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23.道頓堀川水門殺人事件

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 ========== この物語はあくまでもフィクションです =========
 ============== 主な登場人物 ================
 南部(江角)総子・・・大文字伝子の従妹。南部興信所所長の妻。EITOエンジェルのチーフ。
 南部寅次郎・・・南部興信所所長。
 大前英雄管理官・・・EITO大阪支部の管理官。コマンダー。総子からは『兄ちゃん』と呼ばれている。
 足立祐子・・・EITO大阪支部メンバー。元レディース・ホワイトのメンバー。
 石動悦子・・・ EITO大阪支部メンバー。元レディース・ホワイトのメンバー。
 宇野真知子・・・ EITO大阪支部メンバー。元レディース・ホワイトのメンバー。
 丘今日子・・・EITO大阪支部メンバー。看護担当。元レディース・ホワイトのメンバー。
 河合真美・・・ EITO大阪支部メンバー。元レディース・ホワイトのメンバー。
 北美智子・・・ EITO大阪支部メンバー。元レディース・ホワイトのメンバー。
 久留米ぎん ・・・ EITO大阪支部メンバー。元レディース・ホワイトの総長。EITOエンジェルス班長。
 小峠稽古 ・・・ EITO大阪支部メンバー。元レディース・ホワイトのメンバー。
 和光あゆみ・・・EITO大阪支部メンバー。元レディース・ブラック7のメンバー。
 中込みゆき・・・EITO大阪支部メンバー。元レディース・ブラック7のメンバー。
 海老名真子・・・EITO大阪支部メンバー。元レディース・ブラック7のメンバー。
 来栖ジュン・・・EITO大阪支部メンバー。元レディース・ブラック7の総長。EITOエンジェルス班長。
 愛川いずみ・・・EITO大阪支部メンバー。EITOエンジェルスの後方支援担当になった。
 大前(白井)紀子・・・EITO大阪支部メンバー。事務担当。ある事件で総子と再会、EITOに就職した。
 芦屋一美警部・・・大阪府警テロ対策室勤務の警部。総子からは『ひとみネエ』と呼ばれている。
 芦屋二美(ふたみ)二曹・・・。三つ子の芦屋三姉妹の次女。陸自からの出向。総子からは『ふたみネエ』と呼ばれている。
 芦屋三美(みつみ)・・・芦屋財閥総帥。総合商社芦屋会長。EITO大阪支部のスポンサー。総子からは『みつみネエ』と呼ばれている。
 小柳警視正・・・警視庁から転勤。大阪府警テロ対策室室長。
 真壁睦月・・・大阪府警テロ対策室勤務の巡査。
 横山鞭撻警部補・・・大阪府警の刑事。大阪府警テロ対策室に移動。
 指原ヘレン・・・元EITO大阪支部メンバー。愛川いずみに変わって通信担当のEITO隊員になった。
 幸田仙太郎所員・・・南部興信所所員。総子のことを「お嬢」と呼ぶ。
 花菱綾人所員・・・南部興信所所員。元大阪阿倍野署の刑事。
 倉持悦司所員・・・南部興信所所員。
 南部寅次郎・・・南部興信所所長。総子の夫。
 本郷弥生2等陸佐・・・陸自からのEITO大阪支部出向。
 友田知子・・・南部家の家政婦。

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 = EITOとは、Emergency Information Against Terrorism Organizationを指す =
 ==EITOエンジェルズとは、女性だけのEITO大阪支部精鋭部隊である。==

 午前9時。大前のアパート。
 スマホで、大前は、大阪府警からの連絡を受けている。
 紀子は、下着を身に着け、洋服を着た。
「出動ね、あなた。」「お前は休んでて、エエで。」
「いや。連れてって、英雄さん。」大前は、少し考えて、「分かった。」と応え、表のバイクに2人で乗った。
 午前10時。EITO大阪支部。
「まずは、知らん人もおるやろうから、復習というよりレクチャーやな。一美、頼むわ。」と、大前は一美に話を振った。一美は資料を片手に話し始めた。
「オッケー。道頓堀の『道頓』は、人の名前であり、戦国時代から江戸時代初期にかけての商人・安井道頓(やすい どうとん、1533~1615年)の名前に由来する。本名は成安(なりやす)で、通称は市右衛門。本名は安井成安とする説と成安道頓とする説がある。道頓は道頓堀川を開削した人物である。道頓堀川は、東横堀川と木津川を結ぶ、延長約2.7キロメートル、流域面積(降った雨が川に流れ込む範囲)約4キロ平方メートルの一級河川です。川の幅は、ほぼ中央に位置する大黒橋を境に東西で変化し、道頓堀西部区間が約50メートル、道頓堀東部区間が約30メートルになります。」
