罪膨らむ祝祭

ながめ

文字の大きさ
1 / 1

罪膨らむ祝祭

しおりを挟む
 最近は資本主義の影響か、金さえ払えば得られるサービスもドンドン増えてきて、こと料理の世界では骨を嫌がる子どもたちが多くなってきた。なんて贅沢な子どもたちだろうと思うのだが、これに対応しなければ商売は上がったりである。仕方ないので、骨抜きの料理を開発するために色々と方法を調査してみたのだけれど、食材が特殊だからか、なかなか上手いこと見つからない。
 そのような折、とある村の祭りについての記事を読んだ。なんでもその村では罪人の骨を抜いた後に息を吹き込むことで体を膨らまし、その体を皆で弾ませることでそれぞれに罪の重さを知らしめる儀式があるらしい。少々時間はかかるが仕方あるまい。なに、長い修行期間に比べればなんて事のない距離である。早速行ってみるとする。
 着いたところは、熱帯雨林の奥。まだまだ未開といった雰囲気だが、だからこそ野性の勘がそこかしこに残っているのだろう。私は渡航の許可証を空港で見せた後、立派な舗装された道路を真っ直ぐにその国の王に謁見し、本音の事情と、建前の大金を渡した上で、その祭りが行われている村へ、悪路で向かった。
 大方は話どおり、処刑の場であったものの、同時に晴れの場でもあるらしいというのが驚きであった。見せしめが村の共同体としての意識を強固にしているのである。残念ながら、言語の壁でもって罪状こそ分からなかったものの、それなりの大罪であることは、今から行われることの描写からも確かであろう。
 まず持って、罪人は身ぐるみを剥がされた状態で壇上に上がらされる。群衆がぐるっと囲むステージの真ん中に四畳半ほどの石台があり、罪人はそこで四つん這いになる。
 そこに執行者がやってくる。四つん這いの罪人の周りを歩きながら観客に今から祭りを執り行わんとする大太刀を披露する。そして、数分に渡り回ったのち、にわかに罪人を跨ぐ。ちょうど、馬乗りの形であるが、そこから太刀の先を素早く背筋に這わして一閃に切れ目を入れる。その絶妙な刃捌きは首元から一線、尾骶骨まで沿って降りていく。そこまで一息。やがて、執行人が「ハッ!」と声をかけ、首の付け根の骨をバキっと叩き折る。すると、罪人の頭は項垂れ、叩き折った背骨のお尻側から先端がグイッと顔を出す。そこからは素早く首元をテコの原点にしながら背骨を掴んでグッと引き抜く。背骨もろとも肋骨が抜かれるが、あまりの早技のためすぐに切り口は閉じる。
 ただ、油断はならない。そこから肩甲骨をスライドさせて同じ切れ目から抜き取るのだ。これもまた早技で、あっという間に罪人の胴体部分は四つん這いのまま骨抜きになったのである。
 執行人はというと、すでに太刀を鞘に納めていた。誠に見事な刀捌き。そして直ぐに針と糸を懐から取り出し傷口をシッカリと縫い合わせた。王さま曰く、今回の執行人はかなりの名手。ベテランとは言わないまでも、次の世代を任せられるセンスがあるのだが、それは出血量の少なさに見て取れる。ギッと糸を結び締めるまで、血は僅かにテコの起点とたった首元の部分から垂れるだけであり、それ以上の出血はほぼほぼなかった。
 まさしく、名人芸である。
 さて、ここまで見れば私としては満足なのだが、この儀式の見どころはここからである。
 縫い直して空気を逃さないようにすると、執行人は徐に罪人のケツの穴にストローのようなものを突き刺し、自分の口で罪人に息を吹き込む。そのようにして、罪人を膨らますのだ。
 ちなみに、この村でもあらゆるところで開明的になっており、ジェンダーフリーも進みつつあるらしいのだが、この刑の執行人に関してはこの膨らませる作業に足る肺活量が女性ではどうにも足りないらしく、未だ男だけの職業になっているらしい。無論、機械化の話もなくはないらしいが、それは罪の重さを知ることにならないからと言う反対意見もあるらしい。どこの世界でも性差の課題は山積みである。
 そんなことを考えている間に、四つん這いの体は膨らんできて、脚と手で支えていたところに腹も合わせて支えるくらい、罪人の体は膨らんできた。罪人の顔は自らの体がパツパツになってきたことを感じ、汗も滲んできて、かなり苦しそうである。
 さて、無事に膨らみ切った体はやがて浮き始める。執行によっては途中で破裂することもあるらしいが、今回は幸か不幸か破裂しないまま宙に浮いている。
 宙に浮く罪人は、やがて寄ってきている観衆の元へと投げ込まれる。そして観衆は彼が地面につかないよう、ちょうど風船遊びの要領で宙に浮かせ続ける。
 ちなみに、私のところにも回ってきたので、他の観客に倣って膨らむ罪人を宙へと弾き返したのだけれど、これがなかなか重い。なるほど、こうやってこの村の人たちは罪の重さを知るのだな。原始的ではあるが、確かである。なんでも学びである。
 さて、膨らむ罪人は何周かして台の上へと戻される。執行人は膨らむ罪人が何周かしている間に最後の用意をしていた。
 執行人はその手でまるでバレーボールのレシーブのように、膨らむ罪人を宙でキープさせながら、少しずつではあるがだんだんと高く飛ばし、その対空時間を長くさせていく。
 ポーン。
 ポーーン。
 ポーーーーーン。
 そして対空時間を長くしながら、用意していた弓に矢をかける。
 また、同じく観衆たちはその光景に目を奪われながらも、中央の石台から離れていく。
 そして、最後の宙への弾き飛ばし。
 ポーーーーーーーーーーン。
 その最高度の瞬間ピッタリに執行人は狙いを澄まし、次には弓からスッと矢を放った。
 放たれた矢はちょうど膨らむ罪人の臍に刺さり、それはスパーンと綺麗にまさしく風船の如く破裂、飛び散る肉塊と血は雨となって地に降り注ぐ。そのなかから執行人は見事に首だけをガッと掴み取る。そして、台座の上でそれを掲げる姿に、観客は惜しみなく拍手を送るのだ。
 もちろん、私も同じである。
 そんな強烈な記憶が新しいまま、帰ったあと直ぐに試してみたが、なかなか上手くいかない。ただ、根気よく3年ほど費やしたあと、ようやく料理へと転用できるようになった。
 皿の上には膨らむ胴体、そしてそれを肋骨が支える…かの祝祭を模したのだ。割ると中からミートボールがゴロゴロと出てくる。そのまま食べても良いのだが、これを皮で再度包んで食べるのが通である。間違いなく世界初の一皿。ここから味付けなどでまた研究と研鑽の日々が始まるが、客たちにはまずまず好評だ。
 料理名は「罪膨らむ祝祭」。意外と量があるので、家族で丸ごと一体を食べるのがオススメだ。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

