異世界ハーレムに入るのがオレって聞いてない

No.26

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「――何それ、その男サイッテ~!」
「でっしょ~!? オレだって別に好きでチビでいる訳じゃないんだしさ~」
「そうよ、そういう言い方はないわよねぇ。アタシならカワイイって褒めるのに~!」
「あはは、オレが? そお?」
「あらぁ~? セキちゃん、その反応はカワイイって言われ慣れてる感じじゃない?!」
「え~、わかっちゃう~?! わかっちゃうか~! まあこの見た目のおかげで女の子からマスコットみたいな扱いされて男として認識されなくてこの方十九年彼女できたことないんだけど、まあちやほやされるのは悪くないっていうか~!」
「もう、隅に置けないわね! ちょっと、ついでにドレスとか注文していかない?! 似合うわよ絶対!!」
「え~~、オレそういうのは、可愛い女の子が着てるのを見る方が好きかな~!」
「ただいまー! セキさーん、迎えに来たよー!」
「あ、はーい」

 ミーノとお喋りしていると、フォルが店に戻ってきた。
 …………やばいやばいやばい。いつの間にオカマのペースにノッてんだオレ。まあ楽しかったけど。
 オレは椅子から立ち上がって、ミーノを振り返った。

「じゃあねミーノ、服よろしくねー」
「任せなさい! 一週間後にはできてると思うから」

 ミーノは、ばちんと、音が出そうなウィンクを見せた。



「ミーノちゃんと仲良くできてたみたいで、安心したよ!」

 再び石畳の上に出る。フォルはアホ毛をぴょこぴょこさせながら、朗らかに言った。
 やっぱり、フォルはほんわかしてて安心するなあ。天使だ。オレのヒロインになって欲しい。
 オレもつられて笑顔になって、応える。

「だいぶキャラ濃かったから、びっくりしたけどねー。次は画材屋さんに行くんだっけ?」
「うん、ここの通り! もうすぐ着くよ!」

 そうして、次は画材店へと二人で向かった。




「絵の具の材料、ホントにないの? 油絵に必要な道具なんだけど」
「昨日も城のメイドさんにそう言われたのじゃが、うちでは売ってないのう」

 立派な髭を持つ画材店の店主は、困ったように眉を下げた。
 ここは、町で一番大きな画材店。紙や羽ペンや定規やインクなど、沢山の種類の道具がおいてある。
 ところが、肝心の油彩用の絵の具がない。どちらかと言えばここの品揃えは、文房具屋かホームセンターだ。
 フォルも、隣で首を傾げた。

「画材店なのに?」
「うーぬ、昔は置いていたんじゃが……」
「この町ではもう売っていないと思いますよ」

 そんなとき、後ろで一人の若い男の声が聞こえた。
 振り返ってそいつの顔を見て、オレは目を見開いた。

「カズ?!」
「かず? 何の話ですか?」

 カズ……同学部の友人・富山和とやまかずに激似したその男は、首をかしげた。
 いや、違うな。顔や背丈や声はカズそのものだけど、髪色は銀髪だし、瞳は緑色。まるで2Pカラーみたい。

「いや、その、友達にものすごく似てるから……」
「へえ、そうなんですか? 面白いですね。僕の名前はシグマです」

 シグマはにっこり笑う。
 うん、カズはこんなに純粋な笑みとか浮かべないし、聖人みたいな話し方しないから、やっぱり別人だな。
 こいつがカズだとしたら、泉に落としたとき正直者に与えられる、綺麗な方のカズだ。
 フォルはニコニコしながら、

「他人の空似じゃないかな。セキくんもシグマさんも、結構どこにでもいるような顔だし」
「なかなか悪口だけど否定できないな」
「残念ながら」

 シグマとうんうんと頷く。

「……それで、乾性油がないってマジ?」
「絵の具用のでしょう? 城下町は地価が高くて、画家さんは滅多に住まないので、この町にはわざわざ置いていないと思います。以前町で画家さんにお会いしたときも、絵の具は他所から持ってきたと聞きました。でしょう? 店主」
「おお、そうじゃ。数年前は置いていたのじゃが、前任の宮廷画家さんが去ってから、全く売れなくてなあ。それに油は蒸発してしまうからのう、注文は止めていたのじゃよ」

 店主はひげをいじりながら、そう言う。シグマくんは思ったとおりと言いたげに、頷いた。
 ……というかシグマくん、めっちゃ頭よさそうだな。「加工食品は腐らないから大丈夫だろ」とか言って賞味期限二週間過ぎたあんぱん食べて三日寝込んだカズとは違うな。
 店主は、よっこらせと椅子から立ち上がる。

