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列車星々

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「ありゃあ、影のもんか」

 今度は隣の麦わら帽子の老人がそう呟くと、僕はため息を吐き出す。

「ええ。こんなところに紛れるとは」

「ああ、放っておけばいいさ」

 星は続々と落ちていた。光の帯がざぁっと薄青い空に白い線を残していく。

「ここにいる奴らは知らんのだろうなぁ」

「ええ。銀河を進みすぎて、自分達が飲み込まれてしまったなんて、夢にも思いませんよ」

 背後からは、真っ暗な闇が追いかけてくる。

「今はまだ、振り返ってはいかんよ。私たちは歓喜しているところだ。これが自分達とは知らずにね」

「ええ。けれど、のんびりはしていられません」

 上を見上げれば、影の者達は真っ黒のカーテンの端を捕まえているように、彼らが飛んだ後は暗闇が訪れる。

「そいや、君はどうしてこの列車に乗っているんだね」

 麦わら帽子の老人はにやりとした顔で聞く。手にはワインの入った瓶をぶらぶらとさせている。

「分かりきったことを」

 僕はそう答えて、最後のパンのかけらを口に投げ込む。

「狂った時間軸を戻すには、僕が必要でしょう?ボス」

 ボスは前を見てにやりと笑った。

「君が列車に乗り込むのを、ずっと待ってたよ。これが全てのはじまりだった。たしかそう言ったね」

「さぁ。思い違いではありませんか」

 麦わら帽子の老人は、喉を鳴らしてワインを飲むと、げふっと息を吐き出す。

「そうかな。ま、私は高みの見物でもしているよ」

「少しくらい、手伝ってくれてもいいと思いますが」

 僕は立ち上がると、暗闇へと体を向ける。銀河が続々と流れていき、星達は暗闇の中でか細く長い線も残せずに消滅していく。

「私の知っている君は、そんなこと言わない奴だったはずだがねぇ」

「未来の僕の話しをされても、聞く耳は持てません」

 ボスはやれやれと息を吐き出して、渋々立ち上がると、ワインの瓶を未練がましそうにぶらぶらさせたあと、意を決して投げ捨てた。
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