可愛らしい人

はるきりょう
恋愛
「でも、ライアン様には、エレナ様がいらっしゃるのでは?」 「ああ、エレナね。よく勘違いされるんだけど、エレナとは婚約者でも何でもないんだ。ただの幼馴染み」 「それにあいつはひとりで生きていけるから」 女性ながらに剣術を学ぶエレナは可愛げがないという理由で、ほとんど婚約者同然の幼馴染から捨てられる。 けれど、 「エレナ嬢」 「なんでしょうか?」 「今日の夜会のパートナーはお決まりですか?」  その言葉でパートナー同伴の夜会に招待されていたことを思い出した。いつものとおりライアンと一緒に行くと思っていたので参加の返事を出していたのだ。 「……いいえ」  当日の欠席は著しく評価を下げる。今後、家庭教師として仕事をしていきたいと考えるのであれば、父親か兄に頼んででも行った方がいいだろう。 「よければ僕と一緒に行きませんか?」

いまさら謝罪など

あかね
ファンタジー
殿下。謝罪したところでもう遅いのです。

意味が分かると怖い話【短編集】

本田 壱好
ホラー
意味が分かると怖い話。 つまり、意味がわからなければ怖くない。 解釈は読者に委ねられる。 あなたはこの短編集をどのように読みますか?

不倫の味

麻実
恋愛
夫に裏切られた妻。彼女は家族を大事にしていて見失っていたものに気付く・・・。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

処理中です...