二度目の人生ゆったりと⁇

minmi

文字の大きさ
469 / 475

思い出は胸に

しおりを挟む
 別れは突然やってくる。
 いくら覚悟や自覚があったとしても、それが何日のいつか、何時何分何秒とまでは確定は出来ず、誰にも予想など出来ない。

 「誰も死を避けることは出来ません。命というものがある限り人はそれから逃れることは出来ない」

 ジークによって運ばれ地面に寝かされた彼女の表情は変わらず美しいものだった。

 「お婆さんがこうして眠りについたように、いつかは私も老い死に辿り着く。…………サウル、君にもそれはいつかは訪れる」

 子どもたちの影に隠れるように立ち尽くすサウルを呼び寄せる。
 涙こそ流していなかったが、怖いくらいに顔を強張らせているのは我慢しているからだろう。

 「時として死に方は選べないかもしれません。私の両親がそうだったように」

 何も覚悟などしていなかった。
 まさか両親が帰ってこない日が来るなどあの時の自分は考えもしていなかった。

 「ーーけど、生き方は選べます。事情があり思った通りにいくとは限りませんけど、それでもまた人はそれを選び生きている。サウル、君がここへ来ることを選び、皆と家族になったように」

 「……………うん」

 「私は何度も君に言いましたね。幸せになりなさいと。けどそれは君自身の幸せであり、私が決めることじゃありません。人によっては不幸に見えても、君自身が幸せだと思うならそれで構わない」

 彼らの未来は、可能性はこれからいくつも生まれることだろう。
 その中でどう選び生きていくかは己自身が選び生きていくしかない。

 「お婆さんが言っていました。君たちと暮らせて幸せだと。サウルたちの存在がお婆さんを幸せにしてくれた」

 俯き見えない表情に、見せてと頬を優しく撫でる。

 「悲しみは幸せだったからこそ感じるものなんですよ。だからたくさん泣いてあげて。今までありがとう、楽しかったよ、一緒にいられて幸せだったとお婆さんに伝えてあげて」

 大人になるほどそれも難しくもなるが、今は縁やカール一家、イリスたちなど大人たちが近くにいる。

 「泣くことは悪いことではありません。時と場所にもよりますけど、今は我慢する必要はない。いっぱい泣いてどれだけお婆さんのことが大好きだったか伝えて上げて」

 そう言い背を軽く押してやれば、必死に食いしばっていた口を開き涙を流しお婆さんに縋り付くサウルの姿を見守る。
 きっとお婆さんの死を一番悲しんでいたのはサウルだ。
 だが子どもたちの中でも年長者ということ、元々の性格もあり素直に泣けていなかったのだろう。

 「シャイアさんもきちんとお別れしてきなさい」

 先程目を覚ましたらしいシャイアにも、これが最後だということを伝える。
 過ごした日数は短くとも、共にいる時間が多かったのはシャイアだ。
 縁がいない時はお婆さんに裁縫を習い、寝込むようになってからは隣りで出来を彼女によく見せていたらしい。
 
 「みんなにお願いがあるんです。お婆さんをお花と一緒に送って上げたい。だからみんなでお婆さんにお花を渡して上げてくれますか?」

 お別れの挨拶用にとイリスに頼んでおいた花を受け取ると、子どもたち一人一人に手渡していく。
 泣きながらも別れを告げ飾り付けていけば、まるで花畑で眠っているかのようだった。

 「貴方は私にとって教師であり、友であり、何よりーー同志でした」

 縁と同じく獣人を愛した彼女。
 こちらへ来て初めて出会った、獣人を人として見ていた女性。
 彼女の存在は縁にとって自信にもなっていた。
 
 「愛した人が認められないのは悲しいと言ってくれましたね」

 獣人を、自分を愛した人を否定されるのはいつだって辛いものだった。
 その気持ちを理解してくれる彼女は縁の支えにもなっていた。

 「何が正しいのか、私がしてきたことは間違いだったのではと迷ったこともありました。けど貴方は自分は幸せだと笑ってくれた」

 その言葉が、その笑顔に、勇気をもらった。

 「貴方に感謝を。そして貴方を選んでくれた旦那様にも。お2人がこれから再び出会い、手を取れることを願っています。お2人から貰った愛情はきっと子どもたちが次へと運んでくれることでしょう。子どもたちの未来を繋いでくれて………………本当にありがとう…ござい、ました」

 一瞬声が詰まった縁に、ジークが手を握ってくれる。反対側からはアズが。
 泣くサウルとシャイアを呼び寄せると、放たれた火が燃え移っていくのを皆で静かに見守る。
 彼女は皆に愛され、何より子どもたち皆を愛してくれた。
 子どもたちの涙が何よりそれを物語っている。

 「ゆっくりお休み下さい。ありがとうございました」

 心安らかな眠りを願い最期の別れを告げるのだった。

 

 
 

 

 

 

 
  



 

 
しおりを挟む
感想 121

あなたにおすすめの小説

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件

表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。 病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。 この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。 しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。 ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。 強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。 これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。 甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。 本編完結しました。 続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください

貧乏Ωが御曹司αの将来のために逃げた話。

ミカン
BL
オメガバース

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

記憶を無くしたら家族に愛されました

レン
BL
リオンは第三王子で横暴で傲慢で侍女や執事が少しでも気に入らなかったら物を投げたり怒鳴ったりする。家族の前でも態度はあまり変わらない… 家族からも煩わしく思われたていて嫌われていた… そんなある日階段から落ちて意識をなくした…数日後目を覚ましたらリオンの様子がいつもと違くて…

処理中です...