上 下
4 / 102
第一章 前編

第3話 母からの贈り物

しおりを挟む
 私は掲示板の記事を読もうと人を掻き分け進もうとするも、人の多さにどうしても押し返されてしまった。
 私は諦め、隣の通りを賑わしていた大道芸の人達の元へ行ってみた。
 人は集まっていたが、掲示板の群がりに比べると少し寂しいものがある。さっきお姉さんが言っていたタイミングが悪いとは、このことだったんだと気が付いた。

 「ジョセちゃん頑張って」
 さっきのお姉さんだ。体型はすらっとしてて足も長くスタイルは抜群。背中まで伸びた髪を後ろで三編みに纏めている。藍色のスカートに服は黒色で胸元がメッシュ状になっていて大人の色気をかもしだしていた。

 「姉貴に言われなくても」
 お姉さんからジョセと呼ばれた子はお姉さんとは対照的で、ショートヘアで肌が健康的な褐色でボーイッシュな子だった。年は私とあまり変わらなそうで、上は黒のタンクトップに、下はデニム生地のショートパンツに黒タイツをはいている。髪色は黒で赤い瞳が印象的だ。

 「よし決めるぞ」
 ジョセさんの手には4本のナイフが握られていた。目の前には的が4つあり中心には赤いマーカーで記されている。
 観衆が見守る中、ジョセさんがナイフを投げ入れた。ジョセさんは間髪入れずナイフを次々と的へ投げ込んだ。
 ナイフは面白いように的の中心へと突き刺さり、観衆は大いに歓声を上げた。
 ジョセさんは観衆に手を振り、観客からは次々とお金が投げ込まれた。

 「どうも、どうもみんなありがとう」

 成功して良かった。私は彼らの成功を見届けその場をあとにしようとしたその時だった。

 「あんたちょっと待ちな」
ジョセさんが私を引き止め、私は振り返った。

 「あんた、私達のショーをただ見するつもり?観賞したんならお金おいてきな」

 「あの私お金持ってないのですみません」
 私はそう言うと逃げるようにその場から立ち去った。

 「おいてめー待てよ」
 
 彼女達が追ってくることはなかったけど、ちょっと怖い思いをしてしまった。

 後は待ちに待った山菜取りであったが、どうも気分がのらない。いやそんな事よりあの竜のことが頭に引っ掛かる。
 私はどこかであの竜を見たことがあるのだろうか、考えをめぐらすがそんな記憶はどこにもない。
 しかしそんな中で昔、家の書庫で竜にまつわる本を見たことがある事を思い出した。
 私は早々に山菜とりを済ませ、自宅へ大急ぎでかけていった。

 「ただいまー」

 「あら早かったじゃない?」
 部屋の奥からお母さんの声が聞こえた。

 「ここ、置いとくね」
 私はお母さんに顔をあわすことなくリビングのテーブルにカゴを置いた。

 「アサ?」
 お母さんがリビングを覗きに来たときには私はもう書庫へ足を走らせていた。

 書庫についたが何せ何年も入ってないような場所だ。ほこりや、くもの巣などホラーの世界がひらがっていた。何百冊と棚に並んだ本から、竜の本を探しだす。
 背広のタイトルとにらめっこして30分ようやく竜の本を発見した。
 相当古いようで擦れてタイトルも読み取れないが龍の文字だけは確認することができた。
 中身を開いてみると竜の絵と共に説明や歴史がしるされていた。その中の竜の一つがタンパで見た写真のものと酷似していた。
 そのあと私は時を忘れて食い入るようにその本に没頭した。全てに目を通して最後のページに差し掛かった時そこにメッセージが記されていた。

 私の最愛の娘にこれを贈る。これはあなたの証であり先祖の証である。
アサ。

 「これ私へのメッセージだわ。お母さんが?」
 そしてその本にはすみにくぼみがあり、キラキラ光る宝石のような物がある。
 手に取るとそれはイヤリングのようなものだった。文章はその先も続いているようだったが、この意味が気になったので私は書庫を出てこのことをお母さんに聞いてみた。

 「そんなものあった?」
 お母さんは知らないようだった。

 「ううんなんでもないの、気にしないで」 
 その晩、私は書庫の本を自分の部屋持ってきてしまった。なんだがお母さんに見られてはいけないような気がしたから。
しおりを挟む

処理中です...