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第二十一話 宿るもの
しおりを挟むではワシの体験談を聞いてもらおうかの。
一人息子も立派に成人して、今ではばあさんとふたりきりの年金ぐらしじゃ。
こうして若いモンと話をする機会もずいぶんと久しぶりじゃからの。
うまく話せるかどうかわからんが……まあ、聞いてっとくれよ。
あれはもう何十年も前の話じゃ。
ワシとばあさんは今でもずっと『らぶらぶ』なんじゃがの、当時はもっと『アツアツ』だったんじゃよ。
当時は
『まともな大人であれば結婚して家庭を持つのが当たり前。
そして結婚したなら子供を産み育てるのが当たり前』
そういう価値観がまん延しておったし、そうやって教育されてきたからワシらも疑いもせんかった。
今の若いモンからすると信じられないかもしれんがの。
もちろん、ワシもばあさんと子作りにはげんだわい。
そしてついに授かったんじゃ、かわいいかわいい珠のような娘を! ん?
「さっき『一人息子』と言ったろう」
とな? そうじゃよ。
ワシらは、そのかわいい娘を亡くしてしもうたんじゃ。
娘の命を奪ったのは病じゃった。
今でこそ治療法の確立した病気じゃがの、当時は『助からない病』とされていた。
原因もわからない奇病で、村では『呪い』とウワサされとったよ。
『過去に、なんらかの罰当たりなことをした者が受ける報いなのだ』
と。ワシらは娘を失ったばかりか、そんなウワサを信じた近所のものどもからひどい迫害を受けたんじゃ。
ばあさんの落ち込みようはそれはもう、見ていられなかった。
ワシとて娘を失ったのは同じ、辛さを共有できているものと思っておった。
が…… やはり自分の腹を痛めて産んだ子への思い入れは格別なんじゃのう。
なんとかしてばあさんを元気付けようとしたが、どうにもならんかったよ。
ばあさんは飯も喉を通らず、日に日に弱っていった。
そんなある日のことじゃ。
いつものように朝起きてみると、ばあさんの姿がない。
家中を探し回っても見つからない。
なにしろワシは毎日、ばあさんの生きる気力もない様子を見ておったんじゃ。
いやな予感を必死に心の中で否定しながら、外を探そうと玄関を飛び出した。
すると、ばあさんは玄関の前に立っておった。
ばあさんはワシの顔を見ると、無言のまま手招きした。
導かれるままばあさんのいる場所まで近づけば、そこには一体の人形が置いてあった。
その人形は人間の赤子くらいの大きさで、たぶん子供の人形遊び用として作られた玩具だったのじゃろうが……
作りはやけにリアルで、日本人形を思わせる顔立ちをしておった。
わしの目にはなんだか不気味に映ったんじゃよ。
だから、ワシは
(近所のものどもの嫌がらせに違いない)
と思ったがの…… ばあさんはその人形に亡き娘の面影を感じたようじゃった。
「あの娘が帰ってきてくれた」
なんて嬉しそうに涙を流すものだから…… ワシももう何も言えなくなってしもうた。
それからというもの、ばあさんは寝ても覚めても人形と一緒に過ごすようになった。
その人形をまるで生きているように、娘のように扱ったんじゃ。
どう見ても異常じゃった。
(ワシの妻は、悲しみのあまり気がおかしくなってしもうた)
そう思ったがの、皮肉にもそれをきっかけにばあさんの体はどんどん元気になっていった。
もともと気落ちが体を衰弱させていたんじゃ。
人形がばあさんの心を癒やしてくれたことで、体が元気になっていくのもうなずけた。
だから、ワシはあえて何も言わずにばあさんの好きにさせてやったんじゃ。
そしてまたしばらくたった頃、ワシは人形の髪が伸びてきていることに気がついたんじゃ。
ばあさんなどはもっと早く、それに気がついていたはずじゃ。
手ずから散髪なんかしてやっとったんじゃからな。
ワシはいつも気味が悪くてその人形には近寄りもせんかったが……
時折ばあさんが
「たまには娘にかまってやってくださいな」
なんてワシに向かって人形を差し出すんじゃよ。
その時の人形の顔、目つき! 今思い出しても震え上がってしまう。
それでのう、ワシ、さすがにまずいと思ったんじゃ。
(ばあさんがあまりにも人形を人間扱いするから魂が宿ってしまったのか……?
