大文字伝子が行く

180．アマゾネス対エマージェンシーガールズ（前編）

　＝＝＝＝＝＝＝＝　この物語はあくまでもフィクションです　＝＝＝＝＝＝＝＝＝
　==============　主な登場人物　================
　大文字伝子・・・主人公。翻訳家。DDリーダー。EITOではアンバサダーまたは行動隊長と呼ばれている。。
　大文字（高遠）学・・・伝子の、大学翻訳部の3年後輩。伝子の婿養子。小説家。EITOのアナザー・インテリジェンスと呼ばれている。
　一ノ瀬（橘）なぎさ一等陸佐・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。皆には「一佐」または副隊長と呼ばれている。EITO副隊長。
　久保田（渡辺）あつこ警視・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。皆には「警視」と呼ばれている。EITO副隊長。
　久保田警部補）・・・愛宕の先輩刑事だった。あつこの夫。久保田管理官の甥。
　愛宕（白藤）みちる警部補・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。愛宕の妻。EITO副隊長。
　愛宕寛治警部・・・伝子の中学の書道部の後輩。丸髷警察署の生活安全課刑事。
　斉藤理事官・・・EITO司令官。EITO創設者。
　夏目警視正・・・EITO副司令官。夏目リサーチを経営している。EITO副司令官。
　村越警視正・・・副総監付きの警察官幹部。あつこがEITOに移ってから、副総監の秘書役を行っている。
　増田はるか3等海尉・・・海自からのEITO出向。副隊長補佐。
　金森和子二尉・・・空自からのEITO出向。副隊長補佐。
　馬場力（ちから）3等空佐・・・空自からのEITO出向。
　馬越友理奈二曹・・・空自からのEITO出向。
　大町恵津子一曹・・・陸自からのEITO出向。
　田坂ちえみ一曹・・・陸自からのEITO出向。
　浜田なお三曹・・・空自からのEITO出向。
　新町あかり巡査・・・みちるの後輩。丸髷署からの出向。副隊長補佐。
　結城たまき警部・・・警視庁捜査一課からの出向。
　安藤詩三曹・・・海自からのEITO出向。
　日向さやか（ひなたさやか）一佐・・空自からのEITO出向。伝子の影武者担当。
　飯星満里奈・・・元陸自看護官。EITOに就職。
　稲森花純一曹・・・海自からのEITO出向。
　愛川静音（しずね）・・・ある事件で、伝子に炎の中から救われる。EITOに就職。
　工藤由香・・・元白バイ隊隊長。警視庁からEITO出向。
　江南（えなみ）美由紀警部補・・・元警視庁警察犬チーム班長。EITOに就職。
　伊知地満子二曹・・空自からのEITO出向。ブーメランが得意。伝子の影武者担当。
　葉月玲奈二曹・・・海自からのEITO出向。
　越後網子二曹・・・陸自からのEITO出向。
　小坂雅巡査・・・元高速エリア署勤務。警視庁から出向。
　下條梅子巡査・・・元高島署勤務。警視庁から出向。
　高木貢一曹・・・陸自からのEITO出向。剣道が得意。
　筒井隆昭・・・伝子の大学時代の同級生。警視庁からEITO出向の警部。伝子の同級生。
　青山たかし元警部補・・・以前は丸髷署生活安全課勤務だったが、退職。EITOに再就職した。
　河野事務官・・・警視庁からのEITO出向。
　財前直巳一曹・・・財前一郎の姪。空自からのEITO出向。
　仁礼らいむ一曹・・・仁礼海将の大姪。海自からのEITO出向。
　橋爪警部補・・・丸髷署生活安全課刑事。愛宕の相棒。
　久保田管理官・・・EITO前司令官。斉藤理事官の命で、伝子達をEITOにスカウトした。
　服部源一郎・・・南原と同様、伝子の高校のコーラス部後輩。
