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第六十話 ブロックしても届くメッセージ
しおりを挟む始まりは、奇妙なメッセージでした。
私、なんとなくFF外からもDMを受け取れる設定にしてるんですよ。
だからといってめったにDMなんか届きませんけどね。
でもある日、奇妙なDMが届いたんです。
「助けて」
最初はその一言だけでした。
気持ち悪いし、イタズラかと思ったので速攻削除して無視したんです。
でも、また届くんですよ。
「助けて」
「お願い」
「無視しないで」
しつこいなあ、って思いました。
最近、スパムメールでもこういう連続性っていうか、ストーリー性のあるものが増えてるじゃないですか。一度間違いメールを装って送っておいて、そのあとその続きが送られてくるみたいなの。
その類だと思ったんですよね。
どちらにせよ即削除して無視しました。
「あなたしかいないの」
「話だけでも聞いて」
「少しでいい」
「お願い」
「助けて」
なんか必死すぎません?
さすがに気持ち悪くなっちゃって。
本当に誰かが助け求めてるんだったら、それで私が無視したことでこの人がどうにかなっちゃうのなら、ちょっと寝覚めが悪いかな…… なんて思い始めてたんですよね。
でも、友人に見せて相談したら……
「え、なにこれ?」
「うわ、マジで気持ち悪い!」
「即ブロックっしょ!」
「だよねー!」
そう、そうですよね。
私、無視だけしてたけどブロックすればよかったんですよ。
DM開放してるわりにあんまり変なDM来たこともなかったんで失念してましたけど、ブロックすればこんな気持ち悪いメッセージももう受け取らなくていいじゃないですか。
自分の間抜けさにあきれながらブロックして、これで一安心と胸をなでおろしたところでした。
また届いたんです。
「助けて」
さすがにおかしいじゃないですか。
周囲の友人に聞いても、SNSのフォロワーたちに聞いても、こんな気持ち悪いDMなんて受け取ったこともないっていうから、流行してるわけではなさそうだし。
明らかに私ひとりがターゲットになってる雰囲気なんですよね。
ブロックしても届くなんて、まさか私に嫌がらせするためだけに複アカ使ってまで?と思ったんですけど…… アカウント名をタップしてプロフに飛んでみると、確かに私がブロックしたアカウントなんです。
文字化けしてるのかわざと変な文字を使ってるのか読めない名前でしたけど「ブロック済み」の表示が出ていたので間違いありません。
背筋がゾッとして、すぐにDMの受信設定を変えました。
でも、その日の夜も、次の日の朝も、同じアカウントからDMが届くんです。
まるで、私がスマホを開くのを待っていたかのように。
その度に、じわじわと首を絞められているような、そんな言いようのない不安が全身を覆っていきました。
それからは数日の間、友人たちのすすめもあって、しばらくSNSから遠ざかっていました。
スマホを開くことさえほとんどなくなっていったんです。
常に友人たちと行動してるから、スマホを開かなくても意外とどうとでもなるんですよね。
だけどそんなある日、私は道に迷ってしまったんです。
友人から教えてもらったお店にいこうとしてたときでした。
いつもは、初めて行く場所へはスマホの地図アプリで経路案内を聞きながら歩くんですよ。
だけど前述のこともあって、私の日常はすっかりスマホ離れが進んでいました。
まあ、友人からだいたいの場所は聞いてるし、手書きの地図をもらってたから大丈夫だろうと思ったんです。
私、自分で思うよりも方向音痴だったみたい。
スマホに頼り切りで今まで発覚してなかったのかな。
同じところをぐるぐる回ったり、気がついたら大きく離れた場所にいて、番地を頼りに戻ったりしながら、目的のお店を目指しました。
そうこうしているうちに、周囲の雰囲気が少しずつ変わってきていることに、私は気付けなかったんです。
とにかく目的のお店を見つけることだけに必死になりすぎていたんですね。
気がついたときには、もう異質な状況でした。
空は見たこともない色に染まり、周囲を見渡せば人ひとりいない、車も走ってない。
建物は民家かどうかもわからない建造物、玄関がどこかもわからないような構造で、チャイムを鳴らして住人に道を聞くことさえかないそうもありませんでした。
いえ、チャイムが可能だったとして住人がいたのかも今となってはわかりません。
世間でよく言う、異世界に迷い込んでしまった? ってやつなんですかね。
電車に乗ってたら変な駅にたどり着いたみたいなの、映画化もされたんですよね?