「山から流れてきた川じゃないんですね?」と、本郷弥生が言った。
「そう。どこかからどこかまでの連絡する水路で堀川。『キタ』の土佐堀川もそんな感じね。死体が上がったのは、道頓堀川水門近く。知っての通り、今年は阪神タイガースが18年ぶりにリーグ優勝をして、『祝賀ダイブ』に備えて大阪府警も1300人体勢で臨んだけど、結局遊歩道使ったりしてダイブしたアホがいたわ。それはともかく、1万人越える雑踏の戎橋付近とは反対方向の水門付近は、全くの死角だった。死体を引き上げた結果、祝賀ダイブとは関係ないことが分かったわ。昔とは違ってドブ川ではなくなったけど、大腸菌うようよの水質、あの川に飛び込むのは『便器の中に飛び込むようなもの』という大学教授もいる位の水は、あまり飲んでいない死体だった。詰まり・・・。」
「殺されて遺棄されたってことね。」と二美は言った。
「うん。しかも2体。しかも、生前に痛め付けられた形跡がある、って藤島先生の所見。2体とも女性だけど、レイプの形跡は無かった。」
 一美の説明に、「じゃ、拷問されたってことね。身元は?」と、三美は尋ねた。
「これからね。顔は痛め付けられていないから、いずれ分かるかも知れない。」と一美は説明を追加した。
「それで、大阪府警としては、EITOに任せることにした。」とマルチディスプレイの中から小柳警視正が言った。
「詰まり、テロの可能性もあり、ということですか?」と大前は尋ねた。
「そういうことだ。資料は後で真壁か横ヤンに送らせる。こういうことを言うと不謹慎だが、戎橋付近でなくて良かった。マスゴミが、憶測で邪魔するからな。」
「警視正。ダークレインボウとかサンドシンドロームの関連は?」と、いずみが尋ねた。
「分からんな。もしもそうなら、何らかの声明があってしかるべきだが。一応、斉藤理事官には報告をあげてある。大前コマンダー。一応、単独の事件として扱ってくれ。聞き込みは南部興信所を使っていいぞ。」「了解しました。」
「と言う訳で、当分休みなしやな。」と大前は皆に言った。
 午前11時。EITO大阪支部。会議室。
「今、殺人事件の被害者の身元照会が終って、資料を送ったところだが、花ヤンから重要な情報が入った。花ヤン、説明してくれ。」と小柳警視正が言った。
「被害者1。町屋桂子。17歳。被害者2。奥野真紀。20歳。どこかで聞き覚えがあった。実は、テレビ1大阪の連ドラに出てくる名前や。話は大雑把に言うと、女優に憧れた道上幸子が、色んな苦労を経て、ビッグな女優になっていく、というストーリー。主演の道上幸子は自分の本名芸名と同じ役名だということで話題になった。で、主人公のイジメ役というかライバル役が、町屋桂子、奥野真紀。木村未玖。偶然とは思えない。」
「詰まり、犯人は、そのドラマの配役と同姓同名の人物を惨殺したってこと?」とヘレンが叫んだ。
「あんまりや。名前が一緒やからって、フィクションやのに。」と、ジュンが言った。
「コマンダー。3人目の木村が危ないんとちゃうんかな?」と、ぎんが言った。
「俺もそう思った。花ヤン、3人目の木村は?」大前が花菱に尋ねると、「警察でも行方を追ってる。わしらも交友関係から、探してみる。もう仏さんになってないことを祈ってな。」と、応えた。
 南部興信所からの画面は消えた。
「我々は、主役の道上にも、念の為護衛を送った。馬鹿馬鹿しい話だが、フィクションと現実の区別がつかない人間は、たまにいる。皆が皆、犯罪に走る訳じゃないが。大前君、水門の聞き込みの応援に行ってくれ。」「了解しました。」
 大前が、皆に指示を出そうとした時、「あのー。」と紀子が台所から顔を出して、「あな・・・あ。コマンダー、チーフ。水門の聞き込みって、町屋桂子、奥野真紀を見かけたかって、付近に聞いて回るの?」と2人に尋ねた。
「うん、そうなるな。」と総子は応えた。「木村未玖は、聞かなくてええの?」と紀子は尋ねた。
 数秒考えた総子は、「3人とも聞く。ヘレン。木村の写真も送って貰って。」と言った。
「了解。」ヘレンはインカムを取った。
 午後2時。道頓堀川水門近くの喫茶店、モンテネグロ。
