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223.弱者と強者

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 ======== この物語はあくまでもフィクションです =========
 ============== 主な登場人物 ================
 大文字伝子・・・主人公。翻訳家。DDリーダー。EITOではアンバサダーまたは行動隊長と呼ばれている。。
 大文字(高遠)学・・・伝子の、大学翻訳部の3年後輩。伝子の婿養子。小説家。EITOのアナザー・インテリジェンスと呼ばれている。
 斉藤理事官・・・EITO司令官。EITO創設者。
 夏目警視正・・・EITO副司令官。夏目リサーチを経営している。EITO副司令官。
 久保田管理官・・・EITO初代司令官。あつこの夫の久保田警部補の叔父。
 大文字綾子・・・伝子の母。介護士をしている。
 藤井康子・・・伝子のお隣さん。EITO準隊員。
 西部警部補・・・高速エリア署刑事。
 早乙女巡査部長・・・元EITO出向隊員。今は島之内署交番勤務。
 元結城たまき警部・・・警視庁捜査一課の刑事。警視庁からのEITO出向。
 早乙女所縁(ゆかり)・・・早乙女の長女。高校3年生。
 早乙女弓弦(ゆずる)・・・早乙女の長男。中学3年生。
 早乙女柚葉(ゆずは)・・・早乙女の次女。小学5年生。
 熊倉太郎・・・早乙女の兄。怪我をして入院していた。
 熊倉夏美・・・熊倉の娘。早乙女の姪。
 物部一朗太・・・伝子の大学の翻訳部の副部長。同級生の逢坂栞と結婚し、1児を設けた。
 内藤久女(ないとうひさめ)・・・なぎさが出逢ったウーマン銭湯の客。実はコンティニューだった。
 牧場冬吉・・・南部興信所に浮気調査を依頼した、依頼人。実は久女の義理の弟。
 牧場映子・・・牧場の妻と思われていた。元女子プロレスラー。実は久女の娘。
 大仏(おさらぎ)達夫・・・映子の浮気相手と思われていた。実は、映子の友人。

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 ==EITOとは、Emergency Information Against Terrorism Organizationを指す==
 ==エマージェンシーガールズとは、女性だけのEITO本部の精鋭部隊である。==