「だが、宮廷画家さんがまた滞在するとなれば、注文も考えねばならんな」

 そう言って、棚から一つ、厚い紙の束を取り出した。
 表紙には手書きで『カタログ』と書いてある。黄色い付箋のついたページを開き、店主は太い指で油彩用の油の項目を指した。

「乾性油も何種類かあるのじゃが。いつも使っているのはどれかわかるかの?」
「えーっと…………」

 その文字列に、目を皿にする。
 普通なら、油彩絵具に使うのはリンシードオイルとかポピーオイルとかだけど、「ユドラシ」とか「パタル」って、何だ? 聞いたことがない。
 星が違うから、地球と植物も違うのか?
 返答にちょっと迷ったけど、正直に店主に聞いた。

「わかんないや。けど、それぞれ延びとか発色が違うの? 色々試してみたいんだけど」
「うーむ、試してみたいか……うーむ……」

 店主は顎に手を当て、悩むように目をつむった。
 少しして目を開き、ぽんと手を打った。

「ならば一度、メディル村へ行ってみるのはどうじゃ? そこまで遠くはないし」
「めでぃる?」
「ああ!ライラ姫がいるあの村だね!」

 隣で納得したフォルを、わからない顔で見つめる。
 フォルはオレの表情に気付き、さも当たり前のことといったように説明を加えた。

「ほら、この国で一番多くの花が咲いている村だよ! 製薬で有名な」
「あ……あ~! ね! そこか~!」

 知らんけど常識っぽいので適当にわかったふりをしておいた。

「なるほど。そこなら沢山の種類の油があるというわけですね」
「そういうことじゃ」

 シグマの言葉に、店主は頷く。
 フォルはニコッと笑って、

「メディル村なら、お馬さんに乗って森を抜ければ、ここから二時間くらいで着くよ!」
「へー、まあまあ近いじゃん! なら自分で行くよ。馬乗ったことないけど大丈夫かな」
「それは大丈夫じゃないかも! じゃあ、騎士団から馬車を出せるか聞いてみよう!」
「馬車!? 乗れんの?! 乗りたい!!」

 何それメルヘーン! 童話みたい!!

「ふふ、まとまったようで良かったですね」

 シグマはニコニコしながら、両手を合わせた。

「騎士様が一緒なら安全でしょうが、あの森の道はまだまだ危ないと言われています。貴方に、フラルーナ様のご加護がありますように」




 画材店を出たあと、丁度お昼頃になったので、フォルと一緒に昼飯を食べに行った。
 フォルのおすすめだというその飲食店では、チーズクリームにあえたショートパスタが出てきた。やっぱりこの国のご飯は、イタリアンっぽいな。そして美味い。
 その後、オレの普段着を買うため、フォルに買い物に付き合ってもらった。
 とは言っても、同行はフォルからのご慈愛ではなく、国王様から与えられた必要な資金をフォルが持っているからだ。

「良いのが買えて良かったね!」

 フォルはオレの手元の布を見て、にっこり笑う。
 布の中には購入品が入っている。まだアルコステラには紙袋という文化はないらしく、この布の包みが袋代わりだ。名称は、風呂敷でいいのかな。一気に和風になるけど。
 それと、やっぱりフォルは可愛いなあ。天使だなあ。なんでこんなにずっと優しくしてくれるの。このまま一緒にいたら、好きになっちゃうよ。
 あと、ガードゆるそう。なんかどさくさに紛れて抱きついてもワンチャン怒られないんじゃない? だめ?

