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自分が覚えている限りは一度だけ。
たった一度見ただけで、幼かったこともあり殆どと言っていいほど記憶もなく父親というより他人に近かった。
実の母親には奴隷として売られたが、今はもうエニシというママも出来てパパも妹たちもおり逆に売ってくれたことに感謝しているくらいだ。
そう、自分の家族は彼らであり血が繋がっていようとも実の両親などもうどうでもよかった。
なのにーー
「最近何やら妙な魔力を感じるかと思えばお前か?」
「っ、父上!」
その日は朝から何やら落ち着かず、町へ行こうとしたエニシに我儘を言って一緒に連れてきてもらった。
言いようのない不安に離れたくないと訴える自分にエニシは不思議そうではあったが断ることなく手を繋いで兄と3人でギルドへ行き、帰りには買い物をした。
特に何も起こらず、きっと自分の思い過ごしだったのだと息をつきルーのお迎えを待っていれば、突如目の前に黒い塊が姿を現した。
「ママっ!」
塊だと思っていたものはすぐ様形を変え人型になったかと思えばその容姿に目を見開いた。
黒髪に赤い瞳。
一目で魔族だと分かったが、それ以上に兄であるエルの父上と呼ぶ声にこれが自分の父親なのかと驚く。
しかしそんなエルの声に男は反応することはなく、興味深いとばかりにエニシをただ見つめている。
よくないと思った。
言葉からして自分たち兄弟に用があって迎えに来たというわけではないだろう。
むしろ視界に入っているのかさえ怪しい。
唯々エニシを見つめ続ける男に父親であるということさえ忘れエニシを守るように前に出る。
「アズ?」
突然現れた男に驚きながらも前に出たアズにどうしたのかと尋ねてくるが振り向くことなく男を睨みつける。
この男は危ない、そう感じた。
何よりその目がエニシを見ていることに危険を感じる。
「ママはわたさない」
手を伸ばそうとしてきた男の手を魔法を使い払いのければ、そこで漸くこちらにも気付いたようだ。
「ほう、こんな所にはぐれがおるとは。しかし身の程知らずな。ーー退け」
「っ」
「アズっ!?」
「アズライトっ!?」
払い除けるように男が軽く手を動かしたかと思った瞬間吹き飛ばされ木に打ち付けられた。
痛みに気を失いそうになりながらも顔を上げれば2人が駆けてくる姿が見える。
「…ママ……だめ…」
男の狙いは確実にエニシだ。
「いただいていくとしよう」
駆けてくるエニシの背後、男が手を伸ばすのが見えた。
「ダメっ!」
「父上やめーーっ」
「エルっ!」
やめろと叫ぶアズにエルもエニシが危ないと気付き守ろうとするが同じように吹き飛ばされ倒れ込んでしまう。
「ママ……にげて…」
エニシだけでも逃がそうとするが、そんなこと聞いてくれるはずもなく自分たちを庇い男と対峙する。
「私の子どもたちをこれ以上傷つけるのは許しません」
「子?面白いことを言う。だが興味があるのはお前だけだ」
「そう言われて付いていくとでも?私は貴方に興味どころか嫌悪しかない」
いくらエニシと言えども魔族相手は分が悪い。
魔力だけならば圧倒的に優位だが、エニシはその魔力を攻撃に使うことを殆どしたことがないのだ。
自分たちのことはいいから逃げてくれと願うが優しい彼がそんなことを許すはずがない。
どうか早く来てくれとルーの姿を探す。
ドラゴンともなれば男もそう簡単にはいかないはずだ。
「人間如きが私に勝てるとでも?」
「やってみないと分からないでしょう?私は子どもを守るためなら手段は選びませんよ」
あれほど頑張って訓練したのに結局守られている自分が情けない。
誰より守りたいと思う人を守れないことが悔しくて仕方がない。
守るどころか足を引っ張ってしかおらず、自分の弱さに腹が立つ。
「私にそこまで言えるとは人とは本当に愚かだな」
「気分が悪いですか?なら今すぐ帰ればいいでしょう?貴方の気まぐれに付き合ってあげるほど私たちも暇じゃないんですよ」
魔族相手にかなり強気だが、見ればその手は震えていた。
恐怖を感じていないはずがなく、しかし自分たちのために下がることもしない。
痛みに呻きながらも手を上げると男に向かい氷の刃を叩きつけようとしーー
「邪魔だ」
「ママっ」
魔力を練り上げた途端再び吹き飛ばされそうになり、だが寸前で庇うように前に出たエニシが弾き飛ばされる。
打ち所が悪かったのかその瞳は閉じ意識がないようだ。
「何とも馬鹿なことをするものだ。だが手間が省けた」
「やめろっ」
ぐったりと倒れ込むエニシに手を伸ばす男に、今度こそと頭を狙い攻撃するが容易に弾かれる。
くやしい!くやしい!くやしい!