その手のやつだと思いました。
あんなのはフィクションだと思ってました、まさか自分の身に降りかかるなんて。
もう、スマホが気持ち悪いなんて言っている場合ではありません。
誰かに連絡をとって、助けてもらわなきゃ。
スマホを取り出して、友人や家族に連絡を取ろうとしても、どうしてもうまくいきません。
連絡帳から電話をかけようとしても、誰にもかからない。
メッセージアプリも届かないし、メールもダメ。
こうなったら仕方がありません。
私はまだ若干のトラウマが残ってはいたものの、思い切ってSNSに助けを求めることにしました。
でも、TLにポストすることができないんです。
もちろんフォロワーにメンションを送ることもできません。
(だったら……!)
私は思い切って、ずっと遠ざかっていたDM欄を開きました。
そこには、以前あれだけ私を悩ませた気持ち悪いDMは一件も残ってはいませんでした。
最初は確かに届くたびに削除してたけど、最後の方ではもう気持ち悪くなって届いてるかどうかさえ見ないままスマホから目をそらし続けてたんです。
少なくとも削除漏れしたDMが何件かは目に入ってくることを覚悟していたのに、肩透かしでした。
ただ、今のこの状況ではそんな過去のことを気にしている場合ではありません。
(とにかく誰かに助けを求めなくちゃ)
私はフォロワーや友人にDMを送ろうとしましたが、やっぱりうまくいきませんでした。
(誰でもいい、誰かに届いて!)
私は必死の思いで、DMの履歴をどんどんさかのぼって一度でもやりとりをしたことのある相手に助けを求めるDMを送り続けました。
そしてついに、たった一件だけ送ることに成功したんです。
その相手は…… 覚えがありませんでした。
(最近親しく付き合ってるフォロワーでもないし、友人でもない……
昔ちょっと何かの用事があってやり取りした人だったかな?)
過去のDMの内容は履歴が残っておらず「過去に送受信した相手」としてだけその場にアカウントが表示された状態でしたから、まったく思い出すことはできませんでした。
だけど、とにかく唯一DMを送ることができたのです。
私は必死に助けを求め続けました。
それなのに、相手はイタズラだと思っているのか、ずっとスルーされ続けているんです。
(こっちはこんなに必死なのに!)
とにかく反応を引き出そうとDMを送り続けているうちに気が付きました。
「これ、私が今まで受け取ってた気持ち悪いDMだ」
ただの偶然で片付けられるものではない。
今現在すでにもう、現実とは思えない状況に巻き込まれているんです。
信じられない、といっても信じるしかありません。
この、唯一DMを送れている相手は…… 過去の私だ。
異世界に迷い込むだけじゃなくて、なんだろ、時間軸? の、ズレ?
恥ずかしながら私あんまりそういうのに詳しくはなくて……
興味もないのにどうして中途半端に知ってるかといえば、あまり親しくない友人Kの影響でした。
入学したばかりの頃、席が近かったというだけの理由で少し話すことがあったんです。
でも、Kときたらオカルトの話ばかりで「話が合わないな」って感じました。
決定的なケンカ別れとかそういうのがあったわけではなかったけど、私たちはなんとなく話題性の違いから距離を置くようになっていったんです。
そうして、今の現実的な友人たちと付き合うようになったというわけ。
でも、あのKならもしかして……!
私は初めて過去に受け取っていたDMとは違う内容を送りました。
「Kに相談して」
(お願い、スマホを見るのをやめる前に届いてて……!)
祈りながら送信ボタンをタップ。
そして、返信が来たんです!
(祈りが天に届いた!)
喜ぶのはまだ早いのに、私はつい小躍りをしそうになりました。
返信にはこうありました。
「どうしてKのことを知ってるの? もしかして私の知り合い? イタズラじゃないの? Kとは最近あんまり話してないけど…… ちょっと声かけてみる。待ってて」
そこからはトントン拍子でした。
最初は「時空のおっさんがいないか」などわけのわからないことを言われましたけど、誰もいないことを伝えたら、あれこれと試してみてほしいということを指示されて。
結局、私が道に迷ってグルグルと歩き回った、そのルートをそのまま逆に辿ってみたら、無事に生還できたというわけです。
スマホの地図アプリが、私が歩いたルートを全部記録してくれていたのが幸いでした。
「オカルト好きな知り合いは、たとえ普段話さなくても連絡先を残しておくべきだ」
これが、私が今回の経験を経て得た教訓です。
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