それとも、もともと何かが入り込んでて、ばあさんはそれに魅入られてしまったのか……?)
ともかく
(今まではと状況が変わった、放ってはおけない)
と思っての。ばあさんの目を盗んで人形を近所の神社に持ち込んだんじゃ。
神社の神主はさすが人格者でな、例の奇病によるワシらのウワサに惑わされることなく、親身になってくれたわい。
そして人形供養の儀式を執り行ってもらうことになった。
神社に人形を預けてからが大変じゃった。
ばあさんが
「娘がいなくなった、誘拐された」
と大騒ぎして、警察に通報までしてもうたんじゃ。
警察には事情を説明して、ばあさんには『捜査中である』ということにしてもろうた。
それでも毎日毎日警察に捜査の状況を聞きに電話するもんだから、対応した警察の人も大変じゃったろうな。
あのときは本当に迷惑をかけてしもうたが、彼らは実にうまくごまかしてくれとった……
ワシも毎日大暴れのばあさんをなんとかなだめすかす日々に疲れ切っておった。
じゃがある日、いつものように娘を探して半狂乱になっているばあさんを引き止めている最中のことじゃ。
突然ばあさんが、糸の切れた操り人形のようにぷつりと大人しくなったんじゃよ。ワシは
(いよいよばあさんが完全に壊れてしもうたのか)
と観念したが…… 次の瞬間、家の黒電話が鳴り響いた。
電話に出ると、神社の神主からじゃったよ。
「人形供養が無事に終了した」
との報告じゃった。
それでワシは確信したんじゃよ。
(ばあさんのあの様子は、やっぱり人形が原因だったんじゃ)
と。
その後はばあさんもすっかり、文字通り『憑き物が落ちたよう』になっての。
ただ、一連の騒動は村じゅうに広まってしまったからのう。
なにしろ警察にまでずいぶん迷惑をかけてしまったんじゃ。
さすがに肩身も狭くそこにはいられなくなって、遠くへ引っ越すことにしたんじゃよ。
ワシらを迫害しおった村人どもには、恨みしかないがの……
中には引っ越しの当日、見送りにきてくれた者もちらほらおったんじゃ。
『村じゅうでワシらに対する風当たりが強くなる空気があって、逆らえなかった』
ことを謝罪しにきよった。
「なんじゃい、今更何を言っても遅いわい」
なんて怒鳴り散らしてやったがの。
ワシらが、ばあさんが一番つらくて大変だったときに、支えになってくれるどころか足を引っ張ることしかせなんだからな、彼奴ら。
とはいえ、ワシとて村の空気に逆らう恐ろしさはわかってるつもりじゃよ。
謝罪に来てくれた者どものことは、今でもはっきり覚えておるわ。
もう何十年も前のことじゃ、そろそろ許してやってもいいかもしれんのう。
それからばあさんは病院に通って、徐々に体も心も回復していった。
ワシら当時まだまだ若かったからの、それからまた子作りにはげんで、一人息子を授かったんじゃよ。
あの人形は結局何だったのかわからずじまいじゃ。
詳しい話を聞く前にあの村を離れてしまったしのう……
それに、ワシは怖かったんじゃよ。
(あの人形とかかわり合いになると、またばあさんがおかしくなってしまうんではないか)
と、のう。息子が生まれてからは
(もうあのときの二の舞いになるものか)
と必死じゃった。
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まるで亡き娘が生きられなかった分までがんばってくれてるかのようじゃった。
病気ひとつ、ケガひとつせなんだ。
健康診断と予防接種以外で病院にかかったことのない子じゃったよ。
ただ…… 気になることといえば、息子は男の子なのに人形遊びが好きなようでの……
ああいや、今はそういう『男の子だから』だの『女の子だから』だので区別するような事は好ましくないらしいの、失敬失敬。
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