姿化ける病気

ながめ

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姿化ける病気

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 人間でなく、猿でなし。これは本で読んだ宇宙人ではないか。
 果たして私はそれに化け、夜な夜な出没する。いつもの姿や人間とは違い足が多いのでなんとも言えない歩きにくさを感じつつ(そもそも生きている状態を見たことがないので、果たしてこの歩き方であっているのか、非常に判断し難いところではあるが)驚く人を見るたびにそれはそれは楽しい夜分である。
「ほれ、おじいちゃん、あなたも聴いたじゃろ?」
 そう聞こえて耳を傾ければ、皆その話をする様になった。「宇宙人の出る町」…それはこの片田舎の町おこしにはなかなか持ってこいのものだ…そう囁かれるようになった時、私は辞めた。これ以上はただの退屈にしかならない。
「では、次はレクリエーションの時間です。今日は後ろの正面でもしましょうか」
 介護のお兄さんがそう話す。それは良い、それは良いと老人たちが椅子を中心に一つ置き、それ以外は片付けてしまう。
 やがて、兄さんの声に合わせて老人たちは一人を座らせて回り始める。
「後ろの正面だぁれ?」
 居たのは私である。
「果たしてあなたは誰じゃいのう?」
 みんなその様なことをいう。ここにいる人たちは、もうここにいる以外は居場所のない人たちだ。この様にしてでも無理矢理に記憶を引き出してやらないと自分のことさえ忘れてしまう人たちだ。これは慈善事業である。
「話せばわかりますよ」
 もちろん、化けてる私に思い出す記憶など初めからなく、本で読んだことの切り貼りでしかないのだが…
 そんなある日のこと、老人ホームは突如として閉鎖されてしまった。どうやらパンデミックの温床になってしまったらしい。心当たりはある。あの、車か飛行機かわからないものにあったカプセルだろう。不用意に開けてしまったのだが、あれになんらかの細菌が潜んでいたのだろう。テレビのニュースでも「地球産ではない」とハッキリ言っていた。それが「宇宙人の出る町」から始まったのだから、それはそれは人が押しかけててんやわんやになった。しかし、インバウンドにはちと遅かった。もう、軒並み店は閉じた後だったから。
 さて、不用意に押しかけて来た人たちが病原菌を持ち帰り、だんだんと市街地へと広がっていき、世界の隅々にまで到達した。さまざまな人が熱を出し、さまざまな人が死んだが、さまざまな人が努力をし、結局十年くらいかかったもののの、なんとかこれを克服した。
 さて、そこからすぐであろうか。宇宙から艦隊がやってきた。勿論、私が初めに見つけた彼のお友達である。今回こそは完全に地球を乗っ取ろうと、それはそれは息巻いてやってきたわけだ。
 計画は半分上手くいって、半分上手くいってなかったと言ったところ。流行病の結果、地球人が少なくなり手薄になったこの星に早々と攻め込み拠点を築いたところまでは良かったが、ここでもネックになったのは同じく細菌であった。全く地球産の抗体を持たない宇宙人たちはあれよあれよという間に風邪をひき、そして倒れていった。もしかすると、初めの彼は危険性のある病原菌を持って帰る予定だったのかもしれない。それだと誠に申し訳ないことをした。狩猟用の罠だと思ってコードを引きちぎった私のせいなのだから。
 また、驚いたことは歩き方が私の想定した通りだったことだろう。もう少し褒められてもいいところであるが、いかんせん誰にも誇ることができないのは好きもの故の友達がいない性分によるもの。これに関しては素直に寂しい。
 さて、この事態に際して地上に居た部隊が宇宙へ引き上げるが細菌はそこで止まることはなく、それどころか大蔓延したらしく、宇宙船とその遺構は丸々残されたまま全滅してしまった。そして今度は地球人が(ちゃんと洗浄をしながら)宇宙船を検分し、ついにその技術を盗み、今度は彼の地へ攻め立てようという準備の段である。
「まるで見てきたかの様に話すのね」
「違うのだ、見てきたのだ」
 私は人間の姿から狐の姿に戻る。そして宇宙人の姿にもなってみる。歩きもすんなりと行く。どうだい、たいしたものだろう?
「…どれが本当の君なんだい?」
「さぁ、忘れてしまってね…」
 人間の姿に戻り、中央の椅子に座り直す。
 窓の外には地球が見える。綺麗で汚い星。さながら宇宙は無菌室だろうか。あ、次は宇宙に化けるのも楽しそうだなぁ。
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