 1月16日。午後1時。伝子のマンション。
 早乙女巡査部長、結城警部、西部警備補が来ていた。婚約の報告だった。
「再婚?二人とも?」「ええ。もう、ゆかりもゆずるも、おじさんじゃなくて、お父さんって呼んでます。」
 早乙女が、伝子にそう答えた時、早乙女のスマホが鳴動した。
「ああ、ゆずる。かあさんね、今・・・。」早乙女は言葉を失い、気絶した。
 木を利かせた西部がスマホのスピーカーをオンにして、電話に出た。
「もしもし、ゆずる君?どうした?」「おじさん、いや、おとうさん。ゆずはが・・・ゆずはが轢き殺された。僕たちの見ている前で。」
 午後3時。本庄病院。霊安室。
 泣き崩れる、早乙女愛、所縁、弓弦。立ち尽くす、西部警部補。
 手を合せ、拝んだ伝子、高遠、結城、久保田管理官が出て行く。
 伝子達は、廊下を出て、ロビーに出た。車椅子を押してやってくる女性とすれ違い、身内と判断した皆は黙礼をした。
 ロビー。
 久保田管理官が、重い口を開いた。
「病院に退院の祝いに来ていたそうだ。早乙女君の兄、熊倉太郎が入院していた。早乙女君の姪の夏美が、早乙女君の子供を送る為に駐車場に向かった一瞬だった。目撃者の証言によると、急発進した車のドライバーは笑ったそうだ。そして、走り去った。Nシステムで割り出したナンバーの、その車は、盗難車だった。」
「管理官。じゃ、早乙女さんの子供さんは、狙って轢き殺された、ってことですか?」「そういうことになるな。」久保田管理官は、結城に応えた。
「大文字君。ひょっとしたら、EITOの案件になるかも知れんな。」
 午後4時。伝子のマンション。
 伝子達を送って来た結城は帰って行った。
 伝子はLinenのビデオ電話を繋いだ。忙しいと思ったが、物部はすぐに出た。
「大文字。ネットでもテレビでもいいから、すぐに見ろ。」
 聞いていた高遠がテレビを点けると、見たこともない男がニュースで流れ、Tick Tackのリール動画に映っている。
 《
 初めまして。『怪人二十一面相』です。ご挨拶代わりに、子供を轢き殺してあげたよ。どこの誰か?調べれば、すぐに分かるよ。日本のマスコミは優秀だからね。
 》
 ドライブレコーダーの画像で、凄惨な現場を忠実に映している。
 EITO用のPCが起動した。伝子は物部に礼を言って、電話を切った。
「大文字君。新たな敵の登場だ。『怪人二十一面相です。』って言っていたが・・・。」
 理事官の言葉に、「いや、財前とは無関係でしょう。奴は、コンティニューが言った『ナチュラル・デプス』です。深い意味があるかどうかは分からないが、『自然な奥行』という意味です。マスコミを脅しているんです。そして、警察を。」と伝子は応えた。
「先制攻撃ですね。正しく。早乙女さんの素性を知ってて、手をかけた、としか思えない。」と、高遠は言った。
「コンティニューは調べた詳細データを次の者に教えない、と言っていたんじゃなかったかね?」「コンティニュー、いや、内藤久女はね。思い出して下さい。あの意味深な『縦読み』が含まれた詩を。折句の詩を。あれは、暴走する『枝』を止めようとしていた。暴走する『枝』は、もう一人いた。元女子プロレスラー、いや、プロレスラー志願だった、映子です。映子は、組織の忠実な僕だった。だから、久女は映子に知られないように暴走を止めさせようとしていた。映子は、全部ではなくても久女の集めたデータを漏らした可能性ならあるかも知れない。その中の情報が、『EITO退職者』である早乙女さんの情報かも知れない。映子のアジトは分かっているんですか?」と、高遠は理事官に尋ねた。
「いや・・・叔父の牧場は、浮気現場に踏み込む、と言って幸田所員と共に大仏を訪ねた。実は、大仏は浮気相手ではなかった。捕まった大仏は、友人だった、と言っていたそうだ。そうか、大仏のヤサだ。高遠君。何か手掛かりがあると思うのかね?」
 理事官の問いに、「それと、牧場はICレコーダーを伝子に託しました。そちらも何か手掛かりが残されているかも。」と、高遠は言った。
「流石はエーアイだ。大仏のヤサは家宅捜索させよう。本人は拘置しているが、案外何も知らないかも知れない。それと、録音データをとる為に、ICレコーダーはまだ、秘密基地にある。大蔵君に頼もう。」
 画面は消えた。
「私、介護士仲間がインフルエンザにかかっちゃったみたいだから、ピンチヒッターで、行くわ、伝子。」「分かった。気をつけてな。追跡装置が妙な行き先示したら、すぐに追いかける。」「うん。」
 伝子は分かっていた。早乙女の娘のことは、やはり自分の責任だと、伝子が自分を責めるだろうことを。救えるのは、高遠以外にいないことも。
 伝子は、言葉とは裏腹に、増田に陰ながら綾子を保護するように、増田に指示した。
「早乙女さんの方は、結城さんを残してきた。何か情報があれば、知らせて来るだろう。」「了解しました。副隊長は?」「何か言ってきたら、私が対処する。」「了解。」
 午後6時。
 二人でお好み焼きを焼いていたら、EITO用のPCが起動した。夏目警視正だった。
「久保田管理官も斉藤理事官もマスコミ対応で多忙だ。まずは、朗報だ。大仏のPCから、映子が那珂国へ送ったメールのバックアップが見つかった。相手のアドレスはもう存在しない。それと、警視庁サイバーセキュリティ班の水島警視正によると、ハッキングの形跡がある、という。これも残骸でしかないが、海外のサーバーを幾つも経由している。恐らく、アイラブ系のテロリスト組織がハッキングしたのではないか、ということだ。」
「じゃ、本日新聞社や欲目新聞社を襲撃した犯人達は、コンティニューから情報を提供されたんじゃなくて、横取りしたんですね。」と、高遠は確認した。
「そういうことだ。それと、大蔵部長の班が、ICレコーダーの中に、余分なICチップを発見した。それは、EITOに関する、あらゆるデータだ。勿論、早乙女データもある。だから、全部漏れた、とは考えにくい。牧場は、予め久女に託されていたんだ。金属プレートを残したのは、牧場だ。殺して道着を着せたのも牧場だ。」
「夏目さん、映子に、早乙女さん情報を得たのはいつか、確認する必要があるかも知れませんね。ハッキングしていたのは、アイラブ系だけではないかも知れない。」
「高遠君。それがデプスだと?」「そうです。案外、アイラブ系もフェイクかも知れない。」
「分かった。明日の会議で検討しよう。それと、早乙女さんの娘のお通夜は明後日になるらしい。」「了解しました。」
「大文字君。さっきから、黙っているが・・・。」「あ。大丈夫です。明日は午前9時でいいですね。」「ああ、警視が向かえに行く。」
 通信は切れた。高遠が見ると、やはり伝子は泣いていた。
 高遠は、黙って、二人の子供おさむの写真を渡した。「夕飯は後にしよう、伝子。」
 そして、伝子の手を引きながら、寝室に向かった。
 高遠は、衣類を脱ぎながら、がむしゃらに高遠を求める伝子の衣類を脱がした。
 そして、考えていた。これからも、伝子は辛い決断をしていかなければいけないだろう。僕が支えなければいけない。息子も妻も守らなければいけない。
「あなた。」「何だい。」「愛してる。」「知ってる。」「私も。」
 隣の、藤井家。
 藤井は、伝子と高遠が寝室に入ると、モニターを消した。藤井の所には、大文字家のセキュリティーシステムがあり、異変があるかどうかモニター出来る。
「私は、出歯亀じゃないし。夕飯がお好み焼きっていうのも悪くないわね。」
 藤井は、総子に貰った、関西風お好み焼きのレシピを取り出し、調理にかかった。
 ふと、台所の窓を見ると、外に白いものが見えた。
 藤井は鼻歌を歌った。先日、服部が持ってきたレコードの曲だ。

 さよならは誰に言う
 さよならは悲しみに
 雨の降る日を待って
 さらば涙と言おう
 頬をぬらす涙は 誰にもみせない
 こらえきれぬ時には 小雨に流そう
 さみしさも 悲しさも
 いくたびか出逢うだろう
 だけどそんな時でも
 さらば涙と言おう

(阿久悠:作詞、鈴木邦彦:作曲、森田健作:歌)
 ―完―


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