　服部（麻宮）コウ・・・服部の妻。
　渡伸也一曹・・・EITOの自衛官チーム。GPSほか自衛隊のシステム担当。
　草薙あきら・・・EITOの警察官チーム。特別事務官。ホワイトハッカーの異名を持つ。
　大文字綾子・・・伝子の母。介護士をしている。
　芦屋三美（みつみ）・・・芦屋財閥総帥。総合商社芦屋会長。EITO大阪支部のスポンサー。伝子の従妹の総子からは『みつみネエ』と呼ばれている。
　須藤桃子医官・・・陸自からのEITO出向。基本的に診療室勤務。
　みゆき出版社編集長山村・・・伝子と高遠が原稿を収めている、出版社の編集長。
　守谷哲夫・・・SAT隊長。
　東山英一・・・SAT副隊長。
　木更津源太・・・SAT班長。
　北村和樹・・・海上保安庁職員。
　市橋早苗総理・・・移民党の現総理。
　麻生島太郎・・・移民党副総裁。副総理。
　水田美祢・・・移民党選挙対策委員長。
　紅敦夫・・・服部の歌を歌う筈だった歌手。
　大前英雄・・・EITO大阪支部コマンダー。

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　==EITOとは、Emergency Information Against Terrorism Organizationを指す==
　==エマージェンシーガールズとは、女性だけのEITO本部の精鋭部隊である。==

　午前11時。EITO本部。司令室。
　伝子は、皆に休みを取らせ、自分となぎさだけ出勤していた。
「模倣犯？」と、思わず、なぎさは叫んだ。
　ディスプレイには、大阪支部の大前が映っている。
「アルフィーズって名乗ってましたけど、半グレの漆原商会の社員が『企画・立案』したらしいんですわ。三美がよう口にする『日本分断』じゃなくて、個人的な復讐ですわ。黒幕は、前の前の大阪市長の平田。半グレの漆原とは中学校の同級生。」
「復讐って・・・あ、一心の会への復讐ですか？確か、前の補欠選挙でも、平田の押す候補者がボロ負けだったとか。」「その通り。流石伝子さんや。」
「それで、ストリーキングですか。あざ笑う為の。」と伝子が言うと、「そう。でも、二美がいち早く気づいて撮影を妨害した。長波ホイッスルにそんな使い方あるなんて知らんかったわ。」と大前が言った。
「実は、二美のアイディアが採用されて、初お目見えよ。」と、芦屋三美が入って来て言った。
「あれ？まだ東京におったん？三美は忙しいな。総帥やもんな。」「ふふ。まあね。副島邸の改修は、結構時間がかかるのよ。しかし、盲点ねえ。平田なら、もう美術品ないこと分かってた筈だし、犯人のセンは誰も考えない。」
「大前さん、警備員がグルだったって聞いたけど、美術品は確認しなかったの？というか、偽物と分かった後、どうする段取りだったのかしら？」
「鬼の警部さんの取り調べでゲロしたのは、目的が身代金でも美術品でもないこと。漆原は『ドッキリ』だからと乗せられたらしい。代表は開放する予定だったと。」
「詰まり、目的は、二美さんが妨害した撮影映像？」と、なぎさは呆れて言った。
「そういうこと。秘書達がどうにか工場跡に到着したら、平田が登場して、今後選挙には、一心の会が負けることを約束させる積もりやったらしい。その映像をネタに。」
「呆れたな。こんな犯罪、見たことも聞いたこともない。吉本知事から総理にも報告が上がったらしいよ。」と、言いながら久保田管理官が入って来た。
　午後3時。伝子のマンション。
　伝子が、送ってきた、なぎさとドアを開けると、歌声が聞こえて来た。
　服部とコウだ。
「聞いたことない曲だな。」と伝子が言うと、「そりゃそうだよ、これから出る曲だから。」と、高遠が応えた。
「今度、僕が契約したレコード会社で出すＣＤです。紅敦夫って名前、聞いたこと・・・ないですよね。たまにテレビに出てるけど、先輩見る暇ないものなあ。僕は楽曲提供だけだから、曲が売れるまで待つだけだけど。」
