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後先ない航海
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明日、大海に出る。
そんな、あとあと考えたら後悔しかしない決心を時々してしまう。
いや、今回の場合、生きて帰って来れるか分からないのだから、後悔も何も無いかもしれない。その方が良い。
どうなってしまうか、考えてみる。
舟は木で出来ている。動力はない。ただ、漂うだけだ。オールも何も持ち得ず、潮の赴くまま漂う。ええ、もしかしたら遠浅に出ることなく、そのまま岸辺へ着くかもしれない。そんなつまらないことがあるだろうか、と思うのだけれど、今までのしょうもない人生を鑑みるにそれは否定できず、寧ろ八割型そうなるだろうと想像がつく。悲しいが。
運良く、海へ出たらどうだろう。まず、船酔いで粗方の腹のものは吐き出してしまうだろう。それはすこぶる快感だ。今夜は明日のためにたらふく好きなものを食うのだ。その幸福を、たった一夜にして盆に返すのだ。なんという快感。なんという幸福。しかし、私はその幸福にしばらくは気づかないだろう。おそらく、船酔いの不快感に耐え切れないから。ただ揺れて揺れて揺れて朦朧とする意識のなかでようやく、海面に浮かぶゲロを見て自分の幸福と、その先の未来を知るのだ。そのゲロは自分だ。くだらず、恵まれているかも分からず、ただただ蒙昧のまま死にたいと願っている下劣な感情の総体。そこに秩序はなく、その上、大した決心もできない。ええ、本当は死にたいと願いながら、もしかしたら、遠浅に出て、もしかしたら、横転して、もしかしたら、溺れて死ぬ…そんな、もしかしたら、を重ねて、心の中ではそう願いながら、自分で死ぬことを選ばずに逃げ切ろうとしている、余りにも弱い自分を見つけるのだ。
なんと悲しい存在。今に死んだ方がいい。
ほら、見てみろ。ゲロに魚が集まってきているだろう。その生命力を見習って今すぐ後悔するべきなのだ。いや、後悔し続ければ良いのだ。それか、羨んでも見るか?でも手を伸ばしても、その魚一匹手に届きやしない。あとはただ無限に空腹が続くだけで、幸せになることは許されない。
やがて暗くなるだろう。思えば、太陽の暑さが恨めしかったが、今では夜の寒さが恨めしいだろう。そうすれば、全てが死ぬ理由に収束して行くに違いない。見渡す限りの空、見渡す限りの海、この暗さ。こんなにも自然に囲まれているのに、見つけるのは自我だけだ。寂しいかい?なら、耳を澄ませて見ればいい。波の音が聞こえるだろう。いつかの、思い出したくも無い夜のことばかり思い出さないかい?一緒にいるのに遠い夜、誰にも理解されないまま過ぎていく日々、ずっとずっと孤独、結局どこまで行っても孤独で、誰一人として許してくれないような、そんな夜ばかりだろう?嗚呼、明日、月が出れば良いのに。しかし、月は出ない。やがて雲が厚くなるのを見るだろう。傘などなく、雨はそのまま舟へと溜まっていく。わずかに残っていた内燃する熱も奪われていく。地上にいる時から飢えていた人肌の温もりはもはや遠い過去になるばかりだ。寂しいが、ずっと一人。生きている限り。
それを思い出した時、私は舟に溜まる雨水を掻き出すのをやめて、寝転んでひたすら打たれることを選ぶ。だんだん沈み行くのを感じるかい?それは心地よいことかい?せめて、横転しないことを願ってバランスをとる。やがて、抵抗空しく舟の淵から海水が流れ込んで横転する。
きっと、数秒はもがくだろう。でも、やがて諦めるさ。どこにも無い土地に思いを馳せるほど、愚かでは無いから。せめて、昼間に死んで、太陽を拝みたかったと思うだろうか。
しかし、存外に海は温かい。ただ口は辛く苦い。昨日、好きなものを食べていて良かった。それだけのためだ、食事なんて。そして、きっと慣れ始める。自分の体温が奪われて、だんだんと私が海になる。そのまま沈んで、大きな自然の一部となる。
覚悟が出来たら魚が来る。ウキウキした目でやってくる。美味しそうに見てくれることを喜ばしく思う。昨夜の夕飯と一緒だ。どこから食べるだろうか。やはり腹からだろうか。自分の食べやすい部分を考えると意外と難しい。幸いにも中肉中背なので、食べるところには困らないだろう。やはり人々は適度に堕落していた方が喜ばしい。
魚たちが体を食べ、海を血で汚していく。自らがその辛さと苦さの原因となる。意識はどこにあるのか知らないけれど、海に溶けて仕舞えば良い。そしてどこまでも自分の体がどこへ向かうのかを探求したい。私を食べた魚は大きな魚が食べ、やがてそれは漁師に釣られ、食卓に並ぶ。私の意識はといえば、雨に混じって世界に降り注ぐ。転生はしないだろう。ずーっと自分のままで、孤独にいたい。