「3人とも来たことがあるんですか?」と尋ねたスーツ姿の総子の問いに、「ええ。お連れさんやないみたいでした。一人目の町屋さんが来られた直後に来られたカップルの女の方の方が、この木村さんって方ですね。少し離れた席に座られました。それから2日位経ってから、二人目の奥野さんが来られた直後に来られたカップルが、やはり離れた席に座られました。2日前のカップルです。何で覚えてるかって言うと、コーヒー一杯で粘って、町屋さんの時は町屋さんが出られた後に、奥野さんが来られた時には奥野さんが出られた後にカップルが出て行ったので。てっきり、興信所の方かと。南部さんみたいに。」と、店員は総子の名刺を見て言った。
「もし、木村さんが来られたら、連絡して下さい。あ。これ、少ないけど。」と、総子はVISAの商品券をそっと渡した。これは、以前、中津健二から教わったテクニックである。買収じゃないから、と簡単に協力者になって貰えるのである。これは、映画のチケットでも使える。
 喫茶店を出た時、総子に幸田から電話があった。「お嬢。木村は、1ヶ月くらい行方知れずで、木村は短大生やが、短大にも欠席してる。同級生に耳寄りなことを聞いたで。花ヤンが言ってた、ドラマの憎まれ役と同じ名前やからって、同級生から、虐められていたらしい。木村は女優やないのにな。因みに、町屋桂子を演じていたのは轟悦子、奥野真紀を演じていたのは水野新子。木村未玖を演じていたのは、木村未玖。本名は、内海多鶴子。駆け出しの女優や。主役の道上幸子を演じていたのは、売り出し中の道上幸子。」
「こっちはなあ、木村がカップルで喫茶店に町屋や奥野を尾行していた形跡があったことが分かった。」
「そうか。倉持からも報告があるで。」「所長夫人・・・あ、総子さん。所長からの連絡で、今夜、あのドラマのクランクアップ後の座談会がテレビ1大阪で行われます。亡くなった2人を除いて。録画です。」
「2人ともようやった。給料上げるように言うとくわ。」総子が言うと、「その冗談、もう聞き飽きたわ。ほなな。」幸田は電話を切った。
 午後7時。谷町4丁目付近。テレビ1大阪。第一スタジオ。
 局アナと、ドラマ出演の道上幸子、本物の木村未玖が集まっていた。
 覆面を被り、拳銃を持った男女が押し入った。シュータが跳んできて、彼らの拳銃は弾き跳ばされた。シュータとは、うろこ形の手裏剣で、先端に痺れ薬が塗ってある。
「参上、EITOエンジェルズ。木村未玖。観念しいや。弟の木村啓もな。このドラマの関係者を恨むのは筋違いやろ。恨むんやったら、そこにいる連中を恨めばいい。名前のソックリさんを恨むのもおかしい。」と、EITOエンジェルズ姿の総子は言った。
 スタジオ観覧席にいる数人が、EITOエンジェルズ姿のぎんらに寄って立たされ、異口同音に言い訳をした。
「申し訳ない。冗談が過ぎた。話の切っ掛けだけで良かったのに。ごめんなさい。」「悪気は無かったのよ。てっきり冗談に乗ってくれていると思っていた。」「俺達が鈍感やったんや。」
 総子は、長波ホイッスルを吹いた。長波ホイッスルとは、犬笛のような特殊な音波の笛で、主に警官隊への合図に使われる。警官隊がやって来て、木村兄弟を逮捕連行した。
「後悔の念があるなら、裁判で証言してやってくれ。自分たちが原因やと。」総子は、観覧席に立っている、木村の同級生に言った。
 総子達、EITOエンジェルズは、さっさと退場しようとした。
「EITOエンジェルズさん、私たちも裁判で証言します。少しでも情状酌量が出来るのなら。私たちも、何らかの虐めにあって、乗り越えて来たんです。」
 頭を下げている、女優の道上と木村に「立派な女優さんらや。あんたらの演技が上手すぎて、混乱した奴らがいたということやな。頑張って下さい。」と総子は言って、頭を下げた。
 EITOエンジェルズは退場した。
 午後8時。総子のマンション。
「紀ちゃんのカンが大当たりやな。幸田の話やと、リーダー格の3人以外は、白けてたが、暴走をよう止めんかったらしい。『冗談は休み休み』言って、様子を見んとな。」と、南部は言った。
「兄ちゃんも似たようなこと言うてた。虐めてる人間は、鈍感やから気がつきにくい。止めてくれ、っと言うのも勇気がいるからなあ、って。」と総子が言うと、「不思議やナア。EITOエンジェルズは、虐めの経験者ばっかりや。紀ちゃんも、もうすっかりEITOエンジェルズやな。」と南部は笑顔になった。
「うん。エエ嫁さんになったな。」という総子に「総ちゃんもエエ嫁さんになった、って、総帥が言うてました。」と知子は言い、「ほな、お先に。」と帰って行った。
「エエ嫁さんに今日は充分サービスしてや、ダーリン。ドリンクきれてないし。」
 南部は、黙って、風呂のタイマーをセットしに行った。
「ええ、旦那や。」と、総子は、にっこり笑った。
 ―完―

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