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ゆりすみれ

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18【眞空Diary】本気の友人

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「さっきの、何?」

 すべての授業が終わったあとで、眞空は手持ち無沙汰に机の上に置いた手を見つめながらおそるおそる純一に訊いた。二人は席についたままで、純一が横向きに座り後ろの席の眞空と対面している。クラスメートは帰り支度をしたり、部活に行く準備をしたり、寄り道の計画を立てながら談笑したりとざわついていた。

「そのままの意味だし、本気だって言っただろ」

 悪びれることも惑うこともなく、純一はしれっと答えた。眞空はデジャヴかと思い背筋がぞっとする感覚を思い出す。そういえば海斗も最初はこんな風にあっけらかんとしていた……どいつもこいつも……人の気も知らないで!

「す、すきって……冬夜、確かに美形かもしれないけど、あれでしっかり男だぞ!? 血迷ったのか!?」

「んなこと知ってるし、関係ない。……一応おまえには許可取っとこうと思って。おまえあいつの兄貴だし、俺の親友だし。親友に隠しごとは嫌だからな」

 親友と言われ、眞空は反射的にどきっとした。純一に親友と認めてもらえたのはうれしいし、もちろん眞空も純一のことを親友と思っていることに嘘はない。だが眞空はその親友に、家族の真実も冬夜への想いも何も話せていなかった。

 ……家族のことを話せなかったのは、冬夜と血がつながっていないことが知られたら、おれが冬夜の兄貴だと胸を張って言えなくなりそうだったから。冬夜を無条件に独占する権利を失ってしまうのが怖かったから。隠しごとだらけの自分は、純一の友を信じてくれている誠実な瞳をまっすぐに見る資格がない。

「きょ、許可ってなんだよ」

「あれ? おまえがいつもべったりブラコンなのって、冬夜に女だの男だののヘンなムシが付かないようにっていうナイトのつもりだったんじゃねぇの? 牽制してるんだと思ってたから」

「け、牽制? ……っていうか、なんで急にこんなこと」

「急じゃねぇよ。俺は冬夜が陸上部に入部してきたときからずっと好きだった。確かに初めは一目惚れだったけど、陸部であいつと一緒にいるうちに冬夜の内面にもすげぇ惚れた。……あいつ末っ子っぽいイメージあるけど、ほんとはすげぇしっかりしてんじゃん。二つも年下なのに、時々驚かされるほど大人びてたりして。人として尊敬してるし、いとおしいとも思う。ちゃんと、恋だよ」

 純一は、秀春も亜楼も海斗も知らないはずの冬夜のさとさを見抜いていた。眞空はそれを近しい兄だけが知っている特権と思い自惚れているところがあったので、純一の鋭い観察眼を憎らしく思ってしまう。純一は上辺だけじゃないそういう冬夜を知って好きになっている。本気なんだ、と眞空は身構えた。

「おまえら兄弟仲いいだろ? 俺情けねぇけどさ、兄のおまえにもちょっと妬くんだよ。弟がかわいくて仕方ないのはわかるけど、これからはもうちょい遠慮しろよな。俺みたいに思ってるやつ、他にもいっぱいいるぜ、きっと」

 そう言って苦笑する純一は、少し余裕がないようにも見えた。あんなにはっきりと本気だよと言える強さを持っている純一でさえこうやって臆病になってしまうのかと、眞空は人をちゃんと好きになることの危うさを思い知らされる。

「許可、下りる?」

「だ、だからなんの許可だよ」

「俺が冬夜をいただく許可」

 己の弱さを露呈させるような苦笑から一転、純一はにやりと含みのある笑い方で眞空を見た。自分をからかっているような表情を見て、やっぱりこいつは食えないやつだと確信する。

「なんでおれにそんなこと……お、おれには関係ねぇし」

「あ、そう。じゃあ遠慮なくアプローチさせていただきますよ、お兄さん?」

「あ? なんだよそれ……」

「おっと、そろそろ部活行かねぇと。冬夜と秘密の居残り練だ。つーわけでお兄さんの許可はもらったから、あとは俺の好きなようにさせてもらうわ。じゃ、行ってくる」

 純一は適当に用具を引っつかんでかばんに詰めると、眞空に背を向けたまま片手を上げ、そのまま教室を出て行った。

「お、おい……おれは許可を出した覚えはねぇぞ!」

 引きとめようと伸ばした眞空の右手は、いつかの朝に冬夜にしたのと同じように、またしても虚しく空を切り裂くだけだった。

 ……これって、純一がライバルってこと……だよな!? やばい、あいつは海斗寄りの行動主義の人種だ。うかうかしてたらまじで冬夜をとられる……ど、どうする!?

「あぁーもうっ、どうなってんだぁぁぁーっ!」

 どいつもこいつも好き勝手言いやがって! と眞空がついに発狂すると、クラスメートたちが何事かと遠巻きに様子をうががう。

「眞空が叫んでる!?」
「普段は大人しい子なのにね……」
「そういや2組の海斗も今日屋上で叫んでたらしいよ」
「双子ってやっぱ通じるんだな」
「そっとしとこうぜ……」

 クラスメートたちが気を遣ってそっとしてくれていることもつゆ知らず、純一も、海斗も、自由すぎなんだよ! と眞空は心の中で何度も友と兄を責め続けた。
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