「うん! 付き合ってくれてありがとー。すごい助かったし、楽しかった!」

 無害なフリをして笑い返すと、フォルは嬉しそうに頬に手を当てた。いちいちかわいい。

「わたしも! えへへ、やっぱりセキくんは良い子だなー! 国王様は要らない心配しすきだよね!」
「え? どういうこと?」

 そう聞き返したとき、フォルはオレの方を見て、ぱあっと顔を輝かせた。

「あっ! 猫さんだ!」
「え?」

 後ろを振り返ると、細い路地の道の奥に一匹の白猫がいた。
 白猫は、そこに餌が置いてあるのか、地面をつついている。

「猫さーん!」

 フォルはたたたっと、そちらに駆け出す。やっぱり猫の可愛さは、文字通り全世界共通なんだなあ。
 と、和んでいたその時。
 裏路地の壁から、一つの手が伸びた。

「きゃあ?!」

 その手はフォルの腕を掴み、一瞬で死角へと引きずり込んだ。

「フォル!?」

 風呂敷を放り投げ、慌てて路地を駆ける。
 壁だと思っていたそこには狭い凹みがあり、フォルと見知らぬ男がいた。

「何するんですか?! 離してください!!」
「へへ、わかってんだろ? やたら肉付きの良い女だな」

 叫ぶフォルに、男はニタニタしながらそう言って、フォルの胸を掴んだ。

「やめろ!!!」

 思わず叫ぶと、男の鋭い三白眼がこちらを向いた。

「あ? 何だガキ」

 よく見ると、その男の腕はかなりの筋肉質。
 足も、筋肉もりもり。服を着たボディービルダーのサンプル画像みたいだ。
 オレは一瞬で悟った。

 勝てない。

「……ち、力!! 降ってこい女神の力ー!!」
「いきなりどうした?!」

 天に向かって両手を上げ下げすると、男は若干引いた顔で動揺する。
 あああーー!! こういうときのためにパワー系のパラメータ振ってもらっとくんだったーー!!
 ええっと、どうしよう、どうしよう! このままだとフォルが乱暴されちゃう!! エロ同人になっちゃう!!!

「セキくん、避けて!」
「何?!」

 パニクっていたら、そんなフォルの声が聞こえて、思わず動きを止める。
 フォルは瞬時に、ガッと、肘で男のみぞおちを突いた。

「ぐえっ?!」

 よろけた男の体とフォルの間に、隙間が空く。
 刹那、フォルは男の首の後ろに手を回し、体重をかけた。

「がはっ」

 ゴン、と鈍い音がして、男の頭が硬い地面に押し付けられる。
 フォルは跳び、思いっきり男の背中を踏んだ。

「いででででで!!!」
「強制わいせつ罪及び公務執行妨害罪の現行犯で、逮捕します!」

 そう言ってフォルは、ポケットから手枷を取り出し、男の腕にはめた。



「セキくん、ありがとう!」

 フォルは、オレに満面の笑みを見せた。

 あの後すぐ、フォルが花火みたいなものを打ち上げ、騎士の青いマントを着た男たちが数人駆けつけた。
 この騎士たちはフォルと同じ第二部隊、つまり警察の役目を負う立場の人だ。
 男は唇から血を流し首が変な方向に曲がり手枷を嵌められたまま、どこかへ連れて行かれた。
 オレは、ハハッと乾いた笑いを溢す。

「いやオレ、何もしてないけど」

 相変わらずふわふわした雰囲気のフォルと、少し距離を取る。

「あの犯罪者の気を散らせるために、面白い踊りしてくれたんでしょう? おかげでやりやすかったよ!」
「そっかー、ヨカッタネー」

 フォルはさっきオレがしたみたいな、腕を上げ下げする運動をする。おかげで胸がとても揺れてるけど、見てて何も感じない。虚無。

「そういえばさっき、郵便屋さんに行くときも痴漢に会ったんだー」

 無言で帰路を歩いていると、フォルは思い出したように言った。

「……一応聞くけど、大丈夫だった?」
「うん! 後ろにいたから、そのまま脛蹴り上げたよ。あれは絶対常習犯だよ!」

 フォルは表情を変えずにそう答える。
 再び無言になっていると、フォルは付け加えた。

「わたしね、第二部隊に配属されてから、逮捕件数がずっと団の中で一位なんだ。……やっぱり才能あるのかな?」

 フォルは顎に手を当てて、目をキランと輝かせた。

「あるんじゃない」

 適当に相槌をうつ。
 むしろ、フォルを第二部隊に配属させたヤツが天才だと思うよ。

「……あ、そうそう、さっき言ってた、国王様の話なんだけど」

 フォルは、ちょっと怒ったように言葉を続けた。

「もしセキくんがわたしに変なこと言ったりやったりしたら、いつもみたいに逮捕してねって言われたんだよ。酷くない?! こんなに可愛いセキくんが、そんなことするわけないのに!!」
「あ、うん……」

 ……なるほど。一つ学んだ。
 フォルにセクハラすると、間接的ではなく、物理的に首がトぶ可能性がある。
 冷や汗をかきながらも、ふとあることを思いついて、オレはフォルに聞いた。

「そういえば、研究所にルイって人、オレと同じ時期に入ったよな。あいつもフォルと買い物したの?」
「ルイさん?うん、一緒に買い物したよ!」

 そのキラキラした笑顔を見るに、別にルイはフォルに対して特にセクハラはしていないらしかった。つまんないな。

「ルイさんね、すごい頭いいんだよ。街中で揉めてた人たちのこと、冷静に仲裁してくれたんだ。あと、街のゴミ捨て場で起きた火事がそばに置いてたガラスのせいだって解決してくれたの! でもそんなにすごいのに、全然得意げにならないんだよ」
「あー、そーなんだー」

 しかもいらん情報まで教えてもらった。オレより先に異世界無双するんじゃない。



 城内に帰るため、フォルと石橋を渡る。
 と、城の方からこちらに向かってくる人影に気づいた。
 ロゼだ。
 あっ、偶然だね、どこ行くの? とオレが話しかけようとしたとき、先にフォルが声を上げた。