魔力など知ったことかと力の限り魔法を放つ。
「お前なんか死んじゃーー」
「お待たせ~。迎えにーー縁?」
やっとだと振り向いた瞬間、男はエニシを抱えその場から消えたのだった。
絶対に許さない。
絶対に見つけてやると慌てて駆け寄ってくるルーを見上げながらも決意するのだった。
たった一度見ただけで、幼かったこともあり殆どと言っていいほど記憶もなく父親というより他人に近かった。
実の母親には奴隷として売られたが、今はもうエニシというママも出来てパパも妹たちもおり逆に売ってくれたことに感謝しているくらいだ。
そう、自分の家族は彼らであり血が繋がっていようとも実の両親などもうどうでもよかった。
なのにーー
「最近何やら妙な魔力を感じるかと思えばお前か?」
「っ、父上!」
その日は朝から何やら落ち着かず、町へ行こうとしたエニシに我儘を言って一緒に連れてきてもらった。
言いようのない不安に離れたくないと訴える自分にエニシは不思議そうではあったが断ることなく手を繋いで兄と3人でギルドへ行き、帰りには買い物をした。
特に何も起こらず、きっと自分の思い過ごしだったのだと息をつきルーのお迎えを待っていれば、突如目の前に黒い塊が姿を現した。
「ママっ!」
塊だと思っていたものはすぐ様形を変え人型になったかと思えばその容姿に目を見開いた。
黒髪に赤い瞳。
一目で魔族だと分かったが、それ以上に兄であるエルの父上と呼ぶ声にこれが自分の父親なのかと驚く。
しかしそんなエルの声に男は反応することはなく、興味深いとばかりにエニシをただ見つめている。
よくないと思った。
言葉からして自分たち兄弟に用があって迎えに来たというわけではないだろう。
むしろ視界に入っているのかさえ怪しい。
唯々エニシを見つめ続ける男に父親であるということさえ忘れエニシを守るように前に出る。
「アズ?」
突然現れた男に驚きながらも前に出たアズにどうしたのかと尋ねてくるが振り向くことなく男を睨みつける。
この男は危ない、そう感じた。
何よりその目がエニシを見ていることに危険を感じる。
「ママはわたさない」
手を伸ばそうとしてきた男の手を魔法を使い払いのければ、そこで漸くこちらにも気付いたようだ。
「ほう、こんな所にはぐれがおるとは。しかし身の程知らずな。ーー退け」
「っ」
「アズっ!?」
「アズライトっ!?」
払い除けるように男が軽く手を動かしたかと思った瞬間吹き飛ばされ木に打ち付けられた。
痛みに気を失いそうになりながらも顔を上げれば2人が駆けてくる姿が見える。
「…ママ……だめ…」
男の狙いは確実にエニシだ。
「いただいていくとしよう」
駆けてくるエニシの背後、男が手を伸ばすのが見えた。
「ダメっ!」
「父上やめーーっ」
「エルっ!」
やめろと叫ぶアズにエルもエニシが危ないと気付き守ろうとするが同じように吹き飛ばされ倒れ込んでしまう。
「ママ……にげて…」
エニシだけでも逃がそうとするが、そんなこと聞いてくれるはずもなく自分たちを庇い男と対峙する。
「私の子どもたちをこれ以上傷つけるのは許しません」
「子?面白いことを言う。だが興味があるのはお前だけだ」
「そう言われて付いていくとでも?私は貴方に興味どころか嫌悪しかない」
いくらエニシと言えども魔族相手は分が悪い。
魔力だけならば圧倒的に優位だが、エニシはその魔力を攻撃に使うことを殆どしたことがないのだ。
自分たちのことはいいから逃げてくれと願うが優しい彼がそんなことを許すはずがない。
どうか早く来てくれとルーの姿を探す。
ドラゴンともなれば男もそう簡単にはいかないはずだ。
「人間如きが私に勝てるとでも?」
「やってみないと分からないでしょう?私は子どもを守るためなら手段は選びませんよ」
あれほど頑張って訓練したのに結局守られている自分が情けない。
誰より守りたいと思う人を守れないことが悔しくて仕方がない。
守るどころか足を引っ張ってしかおらず、自分の弱さに腹が立つ。
「私にそこまで言えるとは人とは本当に愚かだな」
「気分が悪いですか?なら今すぐ帰ればいいでしょう?貴方の気まぐれに付き合ってあげるほど私たちも暇じゃないんですよ」
魔族相手にかなり強気だが、見ればその手は震えていた。
恐怖を感じていないはずがなく、しかし自分たちのために下がることもしない。
痛みに呻きながらも手を上げると男に向かい氷の刃を叩きつけようとしーー
「邪魔だ」
「ママっ」
魔力を練り上げた途端再び吹き飛ばされそうになり、だが寸前で庇うように前に出たエニシが弾き飛ばされる。
打ち所が悪かったのかその瞳は閉じ意識がないようだ。
「何とも馬鹿なことをするものだ。だが手間が省けた」
「やめろっ」
ぐったりと倒れ込むエニシに手を伸ばす男に、今度こそと頭を狙い攻撃するが容易に弾かれる。
くやしい!くやしい!くやしい!
魔力など知ったことかと力の限り魔法を放つ。
「お前なんか死んじゃーー」
「お待たせ~。迎えにーー縁?」
やっとだと振り向いた瞬間、男はエニシを抱えその場から消えたのだった。
絶対に許さない。
絶対に見つけてやると慌てて駆け寄ってくるルーを見上げながらも決意するのだった。
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