試奏する銀杏

ながめ

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媒体にも其其

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「どちらで?」
「家まで」
「違いますよ?」
「はい?」
「『とにかく後ろの車を巻いてくれ!』か、それとも『お前とならどこまでも!』の二択でお願いします」
「そんな映画みたいなこと…」
「どちらですか?」
「…『お前とならどこまでも!』」
「へぇー」
「なんだ?悪いか?」
「政治家の方だから、こういうのは乗らないかと」
「…いつどこで見られているかわからないからな」
「大変なことで」
「ま。こういう風にして好感度を上げてもいる訳だ」
「したたかだ」
「結局、どこまで人を知ってもらうかだからな」
「でも、こんだけメディアが広がると大変でしょう?」
「見方は二つある。一つはテレビという単一的なもので測られたほうが楽なのは楽。ただ、良くも悪くも好きなことは話させてくれないからな。台本とまでは言わないが、見せたいようにしか見せない。それに対してどのように順応するか、もしくはいなしていくか…そこらへんの面倒さはあるが上手く使えればこれだけ効果的なものはない。視聴している母数が桁違いだからな。もう一つは、複数のメディアで発信して多角的に見てもらうことなのだが…これは確かに良いことであり、こちらの見せたい姿を見せることができるというのは非常にありがたいことなのだが、問題は意外と広くは届かないという点だな」
「あなたは?」
「後者だな」
「即答ですね」
「いや、実際に大変なのは大変だ。揚げ足も取られやすいが…」
「が?」
「結局、自分で発信するほうが伝わりやすい、いや、誤解が少ない、か」
「なるほど」
「まぁ、あとはまだ若いというのも大きいだろうな。これが歳をとってくると政策一つ話すにも色々なこと…党内の情勢とかバランスを色々と考えなきゃならないから、そこの自由がなかったり、そもそも発信できるだけの体力的余裕がなくなったりするものなのだが、ありがたいことにまだまだ出来そうだ」
「そんなもんですか…」
「君はどうだね?」
「はい?」
「今の時代、大変じゃないのかい?」
「いやぁ、私は一介の一市民ですから」
「いや、違うな。個人のタクシーにしては、ユーモアがありすぎる」
「そうでもないですよ」
「ネタ帳は上手く隠しておいた方が良いと思うが?」
「あら、めざといのですね」
「仕事柄、見えてしまうのだよ、そういう書類系のものは…」
「ふぅん…まあ、副業で芸人もやっていますけれども」
「違うな。こちらが副業だ」
「いやぁ、どうですかね…?」
「夢のある方を職業というべきだとは思うがね」
「ではお言葉に甘えて、こちらが副業ということにさせてもらいます」
「でもソチラも大変だろう、言葉狩りも少なくないし、こうもメディアが多いと、見るべきもの、知っておくべきことが多岐にわたりすぎる」
「まぁ、流行は新鮮さが第一ですから、一歩でも遅れようものならすぐに振り落とされて終わり、みたいな所は感じていますね」
「実際、コンテンツを作ってる人たちはどこまで把握して作ってるのだろうね?私はもう、漠然としていて諦めてしまったよ…」
「ま、見れば見ているほど、ネタには事欠かないという一面が大きいですかね」
「というと?」
「確かに、コンプライアンス等で表現できることは狭まってきてます。しかし、そんな中で、メディアの広がりは大きくなってきている…この隙間隙間を上手く掻い潜っていくことができれば、面白さで売れる可能性としては決して悲観的なばかりではない」
「なるほど…そうなるとあとは表現の問題かね」
「そうですね…自分らしい表現は本当に大変ですね、そういう意味でいうと」
「運転手をやっているのもその一環かね?」
「ま、まちまちですね。人を見て、話しをキャッチアップしたり、反対にネタをやってみたり、大事なのは時間を無駄にしないことのような気がします」
「…向きが反対だな」
「いや、合ってますよ」
 ミラー越しに見る彼はなんだか楽しそうだ。
「で、どこまで行くつもりなんだ」
「家の前まででよろしいですか?」
「どうだ?ウチに来たいとは思わんかね?」
「滅相もない。そんなことをしなくても、やがて常に見ることになりますよ、テレビとかでね」
「随分と強気だな」
「あなたもそうでしょ?」
「ふん、できれば良い人で居たいのだがな」
「実際は?」
「逆だろうな」
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