「ロゼちゃん?!」
「フォル?!」

 その声で、ロゼはフォルとオレの姿に気づいた。

「うわー!! ロゼちゃんだー!!」

 フォルは手を振りながら駆け出し、ロゼに飛びついた。

「久しぶりー!! 元気にしてたー?!」
「ち、近い近い! 苦しい!! 一週間前会ったんだから、そんな久しぶりでもないだろう」

 フォルがロゼをぎゅーっと抱きしめ、ロゼはちょっと照れてその肩を逆に押す。へー、ふーん。なるほどこれは……ほーん? これはこれで結構好きだぜオレは。
 フォルは満足した顔で離れて、ロゼのそのくるくるした赤髪をいじり始めた。全く百合百合しくてけしからん。

「だって、会いたかったんだもん。ロゼちゃんは、今から家に帰るとこ?」
「ああ、仕事が終わったからな。フォルは拠点に戻るところか?」
「うん! 今日はね、第二部隊の用事と宮廷画家のセキくんの案内のために、城下街に行ってたんだよ」

 そう言って、オレを手で示す。ロゼはニコッとオレに笑いかけた。

「ああ、セキなら知っている。昨日私が護衛担当だったんだ。それと……セキは、フォルより一つ年上だぞ」
「ほぇ?」

 ロゼのその言葉に、フォルはこてんと首を横に傾げる。
 ……数秒して、フォルは手を口に当ててオレを見た。

「えっ……えーっ! 嘘! ご、ごめんなさい! わたしってばてっきり……はわわどうしよう! すっごい馴れ馴れしくしちゃったよ!!」
「アンタもか!!! っじゃなくて、別にそんなの気にしなくていいよ。それにほら、フォルの方が先輩だし?」

 昨日ロゼに言われたことを、そのまま使う。
 というか、フォルは十八歳か。意外にもロゼの方が一つ年下か。色んな意味で可愛いな。
 けれどフォルは気にしているのか、しゅんとした顔をする。

「隊長さんには、『国王様や大臣さん、年上の人には敬意を払うこと。けれどメイドさんたちとは仲良くしていいよ』って教えてもらったけど、未だに三階の人はどうすれば良いのかわからないなぁ……」
「それは私も同意だ。劇団にいる歳の近い少女にまで丁重に接するべきかどうか……」

 ロゼもそう同調し、うーんと二人で悩みだす。
 なるほど。つまり芸術系の職業の階級は結構ふわふわで、周囲からのイメージは政治家以下使用人以上、ってとこか。

「少なくとも、オレは気使わなくってオッケーだよ。もし他にも騎士団に年の近い女の子がいたら、そう伝えといてよ」
「うん、わかった! でも、騎士団員に十代の女の子は、わたしとロゼちゃんくらいなんだよね」
「えっ、そうなの?!」

 フォルはさらりと言ったが、オレにはかなり衝撃だ。

「つまり、何百人もいる騎士団員の中で、二人しかいない女の子が偶々オレ担当だったってこと?!」

 何それSSRじゃん。神引きじゃん。ガチャなら超大成功じゃん。どうしよう早速運使い果たしたかもしれない。もしくは異世界ハーレムの波が来ているのでは???
 しかしロゼが首を横に振った。

「いや、偶々という訳ではないはずだ。恐らくセキ程度の男なら、例え暴れ出したとしても私達でも容易く対処できると判断されたのだろう」
「あーすっごい納得」

 運は使い果たしていなかったらしいが、何故だろう、悲しい。
 打ちひしがれていたら、フォルが思い出したようにぽんと手を叩いた。

「そうだ、ロゼちゃん! セキくんがね、絵の具を探すためにメディル村に行きたいんだって。第三部隊の方で馬車を出すことってできるかな?」
「ああ、恐らく可能だ、今から相談してみようか?」
「それはありがたいけど、帰るとこなのにいいの? 明日でいいよ」
「まだ日も高いし、それくらい構わない。城の馬車の出し入れは、第三部隊わたしたちの大事な役目だ」

 そう言ってロゼは、得意げに胸を張った。
 隣でにこにこしていたフォルは、突然ハッと姿勢を正した。

「お仕事と言えば、わたし手紙を届けに行かなくっちゃいけなかった! ごめん、先に行くね!」

 またね、ロゼちゃーん! セキくーん! と言って、フォルは早々に城壁の内側へと駆けて行った。

「……しかしセキ、良く無事だったな」
「え?」

 フォルが見えなくなった後。ロゼは感心と驚きが混ざった目で、オレを見た。

「フォルの付き添いで街に出た男は、だいたいアザや骨折を作り、逮捕書を手に帰ってくるものだが」
「怖過ぎだろ」
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