　服部の話は、実る可能性が無くなった。
　午後7時。
　服部達が帰った後、綾子が来たので、カレーを煮込んで夕飯にしていた。
　綾子がテレビを点けて、臨時ニュースを観た伝子は叫んだ。
「くれない、って・・・服部の歌・・・。」
　伝子はスプーンを落とし、高遠は綾子に歌の話をした。
　紅は、自宅にて、死体で発見された。スケジュールの打ち合わせに来たマネージャーが発見したのだ。凶器のナイフは胸に刺さったままだった。
　なぎさがスマホで連絡をしてきた。「おねえさま。夕飯の途中かも知れないけど・・・今、オスプレイで向かっています。」
　伝子は大急ぎで食事をし、支度をした。高遠は、台所に行き、『出撃』の準備をした。
　暫くは、使っていなかったが、緊急の場合は以前のように台所から出撃することになっていた。
　伝子のスマホは鳴動したが、伝子は取り敢えず無視した。今度は高遠のスマホだ。
「母さん。取り敢えず出て！」着替え終った伝子は荷物を持って、台所に向かうと、縄梯子が降りて来た。縄梯子に飛び乗った伝子に、あうんの呼吸で高遠が荷物を渡した。
　伝子が空に消えて、台所のハッチ（緊急出入り口）を閉めると、高遠は綾子の方に向かった。
「服部君よ。泣いてる。」スマホを受け取ると、電話を替わった。「もしもし・・・。」
　午後8時。EITO本部。司令室。
「公表はしていないが、紅の死体に、こんな紙片があった。河野君、出して。」
　理事官の言葉に、河野事務官はディスプレイに紙片の写真を出した。
　[裏切り者は、こいつだ。]
「裏切り者？」伝子が首を傾げると、草薙が「アンバサダー。これを見て下さい。ほんの10分前にRedに出てきたメッセージです。今回は文字だけです。」と言った。
　草薙のPCを見ると、そこにはRedを利用したサンドシンドロームのメッセージが現れていた。
　《
　裏切り者が出た。すぐに処刑した。お陰で、今度の作戦は遅れる。気をつけろ、日本の警察、EITO、そして、自衛隊。お前達の中でも、裏切り者はいるかもしれないぞ。サンドシンドローム。
　》
「タイミングから言って、紅は、何らかの関係があったのだろうな、サンドシンドロームと。いや、ダークレインボーかも知れないが。」と、理事官は言った。
　夏目警視正は言った。「大文字君と一佐は、今夜はEITO仮眠室に泊まってくれ。会議は明朝行う。」「了解しました。」と2人は応えた。
　午後9時半。仮眠室。
「なぎさ。偶然とは思えないんだ。やっぱり、私は後輩達に禍をもたらせている。」
「そんなことは、ないわ。おねえさま。前回の誘拐事件のこと、まだ気にしているのね。みんな分かっているのよ。いつも危険と隣り合わせだということを。DDメンバーもEITOの隊員達も。私たちは、おねえさまと共に生きて行くわ。好き。」
　なぎさは、伝子の唇を無理矢理奪った。だが、それ以上は何もしなかった。
　なぎさは消灯した。伝子は何も言わなかった。
　翌日。午前9時。EITO本部。会議室。
「警視。まずは、検視報告だ。」と、理事官は言った。
「紅敦夫。本名、多田和夫。42歳。スカイレコード株式会社所属の中堅歌謡曲歌手です。実は、彼は、おねえさまの後輩の服部源一郎氏の曲を歌う予定でした。」
　あつこの言葉に、「服部君と言えば、一ノ瀬君の葬儀で歌ってくれた人だよね。」と理事官は言った。
「そうです。今日、服部氏の歌をレコーディングする予定で、マネージャーが打ち合わせに訪ねて、死体を発見しました。井関さんの話だと、凶器のナイフが胸に刺さったままだったそうです。それで栓をした形になり、血の海では無かった。」「やだあ。」と思わず下條が言い、あかりが「静かに。」と窘めた。
「見せしめ、ですかね。」と、青山が言った。
