ミチコ・オノ日記 ①

ミチコ・オノ

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ミチコ・オノ日記 ①

第5話 黒いのバカ

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わたしの名前は

オノミチコ

美術部

だから美術室が部室だ

 

部室に置いてある

辻木順平太の
作品の裏に

女子がふざけて
落書きをした







普段優しい早山先生が
めずらしく怒って
放課後
やった子達を
廊下に並べた



辻木のバカと書いたのは
犬井エリカだった



他の子がそれぞれ
自分が書いた箇所を
申告していったら

辻木のバカ と
エリカが余った

 

「辻木は  は たしかに 私が書きました
でも のバカ は書いていません!」

 

エリカは無理な嘘をついた



「わかった
明日 辻木に謝れよ」

早山先生はそう言って
女子達を帰した

 

わたしも 幼稚園の
時に 無理な
嘘ついた事がある

 

スプレー缶を拾った



わたしはそれで
近所の家のドアに 次々と
落書きをしていった

と言っても年齢が年齢だ

ただ吹きかけただけだった


すぐに大人達に捕まった




「なんでこんなことしちゃったのかな」

大人達は困ってはいたが笑顔だった

 

子供のした事だし
親同士の話し合いで終わることだ



 

なのに わたしは咄嗟に嘘をついた

 

「マスクをした
黒い女の人が やってきて
命令された」

 

「その女の人は どっちからきたの?」

「あっち」

「その女の人は どっちにいったの?」

「あっち」
わたしは迷わず 公園の方と
それから橋の方を指差した

 それ以来忘れてしまっていたが

今になってわたしは
女の人がちゃんと
そこにいたような気がしてきた






逆光で真っ黒なシルエット

スプレーが入った紙袋

「やれ」

命令した  低い声

 

女の人は

あのあと橋を渡った







 

橋を渡った女の人は

大通りに出て
タクシーを拾った



 

それから

低い声で

行き先を言った

 







 

 

わたしの

後ろをじっと見ていた

 


落書きをされた

粘土の辻木が

 

 

 
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