借金ホスト

美国

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誕生日

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今月は俺の誕生月だ。今月は特に、ランキング常連になり、蓮二さんに継ぐプリンスの看板ホストになった俺を、プリンス全体で持ち上げてくれていた。誕生月というのは、ホストにとっては何が何でも売り上げを上げなければいけないという意地が出るらしく、最初はいつもと同じようにしていた俺も、周りに感化されてだんだんと本気を出すようになって来た。誕生月だと言うと、普段は開けてくれないような高級シャンパンがじゃんじゃん開いていく。なるほど、もしかしたら今月ばっかりは、蓮二さんと互角に張り合えるかもしれないな、と自分でも思っていた。

そしてとうとう今日が来た。俺の誕生日当日。いつも俺を指名してくれる客が、こぞって来店して来て、どんどんとお酒を注文する。今日のために、セラーいっぱいのシャンパンが仕入れられているが、その備えもあっという間に開けられては減っていった。お客さんの入れ替わりも激しく、普段よりバタバタしている店内だったが、さらにどよめきが起こる。店の入り口の方からだった。接客中ではあったが、目の前のお客さんの目につられてこえがした方に顔を向けると、そこには、事務所の部下を連れた神田さんが派手なスーツで立っていた。

俺は指名が入ったからちょっと席外すね、と接客していたお客さんに声をかけると、早足で神田さんの元に向かう。
「ど、どうしたんですか!こんなところに!」
驚きで食い気味になる。
「今日はお前の誕生日だろ。まあ返済も順調だし、少しぐらいお祝いでもしてやろうかと思って」
仏頂面だが、これは照れてる顔だと、ここしばらくの様子で俺は知っている。
「それは、ありがとうございます!」
満面の笑みでお礼を言うと、彼は顔を赤くした。

「いらっしゃいませお客様。瑞樹、こちらの方は…?」
女性の客ばかりのこのホストクラブに、いかにもな男4人が来店したことで、不審に思ったオーナーが裏から出てくる。
「あ、この方は少し前からだいぶお世話になってる方なんです。」
さすがに借金取りだということは伏せて置いた方がいいと判断し、咄嗟に遠回しの言い方をする。まあ、もともと借金してるなんて誰にも言ってないし、話がややこしくなるだけだしな。

「…そうでしたか、失礼いたしました。それでは、VIPルームに案内させていただきます。」
瞬間的に何かを察したからなのか、ヤクザをこのままホールにお連れするわけにはいかないからなのかは分からないが、オーナーは神田さんたちを個室のVIPルームへと案内した。この部屋は、かなりの太客もしくは芸能人、そして今のようなホールにお連れすることができないお客様の場合に使用するものだ。外の会話も、中の会話も漏れることはなく、たまにプリンスの重要事項の話し合いなどで使われていたりもする。まあ、神田さんたちのことはあまり知られたくないし、俺にとっても好都合だった。


「それじゃ、好きなの頼めよ、瑞樹。」
席に着くと、注文を聞く間も無く、神田さんが言う。
「え、あ、じゃあ、神田さんの好きな甘口のシャンパンにしましょうか」
「お前の飲みたいのでいいよ、今日はお前の誕生日なんだし」
なんでもないことのようにぶっきらぼうに言うが、これは多分高い酒を頼めと言われてるんだろう。うーん、でも普通のお客さんと違って神田さんは俺に金を貸してくれている立場の人だしなあ、と迷っていると、神田さんは勝手にボーイを呼ぶ。


「ロマネコンティ持ってきて」


ええええええええええと叫びそうになる。この店じゃ最高級のワイン、1本180万だ。俺が開けてもらったことはまだなく、頼む人なんているのかな、なんて思っていたがまさかここにいたとは!

「か、か、神田さん???そんな、誕生日だからって、おれ」
「俺の気持ちだよ、それにこんくらい俺からしたら別になんでもない額だ。ありがたくとっとけよ」
そ、そんな…。たしかにかなり稼いではいるらしいが…とうろたえているとロマネコンティが運ばれてきてしまった。ボーイたちのコールにより一斉に店内が騒がしくなる。少し外の様子を覗くと、蓮二さんや和哉、先輩たちも興味深そうな顔でこっちを見てくる。そりゃ、ロマネなんて頼んだら注目も浴びるわな…。


「おらよ、ついでやるから飲め。」
最高級ワインがつがれ、乾杯の後神田さんと同時に口に含む。

「誕生日おめでとう、瑞樹。」
可愛い可愛いと思っていたが、こんな男前な一面があったなんて。神田さんに惚れそうになるところだった。

「それにしても、すごい部屋だよな。ここ。政府の要人でも来そうな雰囲気だ」
少し落ち着いてからは、ゆったりと飲んでくつろいでもらっている。この個室は、内装にも拘り、ソファーもテーブルも海外製の高級品だ。普段から優雅な暮らしをする神田さんにも、お気に召したようである。


「はい。防音もしっかりしてて、本当にVIP専用のつくりになってます。」

「ふーん、防音ね。それじゃあさ…」
普段は見せないような妖艶な顔で近づいてきた神田さんに、手を顔に添えられた瞬間だった。

「失礼いたします。お楽しみのところ申し訳ありませんが、瑞樹に指名が入りましたので、しばらくお借りいたします。この部屋には、他のウチの看板ホストをお呼びいたしますので、少々お待ち下さい。」
普段はボーイがやる仕事だが、VIPだからだろうか今回はオーナー自ら接客に当たるようだ。

「すいません、神田さん。わざわざ来ていただいたのに。」
「いいよ、誕生日だし、忙しいの分かってて来たから。俺のことは気にせず接客頑張ってきな。」
男らしい笑みで送り出され、軽く顔が火照る。なんか、今日の神田さん、やっぱりいつもと違うな。かっこいい。

お客さんを待たせるわけにもいかないので足早にVIPルームを去った。オーナーに軽く肩を押されながら。オーナーが一瞬、振り返ったようだっが、俺には気にする暇もなかった。


NO SIDE
バタンと扉が閉まり、瑞樹は部屋を後にする。

「あいつ、思いっきり俺のこと睨みやがったな。」
神田が加山たちに言ったが、かなり腹立たしげであった。
「牽制…のつもりでしょうかね。」
「あれだけ売り上げてるんだから、そりゃここで女にはモテまくってるのは承知してましたが、まさか男にまでとは。」
「あのオーナーだけじゃないですよ、ホールを通り抜ける時、俺一番後ろだったから全体がよく見えましたけど、接客中のホストの何人かも俺たちに敵意むき出してました。」

「瑞樹は本当に、厄介な男だな。…まあ、ああいう奴らに守られてるからこそ、こういう世界でもあの天然が無事に生きていけてるんだろうとは思うがな。」

部屋の中では不穏な空気が流れる。全員が、この狼だらけのホストクラブから瑞樹を連れ去りたいと思っていた。


「あいつがここで働いてるのは、借金があるからだ。もともとは真面目に働いてたみたいだしな。俺が帳消しにしてやるのは簡単だが、ここまで来て俺に頼ったりはしないだろうしな。」
あんな、わざと瑞樹を縛り付けるように、1億だなんて言うんじゃなかった。そしたら、もうとっくに返済し終わっていたはずなのに。闇金としては失格であるが、1人の男として、神田は瑞樹のことを大切に思っていた。


「とりあえず今日は瑞樹の売り上げに貢献してやって、ホストの連中には瑞樹に手を出さないよう牽制して帰ろう」

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