのを確認し気を取り直してやり直す。

「「人の迷惑を顧みず、俺達(私達)のデートを邪魔したその所業・・・、」」
「俺達は!」 「私達は!」
「「許さない!」」

「我掲げる、闇を切り裂く光のつるぎ、来い“シャイニング・ブレイド!」

二人で目配せすると同時に地を駆け、敗れるのを待つだけの哀れな者に急加速し接近する。ちゃっかりドリルを撃った時に地属性魔法で足を固めているので、逃れることは不可能だ。

「これで終わりだ(よ)!!」

太陽と月からなるXの残光が浮かぶと、バラバラと崩れ夢想獣は爆発する。
それにしてもリア、しぶった割にはバッチリじゃないか!

戦闘が終結し静けさが辺りに立ち込める。
勝利したはずにも関わらずその余韻は感じられない。
その静寂さが不気味さを醸し出し、まだ何も終わっていないことを二人に告げているかのよう・・・。

「敵を倒したのに結界から出られないのかな?」
「いや、どうもまだ終わってくれないようだ。このまま引き下がるかと思ったがそうでもないらしい。」

ズシン、ズシンと大地を震わせ元凶が近づいてくる。
ここからが本番だ!



















































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