夜霧の怪談短編集

夜霧の筆跡

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第十五話 魂の塊

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これは、とある心霊スポットのお話です。
詳しい場所については勘弁してください、本当に危ない場所なんです。

私も近くまでしか行ったことはありません。
というのも、その場所は『そこに行って幽霊を目撃すると死ぬ』と言われているんです。

そんなウワサ、知っていればよっぽどのもの好きでもなければ行ったりしませんよね。
でも、知らなければ……?
そう、ウワサを知らなかったばかりに心霊スポットのいわくに巻き込まれてしまった人のお話なんです。





最初にそこに行ったのは『勇ちゃん』でした。
勇ちゃんは男子中学生ですが『美優ちゃん』『麻衣ちゃん』という女子の幼なじみが二人いました。

中学生くらいになると男女で一緒に遊ぶことはだんだんと少なくなっていくものですよね。
勇ちゃんもそうでした。
小学生までは美優ちゃん麻衣ちゃんとよく一緒に遊んでいましたが、中学にあがってから別行動が増えたそうです。

ある朝のホームルームで担任の先生の口から

『勇ちゃんが突然亡くなった』

と知らされました。

美優ちゃんと麻衣ちゃんはとてもショックを受けました。
男子と一緒に遊んで周りからからかわれるのがイヤで、なんとなく距離を置いていたことを後悔しました。

「こんなことなら、周りの目なんか気にせずにもっと一緒に遊べばよかった」

二人でそう語り合いながら静かに泣きました。





そんな風に沈んだ気持ちで過ごした数日。
その後に、こんなウワサを耳にするようになりました。

『とある場所で、勇ちゃんの幽霊が目撃されるようになった』

美優ちゃんと麻衣ちゃんはもちろん、その場所に行くことにしました。

最初にも言ったとおり、その場所については詳しく語るつもりはありません。
そりゃ、よっぽどのもの好きじゃなければわざわざ行かないとは思いますが……
積極的に他人の心霊体験談を聞きたがる人が『よっぽどのもの好きではない』なんて保証ありませんからね。

心霊スポットであることを知らずに来てしまうようなことはありえない、何もない場所。
地元の人ですらまず近寄らない、辺ぴな場所です。

美優ちゃんと麻衣ちゃんは知らなかったんです、そこが心霊スポットとしてウワサされている場所だなんて。
だから、勇ちゃんの幽霊が出るって話を聞いて、幽霊でもいいから一目会いたいと思って行ってしまったんです。





確かに勇ちゃんの幽霊が出ました。
でも、美優ちゃんと麻衣ちゃんへのリアクションはありませんでした。

『幽霊と生きている人間は存在する次元が違うので、意思疎通はできない』

と聞いたことがあります。
見えたとしても、幽霊はそこに見えるだけの映像のようなもの。

『霊感の強い人なら、その次元の違いを超えて意思疎通ができるケースもある』

そうですが…… 美優ちゃんも麻衣ちゃんも、そうではなかった。
勇ちゃんの姿を見ることしかできなかったんです。

それでも、二人は必死に勇ちゃんに話しかけました。
返事がないことはわかっていても、声をかけずにはいられなかったんですね。

毎日、毎日、通い続けました。





そうしているうちに、二人はあることが気になり始めました。

(勇ちゃんはどうして幽霊になってここに現れるのかな)

通い続けるうち、とっくに勇ちゃんが亡くなってから49日は過ぎています。

「幽霊って成仏できない魂がこの世に留まってるんだよね」

「勇ちゃん、成仏できないのかな」

そうして、美優ちゃんと麻衣ちゃんは勇ちゃんが成仏できない原因と、成仏させてあげる方法を探すことにしました。まずは……

「勇ちゃんってなんで死んじゃったのかな? 先生、理由は言ってなかったよね」

「おうちの人には…… 聞けないよね、さすがに。先生に聞いてみよう」

二人は次の日、早速担任の先生に尋ねることにしました。

「どうしてそんなことを? 人の死を興味本位で掘り返すものではありません」

そうたしなめられてしまいましたが、二人も引き下がりません。

「先生、私達興味本位なんかじゃないんです。
勇ちゃんとは親友同士でした。
だけど…… 勇ちゃんの幽霊が出るってウワサを聞いて……
もしかして、成仏できないんじゃないかって心配なんです」

そう訴える美優ちゃんに、先生はこう答えました。

「そう、でも…… ごめんなさいね。
ご遺族……勇くんのおうちの人の許可なく、先生が勝手に人に話すわけにはいかないんです。
だからといって、勇くんのおうちにおしかけたりしてはいけませんよ」