「多田は、ダークレインボーの『幹』、だったのかな？サンドシンドロームの部下、つまり、『枝』だったら、何も公表することはないだろう。」と筒井が言い、「我々への宣戦布告とも取れる文章だな。作戦が遅れる、というのは、有り難くはあるが、どう対処すべきなのか、分からない。」と伝子は言った。
「警視庁で、単なる強盗殺人ではないと見て、徹底的に調べるそうだ。詳細は、こちらとも連携を取るので、報告が来るだろう。一旦、解散だ。急ぎの用のある者は、今の内に片づけておけ。」
　午後1時。伝子のマンション。
「服部君、気の毒にね。お蔵入りになるのかしら？」と綾子が言った。
「事件が解決してから、何とかしなくては、ね。山村編集長に知恵を出して下さい、って頼んでおきましたけどね。なぎさちゃんに頼まれましたよ。伝子が自分を責めているから、見守ってくれって。」「本当に、『妹』みたいね。でも、婿殿。伝子が原因で襲われたって確実に言えないのよね。」「ええ。」「私たちには、見守るしか出来ないわね。」
　翌日。午前8時。
　Redに、突然サンドシンドロームのメッセージが現れた。今回は、アバターがしゃべる、リール動画のリンク付きだ。
　《
　EITOの諸君。
　東京と言えば、大都会だと思っていたが、『5町8村』というのがあるそうだな。そのどこかに、麻生島副総理の私物と時限爆弾がある。探し出して、そこにある紙片の場所にエマージェンシーガールズを招待する。そこに、市橋総理の私物があるから、ちからづくで取り返しに来い。ゲームの制限時間は24時間だ。場所を解けたら、24時間後にそこへ濃い。
　》
　午前9時。EITO会議室。
「24時間後、とあるから、アップロードしたのが午前8時だから、明日の午前8時に、指定場所に行かなければならん。」
　理事官に続いて、草薙が、「以前、東京都の観光キャンペーンを利用した事件で回った島もあります。」と言い、あつこが、プリンター室から、地図を持って来た。
「なぎさ。すぐに班分けを考えてくれ。理事官。海自は？海上保安庁は？」と伝子が等と、「既に協力要請済みだ。それから、仁礼海将と通信が繋がっている。渡、出してくれ。」と渡に命令した。
　ディスプレイに仁礼海将が出た。
「おはよう、EITOの諸君。増田、稲森、安藤、葉月、らいむ。元気でやっているか？増田は、今日から一等海尉だ。おめでとう。増田は実は私の娘だ。だが、。身びいきで昇進したんじゃない。理事官と大文字君の推薦があったからこそだ。」
　エマージェンシーガールズは、皆驚いた。新人の仁礼らいむは海将の大姪ということは知られているが、増田のことは初耳だからだ。
「さて、今回海上保安庁と協同で移民党選挙対策委員長の水田議員を救出する作戦に参加する。Redでは明らかになっていなかったが、水田議員は今朝誘拐された。誘拐する前にアップロードしたようだ。副総理は、『私物じゃない、宝物だ』と怒っておられる。5人は、気を引き締めて、指揮に従え。以上だ。」
「確かに、私物じゃないわ。酷い。モノ扱いなんて。あ・・・ひょっとしたら。」
「伊地知隊員の懸念通り。市橋総理から通信が入っています。」と、渡が言った。
「理事官。大文字さん。お願いします。私の『孫』を助けて下さい。今朝、幼稚園の送迎バスに乗り込む時に誘拐されたの。」「はい。必ず。」と、伝子は総理に短く応えた。
　ディスプレイから映像が消えると、越後が「お孫さんがいるように見えなかったわ、今までの印象だけど。」と呟いた。
「越後。女は化けるのよ。お前も幾らでも化けられるわ。」と、あつこが言った。
「あつこ、冗談言ってる場合じゃ無いわ。」と、珍しく、みちるが窘めた。
「ごめん。みんな、ホワイトボードを見て。東京5町8村っていうのは、これ。」
　ホワイトボードには、箇条書きで一覧があった。
　―完―