そんな、あとあと考えたら後悔しかしない決心を時々してしまう。
いや、今回の場合、生きて帰って来れるか分からないのだから、後悔も何も無いかもしれない。その方が良い。
どうなってしまうか、考えてみる。
舟は木で出来ている。動力はない。ただ、漂うだけだ。オールも何も持ち得ず、潮の赴くまま漂う。ええ、もしかしたら遠浅に出ることなく、そのまま岸辺へ着くかもしれない。そんなつまらないことがあるだろうか、と思うのだけれど、今までのしょうもない人生を鑑みるにそれは否定できず、寧ろ八割型そうなるだろうと想像がつく。悲しいが。
運良く、海へ出たらどうだろう。まず、船酔いで粗方の腹のものは吐き出してしまうだろう。それはすこぶる快感だ。今夜は明日のためにたらふく好きなものを食うのだ。その幸福を、たった一夜にして盆に返すのだ。なんという快感。なんという幸福。しかし、私はその幸福にしばらくは気づかないだろう。おそらく、船酔いの不快感に耐え切れないから。ただ揺れて揺れて揺れて朦朧とする意識のなかでようやく、海面に浮かぶゲロを見て自分の幸福と、その先の未来を知るのだ。そのゲロは自分だ。くだらず、恵まれているかも分からず、ただただ蒙昧のまま死にたいと願っている下劣な感情の総体。そこに秩序はなく、その上、大した決心もできない。ええ、本当は死にたいと願いながら、もしかしたら、遠浅に出て、もしかしたら、横転して、もしかしたら、溺れて死ぬ…そんな、もしかしたら、を重ねて、心の中ではそう願いながら、自分で死ぬことを選ばずに逃げ切ろうとしている、余りにも弱い自分を見つけるのだ。
なんと悲しい存在。今に死んだ方がいい。
ほら、見てみろ。ゲロに魚が集まってきているだろう。その生命力を見習って今すぐ後悔するべきなのだ。いや、後悔し続ければ良いのだ。それか、羨んでも見るか?でも手を伸ばしても、その魚一匹手に届きやしない。あとはただ無限に空腹が続くだけで、幸せになることは許されない。
やがて暗くなるだろう。思えば、太陽の暑さが恨めしかったが、今では夜の寒さが恨めしいだろう。そうすれば、全てが死ぬ理由に収束して行くに違いない。見渡す限りの空、見渡す限りの海、この暗さ。こんなにも自然に囲まれているのに、見つけるのは自我だけだ。寂しいかい?なら、耳を澄ませて見ればいい。波の音が聞こえるだろう。いつかの、思い出したくも無い夜のことばかり思い出さないかい?一緒にいるのに遠い夜、誰にも理解されないまま過ぎていく日々、ずっとずっと孤独、結局どこまで行っても孤独で、誰一人として許してくれないような、そんな夜ばかりだろう?嗚呼、明日、月が出れば良いのに。しかし、月は出ない。やがて雲が厚くなるのを見るだろう。傘などなく、雨はそのまま舟へと溜まっていく。わずかに残っていた内燃する熱も奪われていく。地上にいる時から飢えていた人肌の温もりはもはや遠い過去になるばかりだ。寂しいが、ずっと一人。生きている限り。
それを思い出した時、私は舟に溜まる雨水を掻き出すのをやめて、寝転んでひたすら打たれることを選ぶ。だんだん沈み行くのを感じるかい?それは心地よいことかい?せめて、横転しないことを願ってバランスをとる。やがて、抵抗空しく舟の淵から海水が流れ込んで横転する。
きっと、数秒はもがくだろう。でも、やがて諦めるさ。どこにも無い土地に思いを馳せるほど、愚かでは無いから。せめて、昼間に死んで、太陽を拝みたかったと思うだろうか。
しかし、存外に海は温かい。ただ口は辛く苦い。昨日、好きなものを食べていて良かった。それだけのためだ、食事なんて。そして、きっと慣れ始める。自分の体温が奪われて、だんだんと私が海になる。そのまま沈んで、大きな自然の一部となる。
覚悟が出来たら魚が来る。ウキウキした目でやってくる。美味しそうに見てくれることを喜ばしく思う。昨夜の夕飯と一緒だ。どこから食べるだろうか。やはり腹からだろうか。自分の食べやすい部分を考えると意外と難しい。幸いにも中肉中背なので、食べるところには困らないだろう。やはり人々は適度に堕落していた方が喜ばしい。
魚たちが体を食べ、海を血で汚していく。自らがその辛さと苦さの原因となる。意識はどこにあるのか知らないけれど、海に溶けて仕舞えば良い。そしてどこまでも自分の体がどこへ向かうのかを探求したい。私を食べた魚は大きな魚が食べ、やがてそれは漁師に釣られ、食卓に並ぶ。私の意識はといえば、雨に混じって世界に降り注ぐ。転生はしないだろう。ずーっと自分のままで、孤独にいたい。
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