二人はがっくりと肩を落として職員室を後にしました。





廊下の奥からその様子を見ていた同級生がいました。

「あのさ。勇の死因知りたいんだって? 誰にも言わないなら教えてやるよ」

そう切り出したのは、二人の同級生。
勇ちゃんが中学に上がってからよく一緒に行動をしていた男子でした。

「言わない、教えて!」

二人はその男子に詰め寄ります。

「ほんとに絶対、絶対誰にも言うなよ。
……自殺なんだって。部屋で首釣ったって。
母ちゃんと父ちゃんが話してるの、聞こえちゃったんだ」

「え……」

美優ちゃんと麻衣ちゃんはその言葉を聞いた瞬間、頭が真っ白になりました。

「自殺したら成仏できないってよく言うじゃん。
だから俺も心配で…… さっきのお前たちの話聞いたら黙ってられなくてさ」

そう言い残して、その男子はその場を去りました。
二人はしばらくその場から動けませんでした。

『勇ちゃんが自殺してしまった』

という事実。それは、想像すらしていなかったことでした。
二人はその事実を受け入れることができず、呆然としていました。
しばらくして、美優ちゃんがぽつりと言い出しました。

「自殺したら成仏できないって言ってたね……
だからなの? 勇ちゃんが幽霊になってるのは」

麻衣ちゃんも確かめるように頷き、二人は顔を見合わせました。

「探そう。自殺した人が成仏する方法」





二人はすぐに行動を開始。
とはいえ、何からどうすればいいのかまるで見当もつきませんでした。

まず思いついたのが、学校の図書室。
それから二人は放課後毎日図書室に通うことにしたのです。
心霊、魂、宗教、関連しそうな本はなんでも流し読みしました。

いままでほとんど図書室を利用したことのなかった生徒が、突然毎日通うようになったのです。
二人の存在はいずれ図書委員会の間でウワサの的になりました。
そこで声をかけてきたのが、同じクラスの図書委員の生徒です。

「ね、二人とも急に図書室来るようになったけど、どうしたの?
何か調べ物? 図書委員のPCで探してあげよっか?」

ありがたい申し出ではあるものの……
二人はどう説明していいのか、戸惑いました。

「えと…… その、人は死んだら…… どうなるのか、な、って」

「あ…… そか……」

図書委員の生徒は、それだけで察したようです。
勇ちゃんが亡くなってからというもの、二人の落ち込みようは尋常ではありませんでした。
同じクラスであるならば察して当然なのでしょう。

「だったら、図書室にある本よりも、本屋さん行ったほうがいいかも。
読者の心霊体験談を掲載してる雑誌があるんだけど、そういうのは図書室には置かないから。
ほら、駅前モールの本屋さんは雑誌の立ち読みができるでしょ。
見に行ってみたらどうかな?」

そんなアドバイスを受けて、二人はさっそく帰りに駅前の書店に向かいました。
目的の雑誌はすぐに見つかり、二人並んでページをめくりました。

そこには、ありとあらゆる体験談が掲載されていました。
心霊スポットに行って幽霊に遭遇した話、身近な人が亡くなって怪現象が起きるようになった話、などなど……。
そして目に留まったのが

『おたより募集! あなたも霊能者に相談してみませんか?』

という文字です。

「霊能者に相談できるんだ」

「この雑誌、買おう。おたより出そう」

そして、二人はここまでの体験談を包み隠さずすべて書き記し、雑誌へ投稿したのです。





そうです、私がその雑誌の編集者です。
ここまでお話してきたことは、美優ちゃんと麻衣ちゃんから届いたおたよりの内容です。
他人様にお伝えするにあたって、フェイクを加えていますことをご了承ください。

『どうしてその話を私がしているか』

ですか? 私はこの二人のお話を雑誌に掲載させてもらおうと、取材の申込みをしたんです。

でも、取材はできませんでした。
私が連絡を取ったときには、既に二人とも亡くなっていたんです。





後日、雑誌と契約関係にある霊能者を連れて、例の場所へ行ってきました。
『行ってきました』というか…… 実は私自身はそこへ近づいてはいないんです。
結構手前のあたりで霊能者の先生に

「これ以上近づいたら守りきれないから」

と待機を命じられてしまいまして。

そこには、確かに勇ちゃんらしき魂が確認できたそうです。
でも…… かなり原型を留めなくなってきていて、もとからその場所にいた魂の塊たちと一体化しかけていたんだとか。
そして、美優ちゃんと麻衣ちゃんの魂もそこにいました。





もとからその場所にいた、この場所を心霊スポットたらしめている魂たちは、常に仲間を求めています。
最初にお話しましたよね?

『そこに行って幽霊を目撃すると死ぬ』

って。そうして亡くなった人の魂もまたその一団に取り込まれて……
その場所の、もう『呪い』といって差し支えないでしょうね、それはますます力を増していくのです